第45話
「ようこそ、シロウ君」
カリスマグラサンが僕の名前を呼んだ。
何故名前を知っているのか少し違和感を覚えたが、会場から集まる視線のせいですぐに細かい疑問は頭から消え去った。
陰キャは大勢からの注目に弱い。体がカチコチに固まってしまい、頭が真っ白になってしまう。
大勢の前では、僕は無能になり下がる。
「魔力は9800なんだって?」
「は、はい」
嘘をついているのが心苦しい。
なんで僕を指名するのか。多くのロイヤルプログラム会員を指名してくれればいいものを。
「湿気た魔力だなぁ。今まで随分と苦労したんじゃねーか?」
「は、はい……」
もう引き返せない。嘘を突き通すしかあるまい。
「けどよ、明日から世界が変わるぜ。毛穴がパックリ開くように、魔力を体から溢れさせる。今日は調子が良い、魔力を3000程上げてやる。準備はいいか?」
僕への問いかけというより、会場で見守っている人たちへの確認っぽかった。
今から奇跡を起こすから、見ていろ。そんな感じだろうか。
全てはパフォーマンスの一環として行われている。
「いくぜー!」
カリスマグラサンが僕の背中に手を当てる、会場からカウントダウンが始まり、0がコールされた瞬間、僕の背中に電流が走った。
「づっ!?」
ビリっと来る電流は、辺りに明るい光を灯すほどのものだった。
なぜ電気魔法を使われたんだ?
魔力爆発の儀式ではないのか?僕の魔力を上げてくれるっていう話だったはず。1万円を支払って、電気魔法を食らっただけなんですけど!
「ようし、これで魔力爆発完了だ。こいつの魔力はたった今、3000程伸びた。魔力爆発に当選してよかったな。さて、今日はこれで力を使い切ったが、次のラッキーボーイはお前たちだ!」
うおおおおおっという大歓声が会場を包んだ。
指笛を鳴らす者まで入る盛り上がりようだ。
一応、これだけで終わりではないらしい。
この後に、魔力測定が待っていた。
みんなの前で魔力測定の晒し者にされるのはこれで2度目だ。
チャンネルを凍結されたり、炎上したりしたが、思ったより登録者は減っていなくて、僕の魔力量は変わらず56000くらいのはずだ。カリスマグラサンの魔力量爆発が本物なら、僕の魔力は6万弱に至るということになる。
測定器はちょっとお高めの体重計みたいだった。
ダンジョン講習会ではカプセルの中に入れられて精密に測定したものだが、こちらは随分と安っぽく感じる。
「測定結果が出ました」
カリスマグラサンは既に壇上から姿を消していた。測定器を運んでくれた美人のお姉さまがそのまま司会進行を務める。
「なんと魔力量14000!!代表はあのように言ってましたが、結果は4000も上がっております!」
え?全然違うけど!!これが本当だったら、魔力量を下げる凄い人になっちゃうけど!それはそれで、凄い。
「今のお気持ちをどうぞ、シロウ君」
お気持ち?
「あ、ありがとうございます……」
「よかったですね。会場の皆様もシロウ君に拍手を。
ここでようやく公開処刑の場から解放された。
席に戻った僕は陰キャ同盟から祝福される。
ちょっと嫉妬も混じった労い方だったけど、陰キャは一応他人の幸せを喜べる人たちだ。他人の不幸はこれより数段喜べるので、陰キャの性格は良くないとだけ補足しておく。
ようやく注目から解放されて、僕の頭が正常に働きだす。
これは、あれだな。
結構、原始的な詐欺だ。
思い返せば、いろいろと辻褄があう。
魔力量を書かされたこと、最後に測定したのがいつか書かされたこと。
代表と呼ばれるカリスマグラサンが僕を指名したのは偶然ではない。
事前に情報を貰っていたのだ。
魔力成長期の人をピックアップしていき、長らく測定していない僕がその中から選ばれた。
電気魔法を流してそれっぽい演出をして、魔力が伸びたと説明する。
完全に偽物の測定器でそれっぽい数値を示して会員を喜ばせる。たとえ後日正式な測定器で調べなおしても、魔力成長だった場合実際に近い数値になっている可能性がある。
そういえば、ある程度魔力が高い人は、成長する人を見抜く力があると聞いたことがある。もしかしたら、あの代表にはそういう目があるのかもしれない。
その力があれば、このシステムで魔力爆発なるイベントを作り上げることは容易だ。
こんな原始的な詐欺で僕の1万円様を取られただなんて……。
1万円様があれば、あれもこれもできてしまうのに!
軽く涙目になる僕を、げっ歯田中君は感動の涙と勘違いしたみたいで、うんうん、わかるわかると隣で頷かれた。
殴りたい、この詐欺グループも殴りたいけど、げっ歯田中も殴りたい。
残りの時間は虚無と共に、時間を浪費した。
魂の抜けきた僕は、その後にどんな催しがあったのかすら覚えていない。
帰り際、陰キャ同盟の言葉も入って来なかった。
1万円様を失った僕は、思ったよりもダメージが大きい。無意味なものに使ってしまった虚無感の大きさたるや。
ぞろぞろと会場を出る群衆に続いていく途中、僕は視界にある人物を捉えた。
「ライジン大先輩?」
会場の隅で、美人のお姉さまたちと楽しそうに会話するあの巨漢の男は、間違いなく以前戦ったライジン大先輩だった。
雷魔法で僕を翻弄し、魔法での戦闘のいろはを学ばせて貰った人だ。
なぜここに!?
またもつながった。
『ライトニング』『雷グループ』
「あっ!!」
ここは雷グループがやっているイベントだったのか。
悪い噂ばかり聞く雷グループだが、こんなことにまで手を染めていただなんて。
群衆の波に押されて、僕は会場の外まで流れた。
ライジン大先輩はもう見失っている。
しかし、確かにその尻尾を掴んだぞ。
もともとは陰キャ同盟を助けるためだった。
けど、もうそんなことはどうだっていい。
僕の頭には、既に1万円様を取り戻すことしかない。
他がどうなろうが知ったこっちゃない!
これは一万円様をかけた、僕と雷グループの全面戦争だ。
「潰す……雷グループ」
尻尾は掴んだ。このでかい組織をどこから崩そうか。
僕の目には、怒りの炎がたぎっているぞ。
普段温厚で、何かされても何もし返さないのが陰キャ。
しかし、積もりに積もって陰キャが怒り出すと、急にカッターナイフとか取り出しちゃうやばい現象。
それが陰キャの生態。それが僕の生態でもある。
普段怒らない陰キャをキレさせるとどうなるか、雷グループに教えてやるとしよう。
家に戻った僕は、ググカス先生を利用して雷グループについて調べ上げた。
悪い噂ばかり出てくるが、ライトニングと雷グループを結び付ける情報はまだ出回っていない。
そもそもライトニングの存在が、世間的にはまだまだ認知度の低いものらしい。
しかし、繋がらりはググカス先生に頼るまでもない。
僕がこの目で確かに見ているのだから。あそこに副代表のライジン大先輩がいる限り、雷グループと縁がないわけがない。
ググカス先生は優秀だ。調べること1時間、雷グループの代表と噂されている人物に辿り着いた。
業界ではかなりの有名人らしい。
若手経営者として名をはせており、メディアにも引っ張りだこの人物。
自身の動画投稿チャンネルも持っておいて、その登録者は僕の10倍にも上る。
「ま、負けた……」
そこは仕方ない。駆け出しの僕とは影響力が違いすぎる。
動画を何本か再生してみた。
間違いない。見間違えるはずのない人物だ。
サングラスをしているが、力くから見た僕は間違いなくこの人がカリスマグラサンだと断言できる。背丈も雰囲気も全てが一致した。
「雷ライゾウ……僕から1万円様を奪ったお前を許しはしない!」
雷グループと陰キャの1万円様を巡る全面戦争、ここに宣戦布告をする。正義は我にあり!
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