外伝2 どうなってるんだよ!

 クソッタレめ!


 せっかく上手く行ってたのに。


 パイオツだけが取り柄の地味顔モブ女にやられちまった感じだな。


 ひでぇ目に遭った。


 あんなクソ親父でも親は親。実家をたたき売ったカネで示談交渉をしてくれた。何とか示談に持ちこんだけど、告訴自体は取り下げねーからよ。


 示談成立のおかげで軽めになったとは言え、模範囚で頑張っても出るのに2年かかった。


 あんなところ、二度と入るもんか。


「とにかく、オンナだ」


 出所したオレは、有り余るほどにたぎるもののはけ口を求めた。もう、この際だから、ずっと前に飽きてポイした女でも再利用できるくらいに飢えてるオレだ。


 ところが、昔の女たちは全員が拒否ってやがる。保存してあった写真や動画ネタは全部警察に没収されたから、今さら呼び出すのも難しい。かといって、あの地味顔女に連絡したら、さすがにヤバいだろっていうか、あいつも拒否ってやがる。


 じゃあ、風俗にって思ったけど、そんなカネはなかった。 


 オレがムショにいる間、オヤジも再就職に苦労したらしい。ネットの炎上はすごかったんだと。


 どこかのバカが親父の名前と職業がっこうをネットに載せやがった。


 その日のうちからオヤジの勤める学校の電話は鳴りっぱなしになったらしい。親は関係ねーだろって思ったよ? 


「息子も教育できないヤツが教育者なんて」

「ゴーカン教育はヤメレ」

「レイプ魔の育て方を、この学校では教えてくれるんだって?」


 そんな苦情電話やFAX、メールが山のように来て学校の電話は全部塞がり、メールサーバーは飛んだ。電話を取ると脅しやイタズラ、コンコンと説教をしてくるヤツ。イタズラと脅迫まがいのファックスは数百枚になって紙とインクカートリッジが空になるまで延々と着信を吐き続けた。


 校長もそれとなく退職を勧めてきて、定年まであと2年を残して退職することになったらしい。


 退職金で示談交渉をしようと思った矢先に、オレの会社からの損害賠償請求の予定が伝えられた。被害額が確定してないからといいつつ億を超えてやがった。


 家と土地を売って、貯金と退職金を全部つぎ込んで、それでも足りない分は借金と言うことになったらしい。


 借金を返すために働こうにも、オレの事件がわかった時点で全部断られるのは予測通り。


 ともかくこの名前じゃどうにもならないってことで、両親は一度離婚して再婚。母方の「佐藤」になって何とかなったはずが、教員系の仕事だと世間は狭い。履歴書を出すと一発で身バレしてしまう。

 

 どこの学校にも断られてしまうのだとか。


 ようやくビル清掃の仕事にありついて、オフクロも近所のスーパーでパートをしている。


 オレ自身の顔写真も「まとめサイト」にたっぷり載ってるっていうか、ムショに入ってる間、オレのアカウントは晒され放題だったじゃん。弁護士のヤツ、そのくらいはヤッておけつーの!


 ムショ帰りとなったら雇う相手は必ずネットで検索をしやがるしな。

 

 結局、親父の命令もあって、東京を外れた零細企業を中心に回ってみたが、上手く行かない。


 W大卒だぜ? インスタント食品のトップメーカーで一年以上もバリバリ働いていたんだぜ?


 それが零細企業の安い給料で働いてやるって言ってるのに何を文句付けるんだよ。

 

 前科者だからダメ?


 おいおい。オレがヤッたのは殺人でもなければ、チンケな泥棒でもねぇぜ? まあ、ハートはいっぱい盗んだけどなw


 地味なピンボケ女をちょっくら遊んでヤッたのを逆恨みされただけだ。仕事ならちゃんとデキる男だ。なんで雇わないんだよ。


 クソッ。田舎だと、仕事のデキるデキないよりも、世間体を問題にしやがるんだ。


 仕事がねぇ~


 小遣いをねだれる雰囲気でもないしな。


 しかたねぇ。バイトでもすっか。と言っても女どもが調子に載りやがって、次々に訴訟を起こしてきた。賠償金を合わせると8ケタとなる。しかも自己破産してもチャラにならないらしい。


 詰んだ?


 いやいや、そんなことはない。オレくらいの能力と、この「顔」があれば、じゃの道は蛇ってやつだ。


 ちゃんと「手」はある。


 学生時代のナンパ仲間に声をかけたら、ちゃ~んと良い話を紹介してくれたぜ。やっぱり学生時代の仲間は大事だな。

 

 六本木のクラブの裏で落ち合った。


「ヘタを踏んだな~ だが、りょうならできそうなバイトがあるんだ。ただし、割が良すぎる仕事だから内緒にしてくれよ」

「あぁ、すまねぇな。さすが昔の仲間だぜ」

「なぁに、良いってコトよ。ちょっと海外に行く話らしいんだけどよ。ま、オレは直接知らないんだけどな。明日、ここへ行って話を聞いてくれ」


 翌日、指定されたホテルにいくと、白い民族衣装を着けた男がいた。


 紹介されたのはアラブかどこかの王族らしい。すげっ、王族だってさ。


「Singaporeのマイフレンドにワインをトドケテくださーい」


 シンガポールって言ったのか? ワインを持ってくだけ?


「エクスペンシブなワインは手でしかはこべませーん。ゆー あんだすたん?」


 英会話はダメだが、この程度はオレにもわかるぞ。高級ワインは貨物で送れないから手で運べってコトか。


 普通は仮釈だとビザが降りないらしいが、今回の行き先はシンガポールだ。ビザ無しでいける。


 え? マジ? 往復だけで十万くれるの? やりぃいい! ついでに水をジャジャボ吐いてる何とかライオンも見てくっか。ホテル代も負担してくれるらしい。しかもシンガポールっていえば女が安いじゃん。


 やりぃいい!


 さすが王族。太っ腹だねぇ。ちょくちょく、こんな仕事をもらえれば、チマチマ働かなくてすむだろ。


 ちょっと箱はデカいけど、オレの身体なら大した重さでもない。揺らすなって言ってたな。女と遊んでも仕事はちゃんとやる、それがオレの流儀だ。


 初めての国際線に乗るのにちょっとドキドキした。言われたとおりスーツケースの中に厳重に梱包した上で預けた。って言うか梱包はあっちがしてくれたから、その隙間にオレの荷物を詰めた感じだ。


 大切に持って行かないと。たったこれだけで十万だからな。チョロいチョロい。


 ま、オレにかかりゃ、初めての海外旅行だって、こんなもんよ。

 

 後は、手荷物を受け取って入国検査を通るだけ。出口で待ってるハッサンとか言うオッサンに中の箱を渡すだけで完了だ。


 えっと、オレの飛行機の荷物はここに流れてくるんだよね?


 おっ、来た、来た。これか。


 流れてきたスーツケースを手に取った。うん。タッグにもオレの名前がある。


 OK。


 ん? なんかいきなりオッサン達に囲まれて早口でまくし立てられた。


 なんだ? なんだ? え? これ、オレのスーツケースだよ! 盗んでない。オレの! ほら、名前を見ろよ! な? これ。ほら、パスポートと同じだろ?


 盗んでないから! 


 え? なに、中身? ワインだよ、オレはワインを運んだんだよ! おい! いったい、何が起きてるんだよ! オレのバックには王族がいるんだぞ! わっ、おい、オレは日本人だ! いてっ、やめろ! ワインの何がイケナイんだよ! やめろ! ヤダ、ヤダ、ヤダ、手錠はもうヤダぁああああ!



・・・・・・・・・・・


 昼のニュースのトップでアナウンサーが読み上げた事件。


 シンガポール政府によりますと、本日、入国しようとした日本人「シオザキリョウ」が機内に預けた手荷物のワインの箱に隠した覚醒剤1キロ、末端価格にしておよそ2億円分を持ちこもうとして逮捕されたとのことです。現在、現地の外務省担当者が確認に当たっておりますが、事実であるとしたら現地の法律では、麻薬の密輸に対して死刑を含む厳しい刑罰が予想されるとのことです。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者から

「貧すれば鈍する」と申します。塩崎君も金と女に困ってなければ、こんな初歩的な手口に引っからなかったのかもしれません。

 ちょっと短いですが、他の人の話と混ぜるのも嫌だったので、独立した話とさせていただきました。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 

 

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