第18話

ライガー君の伝手を頼ってダンジョン前に魔法での戦闘を試みることができたのは大きな収穫だ。

雷の魔法ってかっこいい。

あんな体系の人でも、新幹線のように凄まじいスピードで動き回るのだ。

これが魔法、そして魔力の力。


この世界は、僕の知らないところで随分とおもしろいことになっていたみたいだ。


更なる成長の為に、動画は毎日投稿している。

一応、動画投稿の際にダンジョンに入ることも伝えておいた。


いずれはダンジョンの動画も投稿したいのだが、今は素人すぎて何も分かっていない。ダンジョンに慣れてから動画を撮影する方がいいだろう。

その方がレイザーさんや彩さんに迷惑がかからないで済む。


ダンジョンか。

ダンジョン……!!

くぅ、ダンジョン!!


最高だ。まさか憧れていたダンジョンに、ようやく自分も行ける日が来るとは。

明日からいよいよダンジョンだ。


動画の撮り貯めはしてある。

ダンジョンから戻ってくたくたになっているといけないから、キャロの媚媚動画を撮影済みだ。


あのコスプレ動画以降、家に大量のコスプレグッズが届いている。

僕の自腹を切って買う必要がなくなり、しかも投稿用のレパートリーが増えるという好循環。


キャロは可愛いのが好きみたいで、喜んで着てくれるが、ヴァネはたまにかみつかれそうになるので気をつけながら着せている。

お願いします。協力してくれたらチョコレートあげますんで!とぼそぼそ毎回お願いしている。


ヴァネに噛まれるとヴァンパイア化してしまうからね。

光がやたらと眩しく感じるし、外には出られない。

人に見られてもいろいろと不都合が生じるだろうし、ダンジョン外では噛まれたくないものだ。


ダンジョンの中だったらダイジョブ。むしろ試してみた。

ヴァンパイア化したときの力の高まりが、勘違いでなければすんごいパワーアップしている気がした。

あの力を、ダンジョンで発揮してみたい。

一体、どれほどの力を出せるのだろう。


ライジン大先輩が次にまた凄い人を連れてきたら、ヴァンパイア化の試運転もやっておきたい。なにせ陰キャの僕は経験が浅すぎる。

ものすごいスペックを持っていても、それを発揮できなきゃ意味がない。


「よし、寝よ」

明日は早朝に集合だ。

なんでも東京付近のダンジョンはどれもレベルが高く、新人向きではないらしい。

今回は、僕と彩さんがいるので、栃木にある新人向けのダンジョンに潜ってくれるらしい。


どこまでも配慮してもらい、本当に助かる。

そんな好待遇で寝坊するわけにはいないだろう。

目を閉じるとあっという間に眠りにつけ、気づけば朝を迎えていた。


母親から弁当は良いのかと聞かれたが、レイザーさんからは動きやす恰好で来るように言われている。

なので学校のジャージにリュックスタイルで新幹線乗り場へと向かった。

こんな感じでいいだろう。


後は手ぶらでいいと言われているので、忘れ物の心配もない。

待ち合わせの駅に向かって出発した。


待ち合わせの場所に早めに到着するようにしていると、既に三人いた。

迷彩服を着たレイザーさんたちがいる。


「わっ」

「おはよう!」

爽やかなあいさつでレイザーさんが迎えてくれた。

かっ、かっこいい。

三人とも軍人さん見たいだ。


ダンジョンに入るのに相応しい格好だ。

頑丈で、目立たず、機能性抜群!

それなのに僕ときたら学校のジャージだ。なんか恥ずかしい。


「よく来てくれたね。はい、チケット」

新幹線のチケットを貰った。

一時間程で着くらしいから、席はいいところをとってくれたみたい。羽振りのいいところも大人っぽくてかっこいい。


「茜としんやについてはまだ紹介してなかったよな?」

そうそう。チームの契約等は聞いていたのに、メンバーのことは全く知らなかった。

嫌味のしんやさんと、リーダーのレイザーさんは知っているけど、もう一人の美人のお姉さんのことも是非教えてください。


「茜はサポート魔法を使う。俺の妻だ。しんやは炎魔法の使い手。二人とも本名とダンジョンネームが一緒だ」

美人のお姉さんはレイザーさんの奥さんだったのか。

いかにも頼れる旦那さんって感じだもんな。レイザーさんって。連君みたいに圧倒的ではないが、堅実にモテそうなタイプだ。


「おっはー。あれ?私が最後?」

紹介が終った頃、僕の後ろから大好きな人の声が聞こえてきた。

彩さんだ!


急いで振り返ると、そこには魅惑の女神さまがいた。

ぴったりしたレザーのズボンと、レザージャケットを羽織っていた。まるでライダースーツをイメージしたコーデなのだろうか?でもダンジョン内で動きやすいかと言われたら、少し疑問が出る。

僕のジャージよりかはいいか。


いいや、そんなことはどうでもいい。

何より、そのセクシーさが半端じゃない。

彩さんのスタイルの良さが抜群に発揮されている。


ヒップラインも、すらりと長い脚も、そして何より胸!!

レザージャケットの中が薄手のシャツ一枚。へそ出しスタイル!

シャツも体にぴったりなサイズなので、おっぱいがおっぱいしていた。


「ん?どうしたの、シロウ。なんかついている?」

「あっ、いえ。おはようございます!」

おっぱいを凝視していたことがバレるところだった。

こんなに色っぽい人を身近で見るのは人生初めてだ。やはり良い匂いがする。ナチュラル深呼吸になってしまう。彩さんが近くにいる限り、僕が酸欠になることはない。


「みんな時間を守ってて偉い。彩、お前もう少し動きやすい恰好があっただろうに」

「いいじゃん。メディアもいるかもしれないんだから、少しくらい目立つような格好をしなくちゃ」

なるほど。流石彩さんだ。

既にメディアを意識しているとは。やはりこの美しさは学校とか一つの組織に収まる器ではないよね。


その傍にいられる自分の幸せを盛大に噛みしめて、僕はもう一度彩さんのいい香りを思いっきり吸い込んでおいた。陰キャには陰キャなりの楽しみがある!!


「上官殿はそれで良いって?」

「父さんはなにも言わないよー。レイザーさんいるし、信頼してるんでしょ」

「ひえー、そんなこと言うなよ。プレッシャーかかるぜ」

レイザーさんは彩さんの家庭を知っているみたいだ。

別にいいんだけど、思えばこの場で僕だけが彩さんのことを深く知らない気がする。

最初から三人と彩さんは知り合いみたいだったし。


ちょっと嫉妬し、陰キャのわずかな勇気を発揮して聞いてみた。

「彩さんとレイザーさんたちはどんな繋がりなんですか?」

「ああ、みんな元自衛隊だよ。三人は辞めちゃってダンジョン冒険者になったけど、昔からうちにはよく着てたから知ってるんだぁ」

「へー、それは頼もしいですね!」

よかった。変な関係じゃなくて良かったです!

彩さんのお父さんは凄い人みたいだ。だから彩さんも魔力値が凄いのかもしれない。


「けっ。彩のやつはともかく。完全な素人が俺達プロの足をひっぱるんじゃねーぞ」

ようやく口を開いたかと思えば、しんやさんの一言目は完全な嫌味だった。

もう口に染みついているのかもしれない。


「しんやさんは昔からああだから気にしないで。いつも嫌味で大口も叩くんだけど、実力派微妙なのよね、あの人。父さんの前ではへこへこしてるし」

かっこわる!

目上の人の前ではへこへこして、陰キャ高校にはいきり散らかす。だいぶかっこ悪い!


彩さんに真実をばらされて、しんやさんは輪から少し外れた。

なんだかしょげたみたいだ。少しかわいいおじさんかもしれない。


「それよりシロウ、あんたも考えたわね」

彩さんが肩を組んできた。

良い匂いがする。なんか柔らかい。全部が良い!鼻血が出そう!


「なっなんのこここここ、ことでしょう……」

体ががちごちに固まり、下も上手に回らない。

「学校のジャージでくるなんて、いい目立ち方しているぅ。ダンジョンネームの陰キャともマッチしているし、メディアが来てたらあんたも良い感じで目立ちそうね。意外と頭いいじゃない」

違います。これ以外に服がないからこれを着てきただけです。

陰キャはあんまり外に出ないから、洋服代が浮くと同時に、有事の際に服がない生き物なのです。


「……はい。流石です。全部読まれちゃいましたね」

「そりゃね。同じこと考えてるから。ダンジョンで何かあったら私が守ってあげる。じゃあ、今日一日よろしくね」

「はい」

好きです。めっちゃ好きです。全部好きです。

大きいダンジョンとかだと泊まりで散策とかあるらしい。


僕は彩さんと同じチームを選択した過去の自分を、誇りに思う!

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