第41話

18時きっかり、僕は動画撮影を始めて、ライブ配信を始めた。


視聴者さんが来るかどうか不安だったけれど、既に5人ほど待機してくれていたので、嬉しくて挨拶を始めた。


「ど、どうも~。陰キャこと、シロウですぅ」

緊張しすぎて、変な語尾になってしまった。今は女性化しているので、少し声が高めで、自分でもちょっと可愛らしい感じの喋り方になったと思った。


『誰?』

『シロウの姉ちゃん?』

『かわいい』

『地味巨乳ちゃん』

『あれ?ライブ配信先間違えたかも』


まずい、急いで説明しないと。


今後来る人のためにもライブ配信のタイトルを変更しておいた。


タイトル この地味巨乳はシロウです。ダンジョンネーム陰キャの人です


に、変更。

口頭でも説明をする。


「ごめんなさい。こんな見た目になっちゃってますけど、僕はシロウです。いつも皆さんに動画を投稿してあの地味な陰キャっぽい高校生です」

説明してて悲しくなってくるな。

自分のことを形容すると地味な陰キャになっちゃう悲しさ。


『かわいい』

『俺はお姉ちゃん説にかける』

『シロウちゃんかわえええ』

『ずっとその姿でいてくれ』

『何が起きてんの?』

『?????』

『????w』


「先日ラッキーダンジョンでゲットしたアイテムの副作用で、定期的にこうして女性化しちゃうみたいです。魔法の世界って奥深いですね。まだまだ僕たちの知らない知識が多く眠っていそうです」

僕の知る限り、女性化する動画なんて見たことがない。

視聴者さんも完全に初めてだろうから、流れるコメントから驚きが見て取れる。


『すごすぎ!!』

『本当なら凄いな』

『地味巨乳ちゃん好き』

『地味巨乳ちゃんジャンプして』

『なんか変なことが起きているみたいですが、これからも応援しています。いつも動画楽しませてくれてありがとうございます。長文失礼致しました』


配信前は不安だったけれど、全体的に応援してくれるコメントばかりで少し安心した。

というか、全てといってもいいくらい、みんな優しいコメントをくれる。

この世界は、僕が思っている以上に優しさで包まれているのかもしれない。


『その状態で魔法を使ったりしたら効果とか変わるのかね?』


気になるコメントを見つけたので、僕も検証してみたくなった。

「ちょっとやってみますね。召喚――」

少し、沈黙が流れた。

動かない僕と、流れ続けるコメント欄。


「キャロを呼んだんですが、出てきてくれません。特殊な存在なので、この状態ではダメらしいですね」

続いてヴァネを呼び寄せる。……こっちもダメか。やはりあの二人は特別な存在だもんな。呪われた状態では呼び出しに応じてくれないらしい。


これは感覚なのだが、魔力も少し落ちている気がする。だとしたら、この状態のときは大幅な戦力ダウンだ。


「召喚――」

『ヴィ?』

召喚に応じてくれたのは、サボだけだった。

呪われても砂漠の一族なので、こちらは大丈夫みたい。

でも、お前誰?みたいな感じで部屋の隅っこに後退っていく。


「シロウだよ。なんで砂漠の一族の呪いをかけた本人が一番驚いてんの」

『ヴィ!』

ようやく僕がシロウだと気づいて、サボが感動の再開如く僕に熱い抱擁を求めた。


いだだだだだ。

棘があるくせに、抱擁がもっともむいていないくせに、やたらと愛の抱擁を求めるサボである。


『サボちゃんがいる。地味巨乳ちゃんほんもののシロウ確定』

『サボちゃんかわええけど、地味巨乳ちゃんもかわええ』

『神配信』

『神回だね』

『私もサボちゃんに抱きしめられたい。痛いだろうけど』

『うおおおおおおおおおお。うおおおおおおおおお』


気づけば視聴者は500人も集まってくれていいた。

なんと嬉しいことか。

こんな姿にも関わらず、多くの視聴者が集まってくれたことにひたすら感謝である。


人数に比例して増え続けるコメントが流れる中、色の違うコメントが流れた。


★いつも動画投稿ご苦労様です。これで何か美味しいものでも食べてください。1500円★


うおおおおおおお。

こっこれは!?

伝説のスーパーなチャット、スーパーチャットっというやつではないのか!?

そうだ、そうに違いない。

本当に実在していたんだな。


1500円も貰っちゃった!1500円ってやばいよ。以前の学校と家の往復ばかりしていた僕の生活だと、一か月は過ごせる金額だ。

うわわわっ、何に使おう。


「あっありがとうございます!1500円も、大変恐縮です!本当に、ありがとうございます!」

カメラの前で正座して、ペコペコと頭を下げた。

お金様をくれる視聴者様は、それすなわち神である。


★地味巨乳ちゃんかわいいから、ワイからも。8000円★


「8000円!?」

驚きのあまり、目を見開いた。

桁を間違えたのか?正気なのか?この人は中東で油掘り当てて、アブラマシマシなのか?


「あっ、あのありがとうございます。でもただお金を貰うのは忍びないので、質問とか要望があれば一緒に添えて下さい。なんでもやりますよ!」

隠すこともないし、魔力が増えた今ならバク転とかできちゃいそう。

結構無理なお願いも聞けちゃう。私、結構凄いのだ。


……私!?

今、一人称が私になってしまった。


まさか、心まで変わって来てるのか?

まずいよ、それはまずすぎる。いつ解けるんだ、この呪いは!


『ヴィ』

通訳のキャロがいないと全然わかんない!辛い!


でも今は配信に集中しよう。

せっかく多くの人が集まってくれたし、暖かいコメントも寄せてくれているので、多くを読み上げて答えたい。


多くの応援コメントの中、またもやスーパーなるコメントが来た。


★シロウちゃん、ジャンプして。2000円★


ジャンプ?でもいいね。こういう要望付きだと凄く気が楽だ。

何もしていないのお金を貰うって、結構心に負担がくる。新しい学びだ。


「いいですよー。じゃあ行きまーす」

しっかりとカメラの枠に収まるように、ほいっ。ほいっ。ほいっ。


ジャンプして見て、スーパーチャットの目的が判明した。

私のあれがボインボイン弾んでしまっている!

ジャンプしづらいけど、お金をくれた視聴者様のためだ。


ジャンプしながらもコメント見ていたのだが、私が跳び始めてから凄い勢いでコメントが流れ始めた。


★1000★

★3000★

★700★

★50000★

★20000★


ええええええっ!?

今、今なんか桁の違うスーパーチャット来なかった!?


見間違え出なければ5万来たけど!

私の5年分のお年玉きたけど!


錬金術師、シロウってコト!?

これが現代の錬金なのね。呪いなんかじゃない。これは神の与えたもうた恵みである。

ゆたかな恵みを揺らし続け、私は力の限り跳んだ。高く、より高く!


1時間そこらの配信だったけど、スーパーチャットで40万円も稼ぎだした。

目の色が分かっていくのが分かる。

わ、わたしは動画投稿も、ダンジョン探索も必要ない。ジャンプ……ジャンプすればお金を稼げるのだ!


脳内に行けない物質が流入してくる感覚があるが、やめられない。私は、次の呪いのときもジャンプする。きっとする!


その時だった、運営から連絡が来た。

何のことかと思ってみてみると、今日のライブ配信の動画を削除したという通知だった。

その後長文でつらつらと書かれており、要約すると、次ジャンプしたらアカウントごとコロスというお告げだった。


「ご、ごめんなさい」

私は動画投稿を48時間禁じられた。

やはり錬金術なんて実在しなかった。


人類はまた、錬金術という偉大な道から遠ざかることとなった。


「……真面目に生きようっと」

僕はこの歳で、何か大切なことを学んだ気がした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る