手紙の主を探して、この世の果てまで

秋雨千尋

お姫様は足長おじさんに恋をした

 病気で長く苦しんでいた姫は、幼なじみで専属騎士であるマスルの活躍により全快した。

 国を挙げて祝福された姫は──。


「私の足長おじさんを探しに行きます!」


 と高らかに宣言して父王の度肝をぬいた。

 なんでも、病床の姫に絶えず手紙を送ってくれた人が居たらしい。いつもささやかなプレゼントを添えて。

 姫の好きな花。好きな色で出来たしおり。好きな音楽の入ったオルゴールなど。

 辛い闘病生活も、それらを支えに耐えられたのだった。


 手紙に記された住所はこの世の果てかと思うほどに遠い。父王は猛反対したが姫の決意は固く、仕方なく護衛を付けて出発する事になった。


「騎士マスル、神官チョコよ、姫を頼んだぞ」


「「はっ!」」


 出発の日は晴れ晴れとした青空。お散歩日和だ。

 姫は鼻歌混じりに歩いていく。

 マスルは浮かない顔をしている。王様と共に何度も反対したのに押し切られてしまったからだ。

 神官は杖で丸まった背中を叩いた。


「大丈夫よマスル。この国には姫様をかどわかそうなんて輩は居ないわ。もし居ても貴方が守ればいいのよ」


「ああ……」


 マスルの顔色は晴れない。

 道中、あらゆる危険が一行を襲った。

 モンスターの襲撃。断崖絶壁。落とし穴。

 何度も引き返そうとしたが、姫はかたくなに拒否した。「どうしても直接会って話がしたい」と言って聞かなかった。

 神官は女の勘で(姫様は手紙の主に恋をなさっているのだ)と思った。



 長かった旅はやっと終わりを告げた。

 手紙に記された住所にあったのは、森と海に囲まれた場所に長年放置されていたであろう、ボロボロの小屋だった。


「ど、どういう事なの……」


 どう見ても誰も住んでいない。姫は小屋の中と周りを探し回り、小さなお墓を見つけた。

 そこに刻まれた名前を見て、全てを察した。


「……そうよね、よく考えたら変な話だわ。こんなにも離れた場所にいる人が、どうして私の好きなものを把握していたのかしら、こまめに手紙を送れたのかしら」


 姫は森に入り、キレイな花を沢山つんでお墓に供えて手を合わせた。

 疑問符を浮かべる神官の横で、マスルが呟く。


「姫、ありがとうございます……」


「だって、あなたと同じ苗字。きっとお母様でしょう。足長おじさんは貴方だった。そうよねマスル」


 マスルは静かに頷いた。

 神官は(はあ!? もっと早く言えや! どんだけ苦労したと思っとんじゃ、しばくぞ!)と思ったけど歯を食いしばって我慢した。


「騎士である自分が、姫に愛を告白する事は許されておりません。ですので、一般国民という偽者の仮面を被って手紙を書きました。ふんだんに気持ちを込めて」


「ええ、伝わったわ」


「まさかこんな僻地にまで来て頂けるなんて、故郷の土をまた踏めるとは思いませんでした」


「あなたの生まれた場所、とてもキレイだわ」


 イチャイチャし始めた二人を前に、神官はダッシュで逃げたくなったが、鋼の精神で何とか踏みとどまった。


 一行は来た道を帰っていく。

 ラブラブで足取り軽やかな二人と違い、一人だけドッと疲れた神官は、やるせない気持ちを抱えながらフラフラついていく。


 そこへ、大雨からの土砂崩れが起きた。

 絶対に通らなければならない場所が土砂で埋まっている。土も石も木の枝もごちゃまぜになっていて、まるでラーメンから丼ぶりを除いたようだった。


「回り道をするしかありませんね。また帰るのが遅くなってしまう」


「平気よマスル。あなたと一緒ならば」


 またしてもイチャつく二人に、遂に堪忍袋の緒が切れた神官は、新しい魔法を覚えて土砂に向けてぶっ放した。

 そのエネルギーは凄まじく、あらゆる障害を吹き飛ばし、えぐり、城までの最短距離を作り出した。



 城に戻った二人は夫婦となり、子宝にも恵まれて末永く幸せに暮らした。

 神官は転職し、国一番の大魔道士となった。

 皆から恐れられ称えられ、ブロンズ像まで建てられたのだった。



 終わり。

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手紙の主を探して、この世の果てまで 秋雨千尋 @akisamechihiro

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