二十四
「何か、って……」
キャロルに問われ、ステラは一瞬考え込む。あった、といえばあったし、しかし何がどう作用しているのかは分からなかった。
相手がキャロルで、事がアメリアについて、ということもあり、ステラは珍しく思ったことを思ったまま、起きたことをそのまますべて話した。
全て聞き終えたキャロルは、何度もうんうんと頷いて、最後は腕を組んで『うーん』と唸った。
「今回の疫病特例や新産業の件がエイミィちゃんの発案って聞いて、実はちょっと疑ってたのよね。だけどここへ来る前に、そんなことしてたのね……」
キャロルの言う『そんなこと』とは、ルチアーノとの一件と彼の村の救済策のことだろう。ステラは頷いた。
「トーリアに長逗留することになったのも、姫様ご自身が民の生活を知りたいとおっしゃったからだ。まさかこんな大ごとになるとは思わなかったが……」
「ふーん……」
キャロルは再び考え込む。
「王としての自覚が芽生えた、ってこと?」
「……自覚はもう少し前から芽生えていらっしゃった。だがハウエル殿下のご執政の悪評を聞くたびに姫様の言動が変化されていったように思う」
独り言のように呟くステラの額を、キャロルが指で弾く。
「痛った……」
「姫様、じゃなくてエイミィ、でしょ。あんたさ」
ずい、と、一歩キャロルがステラに詰め寄る。
「エイミィちゃんのこと、なんだと思ってるの?」
その迫力と、聞かれたことの意味が分からずステラはたじろぐ。返答できずにいるステラにキャロルはまた一歩詰め寄った。
「あんたは生まれた時から王女様としての彼女と一緒にいるから仕方ないかもしれないけど、私はただの同年代の女の子として知り合ったから、逆にあの子が王女様って言われても中々ピンと来ないのよね」
「ああ、うん、それは分かるけど……」
「普通に考えたら、あんた達は友達よね。まあ仲が良すぎるし信頼し合ってるから親友、って言ってもいいんだろうけど」
ふう、と息をついてキャロルはまた椅子に戻った。だがステラは突っ立ったままだ。
(親友……)
「あんたが身分隠すために男子学生になりすまして、ついでにエイミィちゃんと許嫁同士って言ってたのも分かる。でもそれが嘘だったってわかっても、あの時のあんたの彼女への接し方に嘘はなかったって思うのよ」
キャロルの目から見ても、ステラは何より誰よりアメリアを大切にしていた。余程嫉妬深く独占欲の強い恋人なのだろうと呆れるほどだった。
「エイミィちゃんが王としての自覚をすくすく育てる中で、あんたはどうしたいわけ? 未来の名君のために仕える臣下? それとも女王陛下の友だち? ……多分、違うんじゃないの?」
ステラは次々ぶつけられる言葉の数々に思考が追い付かない。アメリアと自分の関係など、考えたことも無かった。
そして思い出した。
サイモス王がアメリアの王配を探すためと言って催した舞踏会のことを。その時の自分の動揺と焦燥と、たとえようのない喪失感を。
「私はね、あんた達のことに首突っ込もうってんじゃないのよ。二人の問題だもの。でもさ、ただの臣下でも友達でもない、もっと特別で唯一で誰にも譲れない存在だって思ってるんだったら、あんたはもっと覚悟を決めてエイミィちゃんを守るべきなんじゃないのかな、って思ったのよ」
相変わらず何も返すことが出来ずにいるステラに、キャロルはくすりと笑いかけた。
「私、エイミィちゃんが好きなの。友達としてってだけじゃなくて、いつかあの子が王様になってくれたら、きっとこの国は前よりもっといい国になるんじゃないかって思ってる。だから、詰まんないことで躓いて欲しくない。私も力になりたいけど、あの子にとって一番身近で頼りになるのって、やっぱりあんたでしょ。違う?」
よいしょ、と小さな掛け声をかけて、キャロルが勢いをつけて立ち上がった。
「あの子が言えずに隠してることや、抱え込んでること、あんたしか聞けないと思う。だからそのために、腹くくって自覚しなさい。自分がエイミィちゃんにとってどんな存在でありたいのかを。上辺や建前じゃなくて、あんたの本心としてね」
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