第15話 ボクは泣く。

 せっかくボクが理解したのに、なぜかマリアンヌは溜息をついた。

「ふぅ……まぁいいでしょう。

 ローゼンクランツ殿下と取り巻きどもは、そんな腐った悪の貴族どもだけを富ませ、民を貧しく国も貧しくしようとしております」

「なるほど。悪だからな!」


 民を貧しく国も貧しくしようとするものは悪! 覚えた!


「そもそも、貴族達は、民の生み出したおこぼれを貰って生きているのです。

 おこぼれを貰う代わりに、国を守り、国のために政治を行っているのです。

 我らは民という海に浮かばせてもらっている浮き草。どちらが主客は明白でありませんか?」

「なるほどなるほど、そうだったのか!」


 ヤツらが悪だと判ると後は簡単じゃないか。

 なんで誰も教えてくれなかったんだろう?

 凄いスピードでモリモリ賢くなっている気がするぞ!

 ボクの才能の花開きっぷりが我ながら恐ろしい!


「民が富めば、我らに回ってくるおこぼれも増える。民も我らも豊かになる。

 当然、国も豊かになるのです」

「うんうん。判ったぞ。民から片っ端から奪うのはいけないのだな。奪うヤツらは悪だ!

 弟よ! ボクはかなしいぞ! どうしてそんな極悪人に!?」


 なぜかマリアンヌは溜息をついた。

 なぜだ? ボクはどんどん賢くなっているのに!?


「この程度で妥協しておきましょう……テレーズ嬢は我が国がここ数年で一気に発展しているのをご存じですよね」

「はい。立派な堤防が出来て、広大な耕作地が生まれて、民が富み始めたのがきっかけだと。

 完成した堤防を見たとき、わたしは胸がいっぱいになって思わず泣いてしまいました。これでからは、洪水でたくさんの方々が死ぬことはなくなるのだと……」

「え? あれ完成したの?」


 ボクはびっくり。

 あの大堤防は完成しないことで有名だったのに……。


「賄賂と中抜き混じりの現場にメスをいれ改善した上で、国が金を出して完成させたのです」

「そうだったのか……やるじゃないかボクの国は――いていていでぇぇぇぇ指が指がぁぁ」

「国は民のものです! 殿下のものではありません!」

「は、はい……」


 ちぎれるかと思いました。


「ですがその堤防が今、危機に瀕しています」


 ボクはピンときた。


「悪いヤツらだな! 弟をはじめとする悪いヤツらが何かしようとしているんだな!」


 弟よ! なんでそんなに極悪人になったんだ!?

 兄はかなしいぞ!


 ボクの目から涙があふれてくる。


「うぉぉぉぉぉぉ! うぉ! うぉぉぉぉ!」


「……テレーズ嬢。殿下はなぜ号泣しているのでしょうか?」

「え、ええと。ローゼンクランツ殿下が悪の道へ踏み込んでしまったことを悲しんでおられるのだと。

 ですが、危機とはなんでしょうか? 堤防は完成してまだ一年です。古びて壊れるにはまだ時がいると思うのですが」


 マリアンヌは、くいっとメガネを直し、


「テレーズ嬢。いい質問です」


 テレーズがほめられた!

 なんかボクもうれしいぞ。




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