第2話 親父ヅラ

 日曜日のショッピングモールに少女の甲高い声が響く。

「いちいち父親ヅラすんな!」

「そうは言っても世間体というものが」

「見苦しいんだよ! もっと男らしくしろよ!」

 少女は困り顔で笑う父親に食って掛かる。

「でも、男らしくしたら笑うよね?」

「笑わねーよ」

「本当に笑わない?」

 少女の顔色を窺うような目つきで言った。

「何度も言わせるな!」

「わ、わかった。男らしくするよ」

 父親は丸まった背中を伸ばす。両手を挙げて頭部を挟み込むような姿となった。

 周囲にいた人々は足を止めて成り行きを見守る。

 父親は思い切って被っていたカツラを外した。側頭部に綿毛のような自毛じもうはあったが、他は見事に禿げ上がっていた。

「それでいいんだよ。これからもすんなよ」

 周囲がざわつく中、少女は満面の笑みで親指を立てた。

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