婚約破棄したのに名君になれるかも!?

マンムート

第1話 婚約破棄したぞっ!

 ボクはぶるっと震えた。武者震いだ!

 やるぞ、やってやるぞ!


 ビシッと格好よく婚約破棄するのだ!


 隣を歩くテレーズが、ボクを励ますように、手をそっと握ってくれる。


 地味で薄暗い婚約者と比べものにならないテレーズ!

 明るくて、素直で、たまにはボクの耳に痛いことも言ってくれるテレーズ!

 彼女の周りはいつも、いい空気で満ちてるテレーズ!


 おっぱいも大きいしな!

 すごく恥ずかしがりながらも、胸元が大きく開いているドレスも着てくれるテレーズ! それでいて、最後の一線は越えさせてくれないテレーズ。


 ふたりの明るい未来のためにやるんだ! やってやるんだ!

 婚約者になれたら、最後の一線を越えさせてくれるかもしれないからじゃないんだからな!


 卒業パーティ会場に入ると、あいつを探す。

 どこだ!? あの灰色メガネ女は!? どこに隠れている!? 

 地味な女だから壁と一体化してても不思議じゃないが、それでも判るんだからな!

 あんなみっともない分厚いメガネをかけているのはあいつしかいないもんね!


 いた!


 ついにこの時が来た!

 奴へ突進だ! ビシッと言って引導を渡してやるぜ!


 ボクはコストレリアの王太子! 19才だからもう大人!

 やればできる男なんだからなっ!


「ガルドリング伯の娘マリアンヌよ!」


 婚約者であるマリアンヌの前にボクは仁王立ち!

 尊大な感じに腰に手を当てて王者のポーズを決め、ズビシッとメガネ女を指さし、高らかに婚約破棄を――


「お待ち下さい殿下」


 妨害したのはメガネ女当人。いちいちカンに触るヤツだ。

 なんでこんなヤツがボクの婚約者なんだ。すぐ元婚約者になるけど。


「私の実家はガルドリングではなくゲルドリングです。

 ちなみにガルドリング家は男爵家で、娘は三人。長女でもまだ5才です。

 いささか速すぎるのでは」


 分厚いメガネの下の表情は読めない。


「うるちゃいっ! 誰でも間違いはあるのだ!」


 ガとゲのちがいなんてどうでもいいだろうに! そういうところだよ!


「それから殿下が告げようとしている台詞は言わないほうがよろしいと考えます。殿下の立場を危うくするものであり――」

「殿下! やはりやめたほうが! 私は日陰の身でもお側にいられるならいいんです!」


 メガネの言葉もテレーズの最後になるだろう忠告も無視する。

 

 テレーズは何度もボクを止めようとした。

 だが、ボクの決意がダイヤモンドより硬いと知ると、最期までご一緒しますと言ってくれたんだ!


 今いわないでいつ言うと言うのだ! 男はやるときにはやるのだっ!


 呼ぶぜ俺のターン!


「ゲルドリング伯の娘マリアンヌよ!」


 ボクはポーズを決め、ズビシリッ、とメガネ女を指さした!


「ここにっ! お前との婚約破棄をっ! 宣言するぅっっっ!」


 ついに、やった! やりました! ぶちかましてやった!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る