1異常な教室
「転校生を紹介します」
「隣の県から引っ越してきました『平和子(たいらかずこ)』です。よろしくお願いします」
私は親の仕事の都合で引っ越しをすることが多い。高校2年生のGW明け、新しい学校での生活が始まった。小学校のころから繰り返されてきた教壇前での自己紹介にも、すっかり慣れてしまった。
「では、真ん中の一番後ろの席が空いていますので、そこに座ってください」
担任は、やけに肌がツルツルのスラリとした、長身のモデル体型の若い男性だった。いや、この担任に限らず、私が教室に入るまでに見かけた生徒や先生ほぼすべてが、ツルツルでニキビやシミ一つない肌をしていた。さらには、ぽっちゃり体型や、デブ体型の人間を一人も見かけなかった。担任のようなスラリとした体躯の人間ばかりだった。
「平さん?」
「は、はい。後ろの席ですよね」
教壇の前で自己紹介をすると、教室全体を見渡すことができる。そこで見た光景に、今朝学校に来るまでに見かけた先生や生徒たちを思い出してしまい、返事が遅れてしまった。
指示された席に向かうためには、生徒の机が並ぶ間を抜ける必要がある。特に緊張することなく、机の間を歩いていくと、奇妙な香りがそこかしこから漂ってくる。そういえば、これらの香りは、教室に向かう途中でも感じた。フローラルや、ラベンダー、レモンにシトラス、有名どころの香料の甘い匂いが教室中に充満していたことに今さながらに気付く。
「朝のHRはこれで終了です。では、今日も一日頑張りましょう」
私が席に着いたことを確認し、担任が朝のHR終わりの挨拶を始めた。担任の爽やかな声が教室に響いた。
「ねえ、あの転校生やばくない?」
「うん、めっちゃやばいって。よくあんな恰好でうちの学校に来れたよね」
「そうそう、頭いかれてんじゃないの」
「でもさ、あの子を見てると、私の昔を思い出すわ」
「わかるわかる」
休み時間、私に近寄ってくる生徒は珍しく少なかった。今までの転校先では、興味津々に男女問わず転校生の私に近づいてきたので、今回の状況に拍子抜けした。しかし、その理由はすぐにわかることになった。どうやら、私の容姿がクラスメイトの不興を買ったらしい。
別に自分の容姿に自信があるわけでもないが、そこまで劣っているとは思っていない。平均より高い身長で、体重も身長のわりに軽いと思う。肌だって、多少荒れているとは言え、ニキビもできないように気を付けているし、日焼け対策も頑張っている。
とはいえ、クラスメイト達の姿を見れば、私の頑張りなど無に等しいと言えるだろう。学校に来てから思ったが、あまりにも女性や男性の美の理想像に近い生徒や先生が多すぎる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます