3-1 ジャイダ・シティスプリント・ペア
権力を大いに使用した開発も大詰めとなった頃、テティスから青い鳥が届いた。
『ベベルさんからレースのお誘いが来ています。興味があるなら、一度トトガンナに戻ってきてください』
「……トッテマさん、そろそろ実地試験をしてみるのはどうですか?」
テティスの小綺麗な文字を見つめて、リパゼルカは一心不乱に計算を重ねているトッテマに尋ねた。
ここ数ヶ月、リパゼルカは開発に意見を出す他、魔法力鍛錬、飛翔訓練、データの収集、稼働テストを繰り返しており、長らくレースからは遠ざかっている。
新たな装備の開発は急務だが、レースに出たくてうずうずしていた。
トッテマは顔を上げ、一言。
「ダメだ」
「そこをなんとか!」
「なんともならん」
しらーっとした目でリパゼルカを見て、
「飛翔中に魔法力が暴走して、ぐちゃっ、となっても許容できるなら良い」
「うっ……」
ぐちゃっとなるのはもはや生存が不可能な表現なのでは。
リパゼルカの腰は引けていたが、それはそれとして、そろそろレースで賞金を稼ぎたい事情もある。
開発にあたって、領都に長期間滞在していて、相当な資金が目減りしている。トッテマにもかなり資金を負担してもらっているが、開発には金が要るのだ。
<朝露>クラスならともかく、<暁天>のレースならこの新装備がなくては優勝するのは難しい。
しかし、安全性においていささかの不安があった。
「今日、明日で解決したりは……」
「するわけないだろう、たわけめ」
「ですよね……」
がっくりと肩を落とすリパゼルカ。
申し訳ないが断ることにしようと思った。<暁天>で表彰台に登れないのであれば、行って帰っての魔導列車費用を考えたら参加するメリットが見えない。
それこそ<朝露>ならばダイナクルスで開催されるレースでも良いわけであるし。
テティスの手紙を裏返し、断りの文句を容れようとしたところで、トッテマがふと思いついたかのように言った。
「ああ……そういえば、アレがあったな。アレの試用なら構わんぞ」
「アレって……」
「研究の副産物を利用して、いくつか作った試作の補給食があっただろう。レースにどれほど効果が見込めるか、その辺りのデータを取ってきてくれ。結果が出そうなら、そちらも併用していこう」
「え゛っ」
予想外の展開にリパゼルカは声を硬くした。
味見した際の記憶が、拒否反応を示す。
「なんだ、その反応は。本来はきっちり睡眠取るなり休まないとはっきり回復しない魔法力が、食物を摂取するだけで回復していくんだぞ。自身の魔法力をメインに戦う貴様には必要なものだろう」
「そう、です……」
「種類はビスケットやらジェルやら飲料やらたくさんあるから、全部試してどれが良いか教えてくれ。一番良かったやつを改良して量産してみよう」
砂を噛んだ方がマシなビスケットと、カエルのぬるぬるを舐めた方が美味なジェルと、地面に落ちた雨水が甘露に思える飲料だ。一度味見をして、二度と触れるまいと思っていた悪魔たちが帰ってきた。
トッテマが常食しているハイカロリーのブロッククッキーも大概だが、その上を行く不味さだった。トッテマが試食して「まあまあ」という評価を下して以降、リパゼルカは彼女の舌を全く信じていない。
そんなトッテマが開発した補給食が美味しいはずもなかった。
なんとか回避できないものか。
解決の糸口を求めて、視線をふらふらと彷徨わせ、そして手に保持していたテティスの手紙に目を付けた。
「……トッテマさん、食品なら様々なパターン、誰が食べても想定通りの効果が出るのか、なんてのも知りたいですよね?」
「え? ああ、まあ、そうだな。万人に効果があるなら、それを販売して資金源にするのも有りだろうな」
「それなら試作品を一か月分ぐらいあげる、という形で協力者を募っても構いませんね!?」
「調子に乗って色々作ったのが倉庫にたくさんあるからそれは構わんが……、貴様もちゃんと食べてデータを提出しろよ」
トッテマの最後の台詞は聞かなかったことにしたいと思いつつ、リパゼルカは部屋を後にした。
倉庫に行ってベベルに渡す大量のお土産を見繕う必要があった。
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