第48話
「あわわわわ、ロボットちゃんが!」
「ロボットさああああああああん!」
二人でロボットの君に駆け寄った。
ガタガタと震えて、火花を散らすロボットさんは既に息絶えようとしていた。
遺言まで残そうとするロボットを前に、なんだか非常に申し訳ない気持ちになる。
「なんでこの子がこんなことに」
「ごめんなさい。少しは手加減するべきでした」
「この子結構強いし、全力でやるように言ったのは私だから……。まさかこんなことになるなんて」
僕を庇いつつ、瑠璃さんが何かを考え始める。なんだろう?
虚空を見つめて、悪い表情を思い浮かべた。
「シロウ君……隠ぺいしよっか?」
「隠ぺい!?」
悪い表情を浮かべて考えていたことは隠ぺいだったのか。
真面目そうな人なのに、発想に驚きだ。
ロボットを壊したこと、隠し通す気だったみたい。
「これを作った副リーダーが、面倒くさい人なの。ぐちぐち3時間くらい説教されてもいいの?かなりストレスだよ」
「うっ。面倒くさそうですね。どうするんですか?かわいそうなことしちゃった上に、廃棄するんですか?」
「そう言われれると可哀想に思えてくるね」
「悪だくみは、以上かね?」
二人でこそこそと話し合っていると、頭上から腹に響く低い声がした。
ぎくりとして、恐る恐る見上げてみた。
細身で長身の男性が、白衣を身に纏い、腕を組んで僕たちを見下ろしていた。
白い肌と、目元の隈が凄く不健康感を醸し出している人だった。アイリスさんの美しい白い肌とは違う、病的な白さだ。
長く伸びたウェーブのかかった髪の毛が、空調の風でユラユラと揺れていた。
「私の操作するロボットが壊れたんだ。気づかないはずなかろう。破棄しても、魔力の跡は辿れる。愚か者どもめ」
首根っこを掴まれて、僕たちは引っ張って行かれた。
引っ張れていく途中の瑠璃さんの表情から、あきらめに近い何かが感じ取れた。
エレベーターに乗せられ、49階に連れていかれる。
そこで本当に3時間説教を食らった。
ロボットの製作にどれだけお金がかかるか、どれだけ労力をかけているか、壊れた後にみんながどれだけ迷惑を被るかを延々と言われ続けた。
正座して説教される僕と瑠璃さんは、地獄のひと時を過ごしたわけだ。
説教のなかでちょくちょく瑠璃さんが反論して、二人の会話から副リーダーさんについてもいろいろとわかった。
ダンジョンネーム”博士”で通っているこの人は、操作系の魔法を使うことで知られていた。
自身の魔力を与えた物質を遠隔で操作できる。自動で動くロボットなんかは魔力を与える段階で指令を出すらしい。魔力を与えた分だけの強さを得られるが、基本放置型なのでそこまで強くはないとのことだ。
代わりに、博士本人が操作するドールと呼ばれるマジックアイテムの戦闘力は凄まじいとのこと。
その実力はチーム1とのことだ。
単純に魔力量が一番多いのもあるが、使用する魔法がまた厄介で一目置かれている冒険者なんだって。瑠璃さんから説明を受けた。
ちなみに、博士いわく、バンガスさんは雑魚とのこと。
人格者なのと、経営の手腕でトップに立っているけど、全然弱いらしい。
「バンガスさんはねー。あれは弱いよねー」
瑠璃さんまで!哀れバンガスさん、このチームのしんや枠はあなたかもしれない!
「このロボットには魔力量3万程つぎ込んでいるはずだ。ふむ、なぜ負けたんだろうか。特殊な魔法を使う?バンガスが連れてきたくらいだし、あり得るか」
「いえ、その……」
正直に言う時が来たようだ。
ずっと隠しているわけにはいかない。
「本当の魔力量は5万6000くらいあります。だから、単純に魔力の量で押し潰した形になっちゃいました」
「バンガスから聞いていた数値とかなり乖離があるな。興味深い。研究させてくれないか?」
「はい!終了、終了!説教も終わったし、シロウ君、もう行こっ」
今度は瑠璃さんに服を引っ張られて、無理矢理説教部屋と化していた会議室から脱出した。
「待たぬか!説教はまだあるし、シロウ君への疑問もまだ残っている!」
「べー!もう説教は飽きたからいいよーだ」
エレベーターに乗る間際、瑠璃さんが変顔を見せて博士を挑発していた。
なんだか子供っぽい。
そんなことしていいの!?また怒られない!?
「博士は説教が趣味なのよ。もう私たち反省しているし、無罪放免でしょ。ちょっとバンガスさんのとこに寄ってくね」
48階でバンガスさんにあいさつした瑠璃さんは、僕を連れ出すことだけ伝えて、荷物を持ってすぐにエレベーターに戻ってきた。
まだバンガスさんと碌に話せていないけど、まあ後日でいいか。
「ここに残ってたらまた博士に捕まるから。もうこれ以上あの不健康な顔みたくないでしょ?」
「たしかに……」
3時間は流石に堪えた。
しばらく博士に会いたくないのは同意だ。
「ようし、じゃあ一緒にさぼっちゃったし、遊びに行こうか。お姉さんが都会の街を案内してあげるよ」
「お姉さん?いでっ」
頭にチョップが飛んできた。わざわざ背伸びしてまでやらなくても……。
「えっへん。ダンジョンでお金も稼いでいるし、何か食べたいものがあったらお姉さんがご馳走しよう」
「ありがとうございます、瑠璃姉さん」
「大変よろしい。では参るぞ」
ちっさいお姉さん、瑠璃さんに続いて僕たちは街へと繰り出した。
欲しいものも、食べたいものもなかったので、結局瑠璃さんの行きたかったビュッフェ形式のお店へと入っていった。
お洒落な空間には、ガツガツと貪る野蛮な連中はいない。食べ放題だというのに、上品につまむ程度に食べる人ばかりだった。
これがお洒落民なのか。
「いいお店ですね」
「そうでしょ。シロウ君のデートスポットに追加したまえ!」
「はい」
こんなお店に彩さんと来られたらどれほど幸せか。アイリスさんとでも非常に素晴らしい時間になるだろう。
目の前のちびっ子でなければ、最高なのに!
「今、失礼なこと考えてなかった?」
「いえ、全く!」
首をブルンブルンと豪快に振って否定しておいた。
勘の鋭いお方だ……。
「ローストーンのこと、いろいろ見たと思うけど、なんか他にも気になることがあったら教えるよ」
「そうですね。博士さんとかアイリスさんについてもう少し知りたいかも。チームのシステムや、報酬についても」
本来バンガスさんから聞かされる予定だったところを、聞いてみたかった。
ロボットを破壊して、博士から3時間も説教を食らっていなければ、今頃正式に説明を受けていた部分だ。
「最強が博士。次点でアイリスさんかな。ちなみに私は3番手。えっへん!」
8888888。
拍手を送っておいた。瑠璃さんが明らかに嬉しそうに微笑む。
なるほど、この人の機嫌の取り方がわかってきた。ちょろい、ちょろいお嬢さんだよ!
「ちなみに博士は業界でも有名な人で、魔力量23万越えの超人だよ。使用する魔法の厄介さもあって、いろんなところから声をかけられたらしい」
「23万!?」
あの厄介な人、そんな大物だったのか。
「バンガスさんの人柄に惹かれてローストーンを結成したんだって。ちなみに、アイリスさんも同じ。引く手あまただったのに、バンガスさんの人柄に惹かれてここにいるの」
アイリスさんはその美しさもあって、引く手は多そうだ。
僕もレイザーさんや彩さんがいたから前のチームにいた。
理念とかお金よりも、そういった人間を重視している人って多いんだな。
「ちなみに、私も引く手あまただけど、バンガスさんの人柄でここにいるよ!えっへん!」
8888888。
盛大に拍手を送ると、ポリポリと頭を搔きながら、瑠璃さんが照れ臭そうにし始めた。
ちょろい、そしてかわいい!
「聞いたかもしれないけど、チームは2つ組まれており、下のチームは主に調整兼育成に重点を置いたダンジョン攻略をしているよ。上のトップチームはまだ攻略されていない難関ダンジョンの攻略がメインとなるよ」
「なるほど。上が楽しそうです!」
「でしょ?シロウ君も56000の魔力があるなら、早く上に来なよ。うちのチームはメディアも追いかけてくるし、ちやほやされて楽しいよ」
メディア!?ちやほや!?
陰キャが苦手としているけど、大好きなワードが同時に出てきたぞ。
大丈夫か?カチコチに固まらないか、僕!
「契約金の100万円の使い道と、専用装備も考えておいてね。予算は300万円で、ダンジョン衣装を作って貰えるんだ」
「100万!?300万!?」
この世界に入り込んで、僕は日々お金の感覚がバグってきている。学生が簡単に口にする金額じゃないけど!
「なんだか、凄い話ばかりですね。場違いなところに来たかもしれません」
「そんなことないよ。バンガスさんは以前からシロウ君を欲しがってみたいだし」
それは嬉しい情報だ。
なんだか、いろいろプレッシャーが大きいけど、断るような話じゃない。
バンガスさんも、瑠璃さんも、博士も、特にアイリスさんが最高だし、僕はこのチームに入ることを決めつつあった。
新しい居場所ができる。そんな気がしていた。
「瑠璃さんのおかげで、バンガスさんにいい返事が出来そうです」
「それは良かった。正式にチームに入ったら、お姉さんの私が面倒を見てあげるから」
「ははー!……ちなみに、瑠璃さんの魔力量は?」
「10万ちょっとだよ!えっへん!」
8888888。今度は心の奥底から拍手をしておいた。
東京最強大学に通う可愛らしい幼女のお姉さんは、冒険者としても有能っぽい。
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