第34話 球技大会:エキシビション 交代

 言わなければいけないことがある。


 伝えなければいけないことがたくさんある。


 色んな人に。


 でもまずはそう。


「すみませんでした!」


 頭を下げる。エキシビションマッチのために集まった人たちに。先輩、同級生たちに。女子バスケットボール部の人たちに。


「こんな時期に、こんな時期になってしまって申し訳ないのですが、あたしを……私を、バスケ部に入れていただけないでしょうか! バスケ部に入って、いいでしょうか!」


 一瞬の間のあと、答えは言葉と衝撃として返ってきた。


「いいに決まってんでしょ」


「部活に入るのに部員の許可とか、別にいらんし」


「遅いっての!」


「今度メシでも奢って~……全員分」


 囲まれ、もみくちゃにされ、先輩の手があたしの顎をうりうりと掴む。


 同級生の子が腹パンくれる。けっこう痛い。


 誰!? いま胸揉んだ奴誰だ!?


 バッと胸の前に手をクロスさせる。そんなあたしを見てみんな笑っている。


 あたしも笑っている。



「チーム分けどうしよっか」


「え、決めてたやつでいいっしょ?」


 ストレッチの間にそんな会話がなされる。


「はい。特に変える必要はないと思います。どうぞ」


 古賀さんがビブスを配っていく。


 それを受け取った先輩の一人が、古賀さんに突き返す。


 あたしと古賀さんは、前の試合のまま、そのままビブス着ているのだけど。


「あんたはあっち」


 なんとなくビブスを着用した者から順に同チーム同士で集まりだしていて、つまり『あっち』はこっちのことで。


「ほら早く脱いで」


 ほらほらほら、と急かされて古賀さんが黒いビブスを脱ぐと、先輩はそれを寄越せと手で招く。


「どうせ、神辺と一緒がいいんでしょ?」


 それは侮蔑だとか卑屈だとかとは一切無縁の、けどただの親切や優しさでもなくって。


「……ありがとうございます」


 古賀さんは黒を白に取り替えて、ゆっくりとそれに腕を首を通した。


 『こっち』に来る古賀さんを、あたしたちが迎える。


「よろしく古賀さん」


「よろしくお願いします神辺さん」


「ま、うちらが勝つけどねー」


 黒いビブスの先輩があっけらかんと言い放つ。


「「いえ、私たちが勝たせてもらいます」」



「ところでこれ、やっぱちょっと汗臭いかも?」


 先輩がビブスの襟をくんくんと嗅げば。


「!? そ、そんなことありません! ありませんよね!?」


 古賀さんがわたわたと先輩の手を止めにかかった。

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