第4話純喫茶のアイスコーヒー
遥斗に、すでにモーニングを食べる気満々の梛様を止められる雰囲気でも無く…
渋々喫茶店に入る。
ドアを開けると…
カランカラン…
と、ドアベルが、古き良き音をさせた。
店は、昭和40年創業のいわゆるレトロ喫茶で、中も皮のソファや低めのテーブル、窓の一部のステンドガラスから何もかもが昭和臭がする。
まだ夏の朝は日差しが心地良い、窓際の一等席に通された。
遥斗は、梛様と同じアイスコーヒーとトーストのセットを頼んだ。
「梛様…コーヒーは、神界にもあるのですか?」
遥斗は、コーヒーを知っていた神様に恐る恐る尋ねる。
「ある訳ないだろ…」
梛様は、ソファの背の上に右腕を掛け紫の袴で足を組み、まるで輩の様な御姿で素っ気なく返す。
それでもイケメンなので、それが絵にもなる。
「でも…コーヒーを、ご存知ですよね?」
「ああ…神社の供え物が沢山神界に回ってくるから、缶やペットボトルのコーヒーはいつも飲んでる」
「ああ…そうなんですか…」
遥斗は、祭りの時だけで無く常に日常、沢山のお供え物を義父がどこへやっているのか気がかりだったが…
(なるほど…そう言う事ね…)
と、やっと納得した。
すると突然、梛様が鼻をくんくんしだした。
「遥斗!これは、何の香りだ?!」
「えっ?これですか?これがコーヒーの香りですが…」
遥斗がキョトンとした。
「嘘だ!いつも飲む缶コーヒーなどは、こんなにいい香りがしないぞ!」
梛様が、疑うように遥斗を見た。
「ああ…それは、今、おばあちゃんがハンドドリップでコーヒーを今入れてくれてるからです」
「ハンド…ドリップ?」
今度は、梛様がキョトンとした。
「コーヒーの豆をミルと言う物で人力で引いて細かく砕いて、フィルターと言う紙に入れ、そこに湯を入れて濾し取るんです。やっぱり、缶やペットボトルのコーヒーは、淹れたてのコーヒー程の香りはしませんから」
「ふ~ん…」
梛様は、顎を上げ遥斗を斜めから尊大に見降ろす。
(なっ…なんか俺…悪い事言ったっけ?)
遥斗がそうドキマギしていると、おばあちゃんが出来上がったモーニングセット一つを持って来てくれた。
アイスコーヒーに、焼きたての、すでにバターの塗ってくれてある食パンに、サラダにゆで卵付き。
「梛様、どうぞお先に…」
遥斗がそう言うと、梛様の前にモーニングセットのトレイが置かれた。
おばあちゃんは忙しいので、台所にすぐ戻ったが…
梛様は、じーっとそれを眺めた。
「これが…モーニングセットとやらか?」
「そうです。お早くどうぞ」
「うむ…」
梛様は、アイスコーヒーのグラスを慎重な面持ちで持った。
「あっ、梛様。ストローは?」
そう遥斗が聞くと、梛様は、又キョトンとした。
遥斗は、梛様用のストローを手にして、口を付けず吸う真似事をした。
「うむ…使ってやっても良い…」
「梛様。シロップとミルクはどうします?」
純喫茶らしく、それらはガラスの入れ物に入っている。
「シロップとミルク…それがか?入れると甘くなるのだろう?入れてみろ」
(ふーん…それは知ってるんだ…)と思いながら、遥斗は入れてみる。
「入れ過ぎてはダメだと思うので、これぐらいが丁度いいと思います」
終わると、遥斗がそう言い微笑んだ。
「ふ~ん…」
何故かそう言い梛様は、又顎を上げて遥斗を斜めで見降ろした。
又、遥斗は、何か気に触る事をしたかな?と一瞬考えたが…
だが梛様は、速攻コーヒーで喉を潤す。
すると、梛様はガバッと立ち上がり、台所のおばあちゃんに向かい目を見開き興奮気味に叫んだ。
「うまい!うまいぞ!!」
「ちょっ…梛様…声が、声が大きいですよ…」
遥斗はどん引きしながら、誰も他に客がいなくて本当に良かったと思った。
「あら~それは良かったわ!」
おばあちゃんが、台所から顔を覗かせニッコリした。
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