ep26 足りなかった準備
この部屋に扉はない。
外界との連絡手段は小さなチャット用の端末一つ。
だからと言って不便な部屋なのかと言えばそうではない。
高級なベッドなどの調度品が置かれたこの部屋は外界から隔絶されているという点を除けば間違いなく世界でもトップクラスの住環境だ。
「安心してください、そう、安心すれば生きていけるのです。」
独り言が癖になっている。
そんな部屋に突然気配が増える。
「ただいまぁ……。」
財園グループトップ、そして現日本王国女王。
財園和雨その人だった。
イベントの決着がついたあの日、色々と確かめた彼女はその“テレポート”を利用してこの部屋に自分を監禁したのだった。
「はい、ズボンさげてー?」
言われるがまま、されるがままにズボンを下ろす。
こんな部屋に誰が来るのか、そんなことは関係ないのだろう。
もしかしたら誰かが“テレポート”を使えるようになって奪われてしまうかもしれないとでも思っているのだろう。
――カチャ、カチャ、ガチャン!
その気になれば全身の自由を奪える特殊なスーツ。
人と肌同士での接触ができないように全身を覆いつくしたその黒いスーツの事を目の前の少女は【貞操マモル君フルガード】と呼んでいた。
関節部に仕掛けられた鍵を開けペラペラと剥がすように取り除いていく。
「はい、おしめも変えるよー?」
もちろんこんなものを付けられていてはトイレなぞできない。
だからトイレは毎回この少女が帰ってくるまでおむつである。
「安心してください、漏れてませんよ。」
「フフフ、やっぱりおむつの性能は大事だねぇ……もう横から洩れることもないんじゃない?」
だがこれも身から出た錆というやつらしい。
イベントの最後に使用した【届かない掌】によって悪夢を見せられた彼女はそれまで我慢していた感情を爆発させてしまったのだ。
もうどこにも逃がさないという強い意志を持って自分を拘束し、おしめまで自分の管理下に無いと安心できないというのだ。
「仕事はないのか?」
RANK5が認知されることを知っていた頃から計画していた、日本を乗っ取る作戦が実行されインフラ系統を全て財園グループが管理下に置いたことで日本という国が消えた。
銀行、交通関係、物流、通信……それらを取り上げれば国など簡単に崩れていった。
今では日本王国となり、その女王に目の前の少女は君臨している。
武力による鎮圧を狙った旧政府もRANK5の魔術師を加えた私設部隊によって文字通り叩き潰された。
その後の混乱を財園グループで治め、今では散発的なテロリストをRANK5で鎮圧している状況にある。
「フフフ。これからは月に一度反逆者チェックをしてもらう程度でいいかなぁ?」
サイコメトリーでその人の思考を読み取り、現政府への反抗の意志を見せた途端収監する“反逆者チェック”の仕事。
この時だけは他者と話ができるのでショコレータ自身少し楽しみにしていた。
しかしその頻度もこれから減っていくのか。
「その分私と一緒に居られる時間も伸びるから……ね?」
……。
「安心してください、この生活は悪いものではありませんよ?」
誰に聞かれるまでもなく、独り言を漏らした。
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