197 もう一組の父と子――変わりゆく世界でも、地道さは大切に――①
後の世で、
これにより、人と魔族はひとまず全体的には敵対関係ではなくなった。
勿論、この調印式自体、ある程度の賛成と納得を経て行われてはいたが、それに全ての人類が賛同した訳ではなかった。
和解を認めない国、傍観に留める国もそれなりにあった。
とは言え、賛成に回った国々や存在との交易や関係の都合上、調印が為された事を無視する訳には行かず、否定派もひとまずは反発する為の大きな動きを控える事となる。
これについては、その辺りを見越し、優先して説得する国や人々を選んだグーマ・モンリーグ・コーリゥガ達の手腕によるものだとするものも少なからずいたが、その辺りは定かではなかった。
ともあれ、人魔友好が為された事で世界は大小それぞれに変化していく事となる。
まず、人の治める各国に魔族が派遣され――彼らによって国を襲うような魔物が操作される事で、魔物による被害が大きく減る事となった。
魔族は魔物を自在に操る事が出来る……とは言え、魔族が直接的に魔物を操って人を襲わせるような行為は近年大幅に減っていたという――和平に向けての魔王達の自粛傾向が強まっていたからである。
ちなみに、魔族の手により世界各地に魔窟を作っていた事については、世界全体で減少していくマナへの対抗策の一環、その他幾つかの思惑があっての事だと和解を機に魔族側から開示されていた。
とは言え、それが人族にとって勝手な行為であったのは事実。
ゆえに、開示を機に魔王自らが非を認め、今後は必要最低限に留め、魔窟を作る場合には場所の公表を約束する事となった。
これについては魔窟・魔物から取れる各種素材を必要としている人族の都合や、その討伐や伐採を生業としている一部の冒険者には遠回りな不満の声が上がる事となったが、今後はそれを踏まえた様々な調整や擦り合わせが行われる事が約束され、事なきを得た。
なんにせよ、これらの動きにより、ごく普通の人族が魔族や魔物に襲われる事は激減する事となった。
同時に、派遣された魔族達によって、人族と魔族の互いへの天敵認識緩和も進められていった。
それと並行して、魔族領への人族の派遣も行われる事となった。
これは魔族の保有する一部技術の開示、それに伴う先を見据えた双方の技術発展が目的であった。
そうして高めた技術で再び人族と魔族が争い合う危険性を危惧する者もいた。
だが、それを恐れていては双方の未来はないとして、互いが互いの良い形での抑止力――強い武装で威嚇するのではなく、信頼を持って互いを見守っていく――をも模索する事で合意・協力していく事となった。
そういった世界全体の動きに追従する形で、小さく、そして大きな変化も一つあった。
ロクシィード国ルナルガ――長らく空いていたその地の領主が決定する事となったのである。
ロクシィード王・ロークスにより抜擢されたその人物が、この度の
「今宵は、私の領主就任祝いに馳せ参じ暮れて感謝しよう、諸君!
それでは乾杯!」
コーリゥガ家のお屋敷にて、いつもよりも派手――というより煌びやかな衣装に身を包んだ
それに応えて、集まって下さった人達もまたグラスを掲げ、乾杯を口にし……
私・
あ、中身はお酒じゃなくて果実を絞って作られた、元の世界ではジュースとされるだろうルージスという飲み物です。
「改めておめでとうございます、
乾杯を終えて宴が始まり、皆が歓談する中――私は
「ありがとう紫苑。
此度私が念願の領主に就任出来たのは、君がここにいてくれたからなのが極めて大きい――心から感謝するよ」
「就任式の時も言いましたけど、そんな事はないです。
私も――まぁ、その、少しだけ力になれたかな、と思う所はありますけど、大部分は
実際、ここに結実するまで
一度私がロクシィードの親衛騎士団に捕縛された時の、『
幻影を掛けられた党団『
少なからず怒ってもいたんだけど、魔族と人族の協力体制や『
ただ、それ以外でも
それが魔族と人族、そしてこの世界の未来の為なのは分かってる――分かってはいるんだけど……どうにも呑み込めない部分もある。
でも、
目的の為には仕方がなかったとハッキリと言えるのなら――きっと私に謝ったりはしない筈だから。
だから――今は私もその部分をちょっと強引に呑み込んでおくことにした。
でも、それを放置するつもりはなくて――自分なりの考えや答えをこれからも考えていこうと思っている。
いつかまた
『何かしらの問題や蟠りがあったとしても、共にありたいと思えるなら、それは家族なんだよ』
少し前――あの一連の戦いの後で
と、そうして
なので、心底からそう思っての言葉だったんだけど――
「出会った時にも言ったと思うが、謙虚は時として罪だよ紫苑。
君は君という存在をもっと誇るべきだ。
なんせ、この私の娘なのだからね!」
朗々と堂々と告げる
「そうしようとは思っていて、前よりは出来るようになったとは思ってるんですけどね……うーむ。
でも、その、より頑張ってみます。
「うむ、そうしたまえ――それにしてもファージも水臭いものだ。
転移の魔術を持つ者が数人身近にいるのだから、宴にも気軽に参加してくれればいいものを」
ファージ様も今回の宴に招待されてはいたんだけど「仮にも他国、遠地の領主が気軽に参加できる訳ないだろう」と断られたとの事だ。
今回の調印式の後、各地は各種調整に大忙しとなっているので、それも含めて当然と言えば当然である。
「紫苑もファージに会いたかったんじゃないか?」
「会ってじっくりお話したいとは思ってますけど……今は姉さんもいますし、私自身整理が覚束ない所もあるので、今度改めてにしようかと」
ちなみに、私はもう一人の私の事を『姉さん』と呼ぶ事にした。姉さんは私を『妹』と呼んでいる。
その呼び方が正しいかは未だに分からないんだけど――まぁそう呼ぶと姉さんが嬉しそうにしているので、良いんじゃないかなぁと思う次第です。
その姉さんは現在レイラルドに戻り、ファージ様と共に生活しているそうだ。
二人でどんな事を話しているやらちょっと気になる私もいたり。
ただ、生まれたばかりだからなのか、この間の戦いの影響からか、姉さんは時折深く眠り過ぎる時があるとの事だ。
気になるので出来れば一緒にいたいんだけど……私はまだこちらでやるべき事がいくつか残っていた。
――私が、いつか消える可能性が高いのなら、その心構えもしておきたかった、というのもあるけど。
なので、ファージ様とコーソムさんが任せてほしいと進言してくれた事もあり、私はまだルナルガでの活動を続けていた。
でも、このままで良いとは思っていないので、今度改めて私達の今後を話し合うつもりである。
――まぁ、
そうして
「ひょわぁっ!?」
突然背中を――今回のドレスは背中が割と大きめに開いている――スススーッとなぞられて、私は思わず悲鳴じみた声を上げてしまっていた。
一体何が、と思って振り返ると。
「その改めて、なるべく近い内にしてあげて。
ファージ――お父様、寂しがってるから」
「姉さん……! それにみんなも――!」
脳裏に思い浮かべていたもう一人の私・姉さんと、
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