たんぽぽ

いちどめし

軽く舞うように

 店頭にちょこんと座った少女から、私は目が離せなくなってしまった。


 表情は人形的であるにしろ、だからこそ甘く香るようなかわいらしさを持った女の子――そう、少女の姿をした人形である。


 細くてつややかな美しい髪。

 きめ細かくて瑞々しいきれいな肌。

 私の中に、まるで綿毛のようにふわりと舞い降りた可憐な少女は、しかし残念なことに、分厚いガラスの向こうにいるのであった。


 ああ、触れたい。

 この腕の中に抱きしめたい。


 私は沸き出でる欲望に耐えきれなくなって、その店に足を踏み入れていた。


「あの人形、いくらです?」


 げっそりと痩せた、店主と思しき色白の男は、ぎょろりと目を剥いて「人形、といいますと」と首をかしげた。


「ほら、ショーウィンドーに飾ってあるでしょう」


「ああ、あの子ですか」


 店主は目を細め、嬉しそうにケタケタと嗤いだす。


「あの子は売り物ではないんですよ。ただ、たくさんの人に見てもらいたくてね……。かわいいでしょう」


 私はうやむやな返事を口の中に転がしながら、大いに落胆した。

 それでも、売り物ではないという言葉には、なるほど納得がいく。


 確かに、彼女のことをお金で手に入れたって、本当の意味で私のものになったとは言いがたいだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る