第58話
青い鱗のサラマンダーとの動画はとても人気を博して、再生するが伸び続けている。
やはりダンジョン動画はかなりの需要がある。
今の時代は特にそうだし、これからもっと伸びるコンテンツだと考察するインテリジェンスなおじさんたちもいる。
ぼくはどちらに転がるか分かっていないが、インテリジェンスなおじさんたちの言う通りになると良いなと思っていっる。
ダンジョンが出現して以来、好景気が続いている聞いている。陰キャの僕が形見狭くなるくらい世間はこのビッグウェーブに乗って生き生きとしている。
ダンジョンの存在はそれだけ世界に大きな影響を与えていた。
そのダンジョンボスともなれば、人々の興味をひくのも無理はない。
ゴブリンクイーン戦程ではないにしろ、今回の動画も再生数コメント数共に上々だ。
これで僕の魔力量もまた伸びる。
そろそろ動画の収益化したお金も入ってくる頃だし、楽しみが尽きない。
そんなウキウキ状態の僕に、視聴者さんから更に耳寄り情報を頂いた。
『最近シロウさんのファンサイトが出来ていますよ』
という連絡を頂いた。
自作自演でそんなものを作っていないので、それは本物ということになる。
今日は青い鱗のサラマンダーから奪った豪奢な槍を岩崎さんあたりに高値で売りつけようとしていたのだが、こちらのほうが気になる。
貰ったURLから出来たばかりだという僕のファンサイトへと飛んでみた。
『ジメジメしたところ(仮名) ここはダンジョン冒険者兼動画投稿者、陰キャシロウを応援する集いです。仲良く使いましょう』
サイト名を見てくすりと笑ってしまった。
ジメジメしたところとは、良いネーミングセンスだと思う。
いかにも僕っぽいイメージだ。
背景に墓場や、骸骨の可愛らしいイラストがあるデザインも好きだ。
どこの誰が作ったサイトか知らないけど、僕は一目でこのサイトを気に入ってしまった。
さてさて、エゴサエゴサ。
なんて書いてあるか、楽しみに読んでみた。
『シロウってダサくね?なんでこんなサイトがあんの?』
いきなりアンチ来た!!
そりゃないよ!今まで気になっていたけどエゴサしてこなかったのに。それはアンチに出会ってしまうリスクと、ファンに褒められてウキウキすることを天秤にかけた結果、僕の場合アンチのダメージの方が上回りそうだなと思ってしてこなかった。
なのに!
自身のファンサイトでいきなりのアンチトラップ。そんなのってないよ!
アンチを殺す魔法ってないですか?あれば一生をかけて習得します!
けれど、そのコメントは書き込まれたばかりみたいで、その後にシロウファンによって袋叩きにあっていた。
『そう思うならここの来なくていいじゃん』
『アンチ消えろ』
『仲良く使いましょうって書いてるのに、なんで荒れるようなこと書くかな』
次々に流れるアンチ撲殺コメント。
せっかくなので僕も会員登録して、アンチのリンチに加わっておいた。
『シロウの格好良さを知らないとか、頭大丈夫かな?』
『自演おつ』
そう告げてアンチは消えていった。
……自作自演が見抜かれた!?
もちろん強がってのコメントだと分かっているが、見抜かれてしまったみたいな気持ちがしてとも恥ずかしい。
今後自作自演はやめたいと思う。切実に。
ファンサイトはありがたいけど、僕がここにいるのは違う気がした。
ジメジメしたところはファンの楽しむ場所であって、僕が自尊心を満たす場所ではない。
「ありがとう」
多くのファンがいることを実感させて貰っただけで十分だ。僕はそっとブラウザバックしようとした。
そのとき、登録していたメールに通知があった。
『もしかして、シロウ様本人ですか?』
「えっ!?」
驚いて、自室で声を出した。
なんでバレた?
僕の自作自演は、アンチどころか、ファンサイトの管理人にも一瞬でバレただと?
しかし、その後に驚かせてしまって申し訳ないとの連絡を頂いた。
ファンサイトの管理人は、僕のかなりの熱狂的なファンらしく、以前から僕の住んでいるあたりを特定していたらしい。
更にIPアドレスからもなんとなく僕だという想像ができたみたいで、わざわざ連絡してくれたとのことだ。
嬉しいけど、その才能をもっと別に生かして欲しいような……。いや、流石に活かしているか。これだけ知識と技術力がある人ならば。
少し怖くもあるけど、こういう人が僕の味方側にいるってのはとても心強い。
『正解です。この度は自作自演のような真似をしてすみませんでした』
『いえいえ、アンチが沸いたのは私のせいです。あのアンチは殺して子いますので、ご安心下さい」
殺しておきます?
殺すってつまり、殺すってコト!?
いやいや、あり得ないって。
流石にそれはないって。社会的に殺すとかそういうことだから。いや、それも恐ろしいけどさ。
ここの管理人さんは一体……。
『シロウ様、よろしければ一度会いませんか?私もシロウ様のファンなので、会いたいのと、今後のサイトの要望などもあれば全て反映させていただきます。都合が良ければで良いですので、是非一度機会を頂ければと思います』
怖い人から会いましょうっていう連絡が来ました。
普通に怖い。
おそらくPC最強スキル持ちおじさんだろう。
僕のどこを気に入ったのか知らないけれど、そんな怖いおじさんと会うつもりはありません!
『ごめんなさい。最近ダンジョンや動画投稿、更には学校生活も忙しくてなかなか時間を確保できません。せっかくのありがたいお話ですが、お断りさせていただきます』
「よしっと。上手に断れたかな」
それからまたすぐにメールが届いた。
『残念です。シロウ様に会う時ように、私も特注ジャージを用意していたのですが、披露の機会はまた今度になりそうです。今後も活躍を影ながら応援しております。……私のコスプレも見て欲しかったなぁ』
という内容だった。
ここで生じる疑問。
あれ?この管理人さんはもしや女性なのではなかろうか。
勝手にPCスキルつよつよおじさんだと思っていたが、一人称も話し方も、そしてコスプレからも連想するのは女性だ。そして若い女性。
もしや、僕はとんでもなく勿体ないことをしているのだろうか?
僕のことが大好きな若い女性からの誘いを断った?
そんなことがあっていいのか?いや、あってはならない。
しかし!いまさらあなたはおじさんですか?それとも若い女性ですか?なんてことを聞けるはずもなし!
「ああっ!?」
僕は頭を抱え、これ以上悩んでいても仕方ないと思い、例の豪奢な槍を包んで岩崎さんの元へと持っていった。
あの長いエレベーターに乗って、地下へと潜るといつも通りタバコをふかした態度の悪いオッサンがいる。
「どうせおじさんに会うんだったら、チャレンジしておけばよかった」
「ああん?なんのことだよ」
教えない。
僕がファンとデートしたくてグズグズ後悔しているなんて後ろめたいことは教えない。
「これ、買い取ってください」
「まーた変なもんを持って来やがって。少し待ってな。裏で査定してくる」
「お茶はカフェインレスでお願いします!」
「荒ぶってんな。なにかあったのかよ」
あるけど、おっさんには教えません。
「カフェインレスなんてねーから、ただの緑茶な。待ってろ」
そう言って岩崎さんが査定に入る。
そして、30分ほどで戻ってきた。
タバコはもう吸っておらず、職人の顔になっていた。
「これかなりの高値で買い取れるけど、それより分解をお勧めする。かなり良い素材を使ってやがるぜ」
「金額を聞いてから決めます」
「ちっ、現金な小僧だぜ。悪いことは言わん。売っても200万くらいだ。絶対に分解をお勧めするね」
いやいや、売るけど!!
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