男嫌いのパーティに男として参加させられたんだけどどうすればいいの?

ACSO

第1話 絶縁

 羽ばたき一つで木々を薙ぎ倒し、咆哮で屈強な兵士の意識を刈り取る。

 鋭い鉤爪は人の肉を容易に切り裂き、強靭な顎は骨を苦もなく噛み砕く。


 竜種ーーワイバーン


 俺の上空で悠然と羽ばたく竜に、特別な力を持たない、されど勇敢な兵士たちは抗うこともできずに惨殺されていた。


 それもそうだろう、竜種に一般兵に配給されるナマクラの剣で切り傷など付けられるはずもないのだから。


「ひでえな」


 ある用事をすっぽかして来たときには、辺りに肉片が飛び散り、血の匂いが嗅覚を麻痺させるほど蔓延している。


 森と街の狭間で、領民を守るために命を張った兵士たちに少しだけ黙祷する。


「GHAAAAAAAAAAAAA!!!」


 視線を逸らしたことを舐められた、と感じたのかワイバーンは耳をつんざくような咆哮を放つ。


 聞いたものの戦意をへし折るような声は、心底不愉快だが俺には効きはしない。


「うるせえ」


 気温がぐっと下がる。


 伸ばした手の先、敵に向けた掌から氷が伸び、空中に佇むワイバーンの脚を捕える。

 そして空いている手も同じようにおもむろに伸ばした。


「偉大なる命の煌きよ、形となりて想う。汝の力、雷を持ってここに喰らわん」


 魔力の高まりと呼応しバチバチ、と俺の身体の表面を紫電が迸り、発動中の氷と衝突し、弾け飛んだ結晶がキラキラと煌めく。


「GYA!? GGHAAAAAAAAAAA!!!!!!」


 爆発的に膨れ上がる魔力を感じ取ったワイバーンは離せと言わんばかりに自らの脚を拘束する氷の枷に噛みつくが、容易くは壊れない。


「我は集う。汝の力による救いを……」


 膨張していた魔力が一気に掌に収束し、刹那の静寂。

 時間が止まったような錯覚をするような無の時間の後、必殺。



 ーー雷撃



 向けられた掌ーーではなく、中空から一筋の雷が寸分違わずワイバーンを穿つ。


「ーーAAAa……」


 どうにか足枷を外そうと暴れていたワイバーンは、抵抗らしい抵抗もできずに絶命し、焼肉となった。


「……いつも思うけど、なんで手を相手に向けないと上手くいかないのに雷は空から出るんだ?」


 大物を狩ったなか、俺の関心は無意味に手を伸ばさせられるこの魔法にあった。

 緊迫した場面でなく、この魔法がもっとポップなものであったのなら『そっから出るんかい!』というツッコミ間違いなしだからだ。

 いつも考えるが、結局答えはでないので謎のままなのだが。


「それと、魔法使いを雇えない領主、まずいなあ」


 そこそこ危険な魔物が出るのにも関わらず、十全な防備ができていない現状を嘆いた。





 ☆☆☆





 華やか、しかしどこか物足りなさを感じさせる装飾に囲まれた大きな部屋で、俺は父親に呼び出された。


「これまでのお前の愚行は目に余るッ! 魔法の才能があるからずっと耐えてきたが……もう限界だ! 絶縁、破門、なんでもいい。とにかく俺とお前はもう赤の他人だ、二度とこの敷居を跨げると思うなッ!」


 怒りで顔をタコのように茹で上がらせた父の言葉により、俺は今この瞬間子爵家長男からタダの一般市民となった。


「本気ですか?」

  

 この家で将来一番有望なのは恐らく俺である。家が苦しいなかで俺を追い出すのは懸命とはいえない。


 我が家はグラード子爵家という古から魔法に強みを持った貴族である。

 ご先祖様から脈々と受け継がれてきた雷の魔法は、見た目のインパクトもあって王家から重宝されていた。

 しかし、希少な雷の魔法の使い手をウチはさらに独占しようとし、情報を絞り秘匿化していった。


 その結果、近親で子孫を残し続けることが忌避されているため、適正のない他所の血を取り入れてどんどんと血は薄まっていき、さらに一代才能のない者が生まれると実演して学ぶ、ということができない魔法が出てくる。


 そうしたことを繰り返し、爵位は伯爵から降格を繰り返し、いつしか子爵にまでなってしまった、というのがウチの実情である。


「当たり前だろう! 我が家が有力貴族と結びつく千載一遇のチャンスを、おまえは、おまえはァ……!」


 父はぷるぷると震え、顔を鬼にして絶叫する。


「勝手に縁談の約束をすっぽかしてどこかへ行きとって! 俺の面目が丸潰れだ!」


「何度も嫌だって言ったのに無理矢理推し進めたのはあんたでしょうが」


「黙れ! どうしてくれる!? 金銭援助の話もパーだ! 終わりだよ! お前のせいで!」


 最後の一押しは俺かもしれないが、ここまで事態を深刻化させたのは領主である父だ。

 それを俺のせいだと?


「そもそもあんたがアホみたいな税金を取って私腹を肥やしてたから過疎って、それで更に増税するとかいう沼みたいな政治したせいじゃねえか!」


「うるさい!」


「うるさいのはあんただよ!いくら政略結婚とは言ってもあんな俺より四十も上のババアと余生を共にできるか!? 人の人生をなんだと思ってやがる! あんなやつと結婚するなら貴族なんて立場こっちから願い下げだよバカ! じゃあな!」


 このクソ親父はあろうことか俺を金だけはある有力貴族に売って端金を手にしようとしたのだ。

 そんな人間のために俺の人生をほんの少しでも犠牲にする気はない。


 俺は言いたいこと全て吐き出してから、扉をドコォン、と蹴破り部屋から出ていく。

 そうして俺は十七年間過ごしたお先真っ暗の子爵家を破門になった。







 ーーーーー


 読んでいただきありがとうございます。

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 詠唱メーカー便利ですね^_^

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