一章 運命の日①
銀の星がちりばめられた
どこまでも続く純白の雪原を、少女はひた走る。
耳が痛いほどの静けさと、
しかし、そんな必死の
白銀の毛並みをした、
雪よりも白く
人間の姿に似ながらも、獣の耳と
心を持たない
● ● ●
──手元にある本の
森の守り神に育てられ、
「きっと、次の巻では王子様が
バタン! と、迷いを
晩秋。深く色づいた森の木々が、最後の
もう決めたのだ。
わかりきっている物語の結末を知るよりも、ずっと昔からの夢を
「長かったわ……! 森で育って十五年。
はねっけのある真紅の髪を、
耳慣れた足音が近づいて、丸太小屋の
「ただいま、ニーナ。どうした、今朝はずいぶんと早起きだな?」
現れたのは、
だが、根っからの自由人のため、
ニーナは師匠の手から
「おかえりなさい、師匠! 今日の朝ごはんは、師匠が大好きな
「熊肉? 確か、
「
扉が開く音に反応して、部屋の奥からすっとんできた雪色の毛玉──小さな狼の子どもを
「この前、
「おいおい! 獲物を奪い返しに来た羆を仕留めたのか!? また腕を上げたじゃないか。
「そうでしょう? 焼き立てを食べさせてあげるから、座って待っててね」
あとは
「
「喜んでもらえてよかったわ! いっぱい食べてね! まだまだ、たくさんあるから」
二人で
お気に
「そのチビ助。拾ってきたときはずいぶんと弱っていたが、もうすっかり元気になったな。名前はつけたのか?」
「ううん、つけるつもりはないの。この子は狼だから、大人になったら自分の
「そうか。それにしても、狼の子どもまで
きっと
(なにしろ、こんな
もしも、自分になにかあったとき、非力な子どもでは生き
植物や動物の
だが、課題はどれも難易度が高い。一朝
そして、ついに、残る課題はただ一つ。
これを達成したら、望むものは本ではない──本物の、森の外にある広い世界だ。
「──っ、師匠、あのね!」
高鳴る
これまではいくら頼んでも、実力不足、残りの課題を達成したらの一点張りで、相手にしてはもらえなかった。だが、今は違う。
「〝森に
「全部だとっ!? 本当に全部か? あっ、あれは? 〝
「そんなの、五歳のときにはとっくに達成してたわよ!」
「それじゃあ、あれは!? 〝真冬の湖を泳いで
「それは、八歳の冬ね。水が半分
「〝一日に百本の矢を的の中心に射ること〟!!」
「十歳。──もうっ! 本当に全部達成したんだってば!!」
「はっはっはっ! わかってるさ、
「断らないで、師匠っ!! 今までは、この大森林を抜け出す力も、旅をする技術もなかったから、無理だって言われるたびに
「……そうか」
不意に、その目が細められ、くしゃりと
「
「私の旅……? それってどういう意味? 師匠は
「ああ。残念だが、俺はお前とは行けないよ」
「ど、どうして!? 師匠は旅が好きだったじゃないの。こんな森の奥よりも、もっといいところがたくさん見つかるかもしれないわ! 旅をやめてしまったこと──私を拾ったことを、
「そんなもの、するわけがないだろう。ニーナ、少し落ち着きなさい」
だが、子ども
これは我儘などではない。ニーナが長い間、願い続けてきた夢への
師匠の手から
師匠はそんなニーナを一人残して、部屋の奥にある彼の自室へと姿を消した。皿の上の熊肉のステーキは、まだ半分以上残っている。
(……もしかして、怒らせた? でも、あのおおらかな師匠が、あれくらいで怒るなんておかしいわ)
考え込むうちに、
「こいつは、俺の生まれ故郷に伝わる旅の
「御守り?」
「ああ。俺はもう、自分の旅の終わりを見つけちまったから、お前と一緒には行けないよ。そいつが俺の代わりだ」
「たとえば、ずっと
「師匠……」
ニーナにとって一世一代の、夢を
師匠が、これまでに見せたことのないような
「ニーナ。今年の初雪が降ったら、お前もとうとう十五歳になるんだな……おめでとう」
「……ありがとう、師匠。わかったわ。そのときっていうのが来るまで、大切に持っておくわね」
胸に
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