私の上に浮かぶ『悪役令嬢(破滅する)』って何でしょうか?
ひとまる/ビーズログ文庫
プロローグ
①
「ねえねえ、お父さま、『にょーさんち』ってなんですか?」
私、ルイーゼ・ジュノバン
今、私が指差しているコックの上には『料理人その①(
私付きの後ろに
……など、その人の職業らしきものと、なんとも
「え? ルイーゼ、何を言ってるんだい?」
私の指差す方を見て、お父様は首を
「お父さま、コックの頭の上に浮かんでいる文字のことですわ。『にょーさんち』って書いてあります!」
「尿酸値!?」
幼い子どもが知るはずのない言葉を言うものだから、お父様はかなり
「聞き
「えっ? でも、みんなの上に浮かんでいますわ」
キョトンとした私以上に、お父様と周りにいた使用人たちが
当たり前のことを言っただけなのに、何を驚いているのだと私は首を傾げる。
「(私の
私の背の高さに合わせてしゃがんでくれたお父様が指し示す、コックの頭の上をじっと見つめる。
「コックには『料理人その①(尿酸値が高い)』という文字が浮かんでいますわ!」
「そ、そうか。ありがとう、ルイーゼ。コックよ、思い当たることはあるか?」
お父様に問いかけられて、ややふくよかなコックは
「は、はい、
なんとコックは医者から尿酸値が高く痛風になりかけていると
話を聞き、私が言い当てた内容が照合できたことに父は目を白黒させた。
「で、では、この侍女の頭の上には何か浮かんでいるかな?」
「えっと、『侍女その③(年上が好き)』と浮かんでいますわ」
そう言った
「お嬢様の言う通りです。私はそのような
「(なんてことだっ! 当たっている!?)ならば、私には何が浮かんでいるのかな?」
「お父さまは……」
お父様の頭の上を見上げ、私はひゅっと息を
ニッコリと
「えーっと、私の父って書いてありますわ」
「そうか。私の文字は
「そ、そうですわねっ!」
何とかその場を
自室に
でも一番の問題は、お父様の頭の上に浮かんでいた――『悪役令嬢の父(
人の上に浮かぶ透明な板は頭の上で固定されているので、都合よくこちらに近付けて見たり、文字を拡大したりすることはできない。
お父様は背が高くて見えづらかったし、それに、文字が浮かんでいるのは当たり前だと思っていたから、今まであまり深く気にすることはなかった。
しかし、まさか『没落する』と書かれていたなんて。
幼い私でも、貴族の娘である以上、その意味は知っている。これは未来に起こることなのだろうか。
それに、もう一つ気になることがある。『悪役令嬢の父』……『悪役』はさておき『令嬢』というと、ジュノバン伯爵家には私しか娘がいないわけで……。
「ま、まさか……っ」
もしも、私の頭の上にも、同じように文字が浮かんでいるとしたら――。
「う、うそ……」
今までは自分の頭の上にも文字が浮かんでいるという発想にならなかったから、気にしたことがなかった。朝の
それに、自分の頭より上の方を映さないと見えないし、そんな
私の頭の上には――
『悪役令嬢(
そう浮かんでいたのだった――。
あ、悪役令嬢って……やっぱり私のことでしたのっ!? それに、『破滅する』って!!
「『悪役令嬢』って何ですの……?」
鏡には真っ青になった自分が映っている。バクバクと心臓の音が
気が付きたくなかったと心底思うが、気付いてしまったので仕方ない。深呼吸を
『悪』は、悪いこと。『役』は、劇の役者の『役』よね? ということは……私は悪者役の令嬢ってこと!? もしかして、私が悪者だから、伯爵家が没落する運命に……!?
「全て……私のせい……?」
暗い未来をいきなり提示されたようで、これからどうしたらいいのか、絶望し落ち込んでいると、部屋の
そのままお父様が、興奮を
「ルイーゼ、いきなりだがよく聞いてほしい。お前には特別な力があるようだ。けれども、能力の
戻ってきたお父様にそう説明され、私はコクリと頷いた。
お父様の期待に
「お、お嬢様がデザートを残されたっ!?」
「た、大変だ――っ!!」
その日の夕食、私は全く食欲が
「ああ、ルイーゼ、
「
私に甘いお父様やお兄様たちにも心配される。お母様は
「ルイーゼ、何か悩んでいるの?」
「いいえ、な、何でもありませんわっ!」
「あなたに元気がないと、お母様もお父様たちも心配なの。何があっても私たちはあなたの味方よ。それだけは覚えておいてね」
優しいお母様の言葉に
何はともあれ、私は優しいこの家族を、伯爵家の
どうすれば、悪役令嬢にならなくて済むのだろうか。
思い返せば、お父様やお兄様に
「善行……」
ポツリと
「え? ルイーゼ、なぁに?」
光明が差した気がした。
そうだ、私は、『悪役令嬢』ではなく、『善行令嬢』になればいいのだ。
「『破滅』と、『没落』を防ぐためにも……『善行令嬢』になりますわ――っ!」
こうして私は善行令嬢を目指すことを心に決め、変なことを口走り始めた娘を見てお母様は
「『善行とは、善い行いをすること』……なるほどね、善い行い……」
さっそくジュノバン伯爵家の図書館でとにかく善行に関係しそうな本を読んでみたが、難しくて幼い私には理解できなかった。
「悪を
読書を
「自身に宿る悪を倒すにはどのようにしたら良いんですの?」
「お嬢様? そ、そうですね、心身を
護衛騎士は驚きながらもそう教えてくれた。心身を鍛え上げた護衛騎士は一点の
まずは、心身を鍛えましょう! そう決心する。
「お父さま! 私、心身を鍛えたいのです!!」
「と、
「私はこれまで我が儘を言ったり、甘やかされてきたりしたのだと自覚しましたの。
「ル、ルイーゼ……、なんて立派になったんだ。けれどもやはり
「私、
そう言って押し切った。お父様たちも私がすぐに音を上げると思ったのだろう。最後は
伯爵家の護衛騎士の一人が指導者になり、まずは
「いいですわ! 善行令嬢に近付いてますわ――っ!」
私の意味不明な
そして、何故か最近
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます