第五十五話「絶望の連鎖(下)」

 緊急任務:パンサーと名乗る怪盗を逮捕、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還


 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰、桐雨芽依

 犠牲者:???



「あっははは! あははははははは!!!!」


 ……嫌な声だ。この声を聞くと改めて絶望を思い知らされる。一度殺した奴がこうして生まれ変わってるから尚更だ。

 理不尽に敗北した。言い換えれば、俺はこの歪みきった宿命を変える事が出来なかった。俺の運命の旅路はここで閉ざされた――



「あのガキめ、私が分身してると知らないまま死んじゃったよ! あっははは!! 情けないよねぇ!? だって一回殺した相手にまけるんだよ? 無様だよねぇ……英雄はやっぱり名ばかりの無名者なんだよ!! あははは!!!」


 俺を卑劣するような言葉に、正義達は鋭い目でアースラを睨みつける。


「違うとでも言うのかい? 実際そうではないか。英雄と讃えられるのは一時的だけ。その大方が無様に散るのさ。あのナポレオンでさえも、最期は島流しだからねぇ……!」


 言いながら少しずつ俺達に近づき、またあの乖離剣かいりけんを召喚する。


「あのフランス人に真っ二つにされたけど……まぁ、あんた達を消し飛ばすには問題ないのよ!」

「ちっ……黒坊は殺させねぇぞタコ亡霊が!!」


 頭上で乖離剣かいりけんを掲げるアースラに対し、正義は刀を正面に構える。刀身に桃色の光がまとう。


「俺と蒼乃先輩で黒神大蛇の意識を取り戻す。すまないが武刀正義……一人で耐えられるか?」

「へっ、この俺様を誰だと思ってやがる! 耐えるどころか形勢逆転してやらあ!!」

「……頼む」


 そう言い残し、優羽汰と蒼乃は大蛇を亜玲澄と同じ場所まで連れていき、支柱に座らせる。


「おいタコ! この俺がヒーローごっこの相手してやらあ!!」

「あまり舐めてると……痛い目みるよ!!」


 アースラは乖離剣かいりけんを振り下ろす。

 正義はそれより速く地を蹴り、低空飛行の状態を維持したまま全身を捻って一回転する。刀はしっかりと円を描きながら《かいりけん》を持つアースラの右腕を断ち斬った。


「「恋鐘之刀こがねのとう笑死眼天えみしのがんてん

「ちっ……さっきから何なんだいその技は!」

「技? バーカ、これが技程度のものだと思ってたらそっちこそ痛い目見るぜ!!」

「調子に乗るなよガキがあああ!!!」


 アースラが左腕に右腕と乖離剣かいりけんを吸収し、一本の剣と化した。


 ……こいつは俺の今まで使ってきた抜刀術は通用しない。単純な事だ、力の差だ。どれだけ速く斬っても力あるものを斬ることは出来ない。それこそ、あのぐるぐる剣と俺の刀がいい例だ。


 ――唯一それに抗えるのがこの恋鐘の刀だ。いや、これでしかあの化け物には勝てない。


「抗えるものなら抗ってみな!『神怒之流星ゼノム・メギド』!!」


 剣となったアースラの左腕が勢いよく振り下ろされ、正義とその後ろにいる俺達をも巻き込んでは斬り刻む。むしばむ。そして跡形もなく消す。


「恋鐘のとっ……!!!?」


 それを受け止めるべく刀を左に構えた途端、心臓が破裂するような痛みを正義が襲った。激しく咳き込む。あまりの痛みにうずくまる。それでも乖離剣かいりけんは止まることを知らず、容赦なく正義に襲いかかる。


「このまま死んじまいな!!!」

「げほっげほっ……くっ……!!」


 視界には螺旋状らせんじょうに回る剣がしっかりと見える。あぁ……あのシュレッダー見てぇなやつにこれから刻まれるのか。怖ぇな、本当に。こんな死に方ありかよ。





「『未天之聖盾ヴァルキリー』!!」


 刹那、乖離剣かいりけんの動きが止まった。その代わりそれを受け止めてるのは周囲を囲う巨大なドーム状の盾だった。それを展開してるのは他でもないエレイナだった。


「嬢ちゃん……げほっげほっ……!!」

「正義君、無理はしないで。ここは私に任せて! 皆は必ず私が守るから……!」


 ……おいおい、随分心強え奴だな、全く。男として少し情けなく思っちまうなあ……!


「……おう……、あとは任せた……ぜ」

「うん……ゆっくり休んでね」


 両手で盾を展開しながらも、大蛇と亜玲澄と共に眠る正義を見て小さく微笑んだ。


「あはははは!! 探してたよ! どこに隠れてたんだい?」

「奇遇ね、私も探してたわ。一体どうやって生まれ変わったのかしら?」

「まず先に質問に答えるのが礼儀じゃないのかい!?」

「貴方のような非道な存在に慈悲は無いわ! 神光之雫ラメール!!」


 エレイナは左手の盾で乖離剣かいりけんを止めつつ右手で無数の光の雫を生成し、アースラに向けて飛ばす。光は糸のように細くなって移動し、盾をすり抜けてアースラの身体を穿つ。


「がっ……ああああああ!!!」

「終わりよ、アースラ……お父様の敵をここでとらせてもらうわ!!」


 もうとっくに過ぎたことかもしれない。でも、私にとってあの出来事は昨日起きたようなもの。一時的にでも私の家族になってくれたお父様を殺したアースラを、私は絶対に許さない。

 

 アースラ……今度は私があなたに『裁き』を下す番だわ――!

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