ep20 天下に敵無し恋して走れ

砂塵吹き荒れる決闘場。

まさにそんな言葉が似合う様相となった戦いは終始バンデットの劣勢を呈していた。


「クソッ!“無刀流・砂丘”!」


地面を砂へと変化させ、ペンツァーの移動を阻害するも、その効果はほとんど感じられなかった。


――ザザザザザザッ!ダン!


「アッハァ!」


砂に足を取られることなく走り回る彼女は空中に跳んでバンデットを見つけると、さらに空中を蹴って肉薄する。


「なんなんだよ!……なんだってそんなに動けるんだよ!?」


「私の“アイアンブーツ”は地面に触れる直前、足場を作るんだ!砂の上だろうが空中だろうが私が走れると思った場所は全部私の足場さ!」


「チート野郎!」


「野郎じゃないんだよなぁ!?ほぉらぁ!おとなしく凌辱されなって!」


――ダァン!


踵落とし一発で周囲の砂が巻き上がってしまうほどの威力。

ブワ、と舞った砂の中から銀光が瞬くように襲いかかる。


「“無刀流・黄砂”!」


――ギィン!


大太刀と銀靴がぶつかり合う。


「……クソッ、まだ全然スキルも出させてねぇってのに……!」


「そんなに知りたいなら教えてあげよう!」


ぶつかり合った体勢から前方へ倒れ込むように進むペンツァー。

その瞳がバンデットの瞳を捉える。


「“フォールン・チャーム”……気持ちいいでしょ?」


――ガクン!


両膝を砂地へ落とし、バンデットは体を震わせた。


「あ……あぁ……はぁ……あぁ!」


「さ、私の胸に飛び込んでもいいんだよ?」


「てめぇ、なにしやがった!?……ぐっ……!」


「無理はしないほうがいい。今は“初めての恋”に心が軋んでいるんだ。」


「あぁ!?」


「この世で最も重くて、愛おしくて、そして何より大事なのは“初恋”さ。今の君は私に“初恋”してしまったのさ。」


バンデットは体を動かせずにいた。

違うのだ。

動けないのだ。


「初恋なんて、って思ったんだろう?でもそうじゃあない。初恋ほど重い愛はないよ。心が育てば富や名声……力といったものに価値を感じてしまう。そうじゃないだろう?恋っていうのはそんな即物的なもので歪んでしまうようなものであるはずがないんだ。」


敵意が消えていく。

目の前の相手に抱きしめてもらいたい。

愛されたい。


「3大欲求と呼ばれるものに睡眠と食が含まれるのは生きるため。なら性欲はなんだい?繁殖のための行動を何故欲する?」


「俺は……俺はぁ!」


「違う。繁殖のために恋をするんじゃない。恋をした果てに繁殖があるのさ。恋という感情は人間の根源的な欲求、それを知らずに皆大人になってしまうのだから……今の君は初めての快感にその体が敏感になっているんだ。」


――ドサ。


完全に倒れてしまったバンデットの顎を持ち上げ、その瞳を捕まえたペンツァーは続ける。


「まぁ、簡単に言えば君は“恋に絶頂して動けない”ってわけだ。“フォールン・チャーム”。」


バンデットの体は、もうすでにペンツァーの玩具となり果てたのだった。

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