枯れるように

 翌日私が店の前まで行くと、彼女がいたはずの場所には、黒くどろどろとしたものが小山になっているのだった。

 彼女を探しに店の中へ入ってみると、どうしたものか店主が泣き崩れている。


「どうなさったんですか」


 彼女の居場所を聞きたいのは山々だったけれど、この状態の店主が答えるとは思えなかったのだ。


 店主は赤くなった顔をゆっくりと上げ、普段よりも更に病的な目つきで私を見据えると、「あの子が、あの子が」とうわ言のように繰り返しながら私にすがりつこうとする。


 死霊のようになった店主を払いのけると、店主の倒れる音を背中に聞きながら私は再びウィンドーに目を移した。


 黒く有機的な小山には、人形の頃の面影がうっすらと残っているように見える。


「かのじょは」


 唇が震えるのを感じた。

 倒れたまま起き上がろうとすらしない店主を見下ろすと、私は声を張り上げる。


「あの、人形は」


「あの子は枯れた。枯れたんだよ」


 泣き声とも笑い声ともつかない響きが、店内を軋ませた。


「枯れてしまったんだよ、私が見ている前で」


 一度声を発したら、言葉を紡がずにはいられないのだろう。

 流出し続ける悲鳴は暗い店内に蓄積されて、私の視界を滲ませる。


 私はとうとう恐ろしくなって、店から逃げ出した。

 何が恐ろしいのかも分からないままに、私は走っていた。


 こうして彼女はいなくなってしまったのだ。

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