第三十話「無謀な捜索」

 緊急任務:パンサーと名乗る怪盗を逮捕、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還


 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰

 犠牲者:???   



 亜玲澄達が知らぬ間にシンデレラ宮殿に飛ばされたのは、大蛇が蒼乃さんと電話してから一分も経たなかった。


 大蛇が目を離している隙に少女が亜玲澄達の前に現れ、マントをひるがえした途端に視界が暗転し、目を覚ませば宮殿の入口前まで来ていた。


「お、おい、どうなってやがる……」

「ここって例の宮殿、なんだよね……」

「間違いない。シンデレラ宮殿だ」


 ヴェルサイユ宮殿の失敗作とはいい、それでも多くの貴族や令嬢達が集まっては豪華な料理が並んだテーブルを囲んではワイングラスを交わす。朝も昼も、そして夜も。そのせいかここは朝から賑やかだ。


 ……それよりも、あの少女は何故大蛇を残して俺達をここまで飛ばしたのか。はたまたどうやって瞬時にここまで転移させたのか。


一先ひとまず蒼乃さんに連絡して、事情を伝えて先に大蛇の救出だ。もしあれがパンサーなら、大蛇の身が危険だ」



 正義とエレイナが強く頷き、頼りになる返事に口元を緩めると、ポケットから携帯を取り出して蒼乃さんに電話をかける。


「もしもし、亜玲澄です。たった今シンデレラ宮殿前まで来ました」

『え、もう着いたのですか!? いくら何でも速すぎでは……』

「それも含めて、今こっちでは大変な事が起きてるんです! 今すぐ来てもらえますか!」

『安心してください、もうすぐそちらに着きますので』


 言い終わりと同時に通話が切れ、後ろを向く。そこにはいつも通り正義とエレイナがいた。


「この隙にあの少女はマントをひるがえして……」

「気づいたらここに来たってか」

「怖いね……知らぬ間に仲間がいなくなってるんだもん」


 これで分かった事は、非常時の際も仲間から目を離さないようにする事。それとあの少女が来たらすぐ逃げる事だ。未知の存在と戦っても勝てる保証が無い。何よりネフティスNo.3を病院送りにしたほどだ。


「遅れました。待たせてしまい申し訳ありません」


 ふと声が聞こえた方を向くと、そこには息一つ切らしていない蒼乃さんの姿があった。


「初めまして、正義さん、エレイナさん。私はネフティス副総長……No.2の錦野蒼乃です。」

「よ、よろしくね……!」

「お、おう……」


 副総長、という単語が出てきた途端に二人は硬直させた。まさかあの正義がこうなるとは思っていなかったが、それほど上の位に立つ者ほど色々な意味で強いと言う事だ。


「あれ、大蛇さんは何処どこへ……」

「それがですね……」


 亜玲澄は蒼乃さんに現状と大蛇とはぐれた事を全ては話した。



「なるほど。それは深刻ですね……」

「という事で、まず先に大蛇と合流してから宮殿に入ろうと思っているんですけど……」

「そうですね。それが一番妥当な判断だと思います」


 蒼乃さんも亜玲澄の判断に同意し、やるべき事が完全に定まった。まだ携帯の時計は午前十時を指している。日が沈まない内に大蛇と合流してシンデレラ宮殿に入らなければならない。


「そうと決まれば早く行こうぜ。黒坊が致命傷を負わねぇ内によぉ」

「それはそうですが、彼の居場所が分からなければ動きようがありません」

「白坊、黒坊に電話してみろ」

「そうだな、えっと……」


 小さな携帯の画面から大蛇を探し、ボタンを押して通話を開始する。プルルルッという着信音が右耳を強く刺激する。しかし、返ってくる様子は無い。


「……」

「仕方ありません。街中を探しましょう」

「おいおいマジかよっ!!」

「余程の事がない限り、彼はパリの中にいます。亜玲澄さんが言うその謎の少女と共にいても勝手に外に出たりしないと思います」


 確かに蒼乃さんの言っている事は妥当だと俺も思う。しかし正義が驚くのも無理ない。この広い街中で日が沈むまでに大蛇を見つけるなんて無理な話だ。


 ……だがこの際、手段を選ぶわけにはいかない。考えてる暇があるなら足を動かすまでだ。



「あぁくそっ! こうとなれば行動に移すしかねぇってか!」

「そうですね。では二手に分かれましょう。亜玲澄さんとエレイナさんはここから左半分を。私と正義さんで右半分を探し回ります」


 蒼乃さんはすぐに全員に指示し、正義の右腕をぐいっと引っ張って東の方向へ歩いていった。


「へ……? ちょ、無理矢理引っ張るなって!」

「ごちゃごちゃ言わないでくださいっ! 仲間とはぐれたままで良いんですか!」

「ぐっ……、それで言い訳、ねぇだろクソッ! 早く行くぞ!!」

「ふふっ、扱いやすい人ですね」


 蒼乃さんの歩くペースが速いからか、二人は気づいた時には姿が小さくなるほど遠くまで行ってしまった。


「……こっちも探すか」

「うん、大蛇君を助けよう、お兄ちゃん!」


 実の兄妹は蒼乃さん達とは逆方向へと歩き始めた。制限時間は日没まで。それまでに大蛇を見つけ、夜には宮殿に入らなければならない。現在時刻は十時半。まだ午前中とはいえ余裕などあるはずが無い。



 この広いパリの街から、一人の青年を見つけなければならないのだから――

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