第13話
僕の魔力値だけど、測定後に何かひっかかるものを感じた。
その直感というか、違和感というか、なにかを見落としている気がしたのだ。
けれど、こういうのは考えれば考えるほど閃いてこないものだ。
僕はあきらめてまた日常へと戻っていく。
日曜日にも動画の投稿をしておいたら、月曜の朝にめでたくチャンネル登録者が1万を超えた。
僕の魔力成長と同じくらい伸びてて、とても嬉しい。
ここ最近キャロとヴァネの癒し動画しか出していない。
それはそれで好評なのだが、これでは魔物とほのぼのチャンネルだ。
召喚魔法の便利な使い方を紹介したい僕の当初の目的と大きく逸れてきたので、今日は久々に便利系動画をあげようと思っている。
朝、学校に行くとまた校門で連君と出会った。
相変わらずイケメンだ。私服もかっこよかったけど、制服だと凛々しい雰囲気が出ていて僕までキャーとか言い出しそうだ。
「連君、おはようございます」
「……おう」
ちょっと間があった。
前回もこんな感じだった。
あまり鈍い人とは思えないし……もしやまだ僕のことを覚えていない!?
「ダンジョン講習会有意義でしたね」
「ああ、ダンジョン講習会にいたやつか。彩が連れてきたから、お前も結構魔力が高いのか?」
やっぱりさっきまで気づいてすらいなかったみたいだ。
悲しみ。
僕のことはジャガイモの少し形の違うやつくらいにしか思っていないのかもしれない。
魔力10万越えの人は見えている景色が違うのかもしれない。
「はい、結構魔力高めのジャガイモです」
「ジャガイモ?」
「あっ、いえ、魔力高めのモブです。そのうちダンジョンで一緒になるかもしれませんし、覚えて貰えると助かります」
「おう、ジャガイモのモブ君ね。よろしく」
覚えてくれればそれでいいけど、なんか雑な人だな。
魔力がどれほど上がればこの人に覚えて貰えるのだろうか?
僕の魔力はどこまで成長するかにもよるけど、認識してもらえるくらいまで伸びたら本当に嬉しい。
「ダンジョンに入るチームは決めましたか?」
「最大手のとこだな。特別興味をそそられるところがなかったから、安牌にそこだな」
最大手のダンジョン冒険者チームか。
テレビやネットのニュースでもよく見る。
その人たちも動画投稿チャンネルを持っていて、登録者は数百万に上る人気ぶりだ。
僕も何度も見たことがある。
かっこいいんだよなー、メンバー全員が。
「ジャガイモは?」
「はい、彩さんと同じとこか、もう1チーム声をかけられてて。どちらかにしようかと思っています」
「レイザーさんのとこか。あそこは安定しているな。もう一つは?」
「詳しくは知らないんですけど、バンガスさんって人です。連君は知ってますか?」
「ああ、あの人か。あそこも良いぜ。良いとこと知り合ったみたいだな」
おおっ、連君も知っているとは、バンガスさんも有名な人だったか。
それにしても、レイザーさんといい、バンガスさんといい、ダンジョンネームを名乗る人って多いんだなという印象だ。
ダンジョンは現実を忘れさせてくれる魅力があるって言うし、こちらに戻ってきてもダンジョンネームを名乗っていたいのはダンジョンでの気持ちを切らさないためなのだろうか?
僕にはわからないが、先人がそうしているなら僕もそうしようかな。
ダンジョンネームか。
考えて見ても面白いな。
召喚者、うーん対象が多すぎる。シャドウ、うーんちょっと僕の印象と違う。
ジャガイモ、連君くらいしかしっくりこなさそう。陰キャ……なんかビビッきた!
かっこ悪いけど、めちゃくちゃ僕に相応しい。
僕のダンジョンネームは陰キャで行こうかな。ダサいけど、スターになる人でもないので、このくらい適当なほうが周りから覚えて貰えるかもしれない。
「陰キャ……わるくない」
これで行こうかな。
案外適当に決まるものだね。僕のは適当すぎる気もするけど。
教室内に入ると、またも視線が集まった。
ただの陰キャの僕にこの注目は荷が重い。何か期待に応えてウエーイとか言ってやればいいのだろうか?陽キャの人たちは朝からどうやってそんなテンションに持っていくのだろうか?
血の流れる勢いからして違う気がする。
席は先週から平和で、僕は安心して自分の席に着席できた。
授業の準備を始めていると、横から肩を組んできた人がいた。
「よう、あれで終わりだと思ってねーよな?」
ライガー君だった。
あれで終わりじゃないんですか?
先週末休んでいたライガー君だったけど、今日は元気に登校していた。
「放課後屋上に来な。逃げ出したら許さねーぞ」
「……はい」
なぜだ。あれだけの実力差を見せておいたのに、魔力量の差も歴然だと昨日で判明した。
僕の魔力は2万越えです!って豪語したらまとわり着いてくるのをやめてくれるだろうか?
「じゃあ楽しみにしてるからよぉ。くくっ」
なんだその不気味な笑いは!
なにか、何か秘策があるんだね!?
僕は魔法でのバトルをしたことがない。
だから経験値ゼロだ。
まともに喧嘩をしたことだってないんだから。
前回ライガー君を殴り飛ばいたのだって人生で初めて人を殴ったんだから。
まずい、変な罠に嵌められたらどうしよう。
そんな心配をして一日を過ごしたけど、周りからは僕の様子の変化なんてわからないんだろうなー。
いつも静かな陰キャが、今日は特別静かなだけだ。
放課後、ライガー君と陽キャグループたちに囲まれてまたも逃げ道をふさがれた。
前回教室で同じことが起きたのに、僕が無事に帰ってみたことをみんなはどう思っているのだろうか?
今回も誰にも助けられずに僕は屋上へと連行されていった。
奥所には、いかにもって感じの不良生徒が3人いた。
雰囲気からして上級生だと思う。
高校1年の僕と比べると、随分と大人に見える。
僕らの時期は数年で大きく成長すると聞くが、上級生を見るとそれをもろに感じる。
「おら、いけよ」
ライガー君に背中をドンと押されて、前に歩まざるを得なかった。
上級生三人の前に立つ。
真ん中の少し太った男の人がボスっぽい雰囲気を放っていた。
「てめーか、俺の弟分を殴ったってやつは」
「……いえ、あれは不可抗力でして」
スパッ。
反論を許さないという感じの拳が飛んできた。
ギリギリで反応して、顎をかすめただけでなんとかなった。
「あん?はずした?……まあいいか。次勝手にしゃべったらコロス」
はい、と頷いておいた。
迫力が半端じゃない。怖すぎる。裏社会の人と言われても不思議じゃない怖さだ。
「てめー、俺たちに逆らってどうなるかわかってねーようだな。今日は半殺しにするのは確定だとして、明日から毎日1万円持ってこい。ダメなら、裏の仕事をして貰う」
ブルンブルンと首を横に振って置いた。
嫌です!無理です!伝わって下さい、この思い。
「ライジュウ先輩、こいつまだ反抗心あるみたいなんで、一回締めてくんないですか?自分の立場ってやつを分かってないみたいで」
「それもそうか。てめーらどいてろ。ライガー君を倒すやつなんだろう?多少本気で殴っても死にゃしないだろ」
「良かったな、毛虫野郎。ライジュウ先輩は魔力18000を超える人だ。2年で一番魔力量の高い人だぜ。くくっ、俺に逆らうからこういうことになるんだ」
18000……、低くね?
あれ、聞き間違えた?
え?これってどうしたらいいの?
ライジュウ先輩が立ち上がって指をポキポキと鳴らしている。あれになんの意味があるかはわからないけど、言うことを言っておかないと。
「あの、ライジュウってダンジョンネームですか?」
「は?なんだそりゃ」
本名だったあああああ。ライガー君といい、ライジュウ先輩といい、キラッキラしております!
「勝手に喋るなって伝えたよな。死んどけや」
ライジュウ先輩が駆け寄ってきて、拳を振りかざす。
――やはりそうだ。
遅い。動きが遅すぎる。
魔法での戦闘ならどうなるかわからないけど、生身での戦闘なら魔力さがもろに出る。
ライジュウ先輩の拳をギリギリで躱して、カウンターの一撃をその頬に叩き込んだ。
ライガー君で一回やっているから、前回よりスムーズに体が動いた。
拳が当たると同時に、ライジュウ先輩屋上のフェンスを飛び越えて校舎下へと落ちていった。
……よわー。
一日不安な気持ちでいたのに、よわー!!
後ろを振り返ると、ライガー君と陽キャグループが驚愕の表情でこちらを見ていた。
「てめー、ゴリラにでも育てられたのかよ!覚えてやがれ!」
踵を返してライガー君は逃げて行った。
覚えていやがれ?
まさか、まだ続くの?この感じだと、三日後くらいに3年生が出てくる感じ?
おいおい、無限陽キャ地獄ですか?
なんとかこのくだらないループから抜け出さないと。
ていうか、いずれ僕より強い人が来たら、とんでもない目にあうんじゃないか。
対策が必要だ。
なにか対策が。
屋上に残った陽キャグループに、いつもの追い込み漁の意地悪をして僕は家に帰ることにした。
この無限地獄を抜け出す案を考えながら。
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