95 後片付けまでが冒険です・🈡
それから私達は、振舞われている料理を堪能させていただきつつ、挨拶したりダンスに誘われたりでバタバタしつつも、私達なりに夜会を楽しんだ。
細々としたところで色々やらかしてるのかもしれないけど、私達が異世界人だと承知してくれているので、多少は大目に見てもらっているのだろう。
――もし迷惑をかけてしまってる人がいたらすみません。
「……そう言えば、守尋くん。
前に言ってた私に話したい事は、もうよかったの?」
何故かダンスに誘われ過ぎて、ちょっとギブアップ気味になった私・
少し冷える夜風に身を委ねながら星空を眺めていると、同様に
すると、守尋くんは困ったように苦笑いを浮かべて、言った。
「いや、その、良くはないんだけどさ。
ほら、あの
「うん」
「あの戦いで――俺はまだまだ駄目だな、って痛感したんだ。
魔王を倒したいって思って、鍛えて、結構強くなったつもりだったんだけど――最終的に八重垣さんに助けてもらったし」
「いやいやいや、助けてもらったのは私の方だし」
「――八重垣さんはそう言うけどさぁ。
多分クラスの皆はそうじゃないって言うと思うよ、マジで。
まぁ、とにかく」
そう言うと守尋くんは恥ずかしげに頬を掻いた。
「話すにはまだ少し早いかな、って思ったんだよ。
だから申し訳ないけど、もうちょい待っててほしい」
「私は全然いいんだけど――いいの?
時間的な余裕とか大丈夫?」
「時間かぁ、うん、それはちょっと心配だ……地味にライバルが多い気がするし。
だけど、ちゃんとできないままだと意味がないからなぁ、その時はその時だな、うん」
「???」
「ごめんごめん。わけわかんないよな。
とにかく、話はまた今度って事で」
「……うん、わかった。
ちゃんと待ってるから、いつか話してよくなったら話してね」
守尋くんの話したい事が何なのか、強くないと話せない事なのか――気になるけれど、詮索は良くないよね。
いつか話せる時が来るのなら、その時を待つだけの事だと私は笑って頷いた。
……不気味な形にならないよう気をつけつつ。
すると、守尋くんはくしゃっと嬉しそうな表情を形作って呟いた。
「――こういう所だよなぁ、うん」
「???」
「じゃあ、そろそろ戻るよ――放置してた廣音に怒られそうだし」
「そのほうがいいよ、うん。私はもう少し休んでからいくね」
「了解」
そうして去っていく守尋くんと入れ替わりに。
「ここにいたのか」
「うん。ちょっと疲れちゃって」
やって来た
「俺も疲れたから、休憩だ」
「
私以外の皆もダンスやお喋りに誘われていた中、
だけど、
「情報収集に忙しかったからな」
「――うん、まぁ、それも大事だからね」
「そう渋い顔をしなくてもいいだろう。
俺に外交が向かないのは君も重々承知してるだろ」
「うーん、気質的にはそうかもだけど、能力的には出来るんじゃない?」
「それはいつも自分を卑下する君に言いたい事だな。
まぁ、今回はちゃんと参加した事を評価するが。――――それと、そのドレスは君に似合ってる」
「――う、うん……その――ありがとう」
さりげなくというか、おまけみたいに付属された言葉。
だけど、いつも基本辛口、お世辞を言わない
「―――――――――――――――――――――
「まぁ、当然だな。今回はファージ様の顔を立てる為に俺も若干気合を入れたし」
ぐぐ、思いきって言ってみたんだけど、いつもどおり冷静に返されちゃったよ。
でも、まぁ。
「……何故笑うんだ?」
「いや、
実際言葉どおり、それはすごく
すると
うん、それも含めてすごくらしいです。
「そういう君は――いや、やめておこうか」
「突っ込んでも答えてくれそうにないから突っ込まないでおくよ。
でも、勿体ないね」
「何がだ?」
「ダンスも気合入れて練習してたから、あんまり踊らないのは損した気持ちにならないの?って話」
「――それは確かにそうだな」
だから、少し踊ってきたらいいんじゃないか――そう言おうとした私の前に、
「???」
「不思議そうな顔をしないでくれ。
損するのは嫌だし、少し踊ってみるかと思っただけだ。
で、過剰な気合を入れなくても踊れそうだから相手は君が良い」
「――なるほど、納得だなぁ」
……ちょっとだけ、女の子的には憧れの展開になるのかなと思ったけど、実に
だけど、その理由でも全然いいかな……うん。
「じゃあ、私もダンスのおさらいをさせてもらうね」
「ああ、互いにウィンウィンで実に良い」
そうして私が
――広間から響く曲が幾つか変わっても、思わず続けてしまうくらいに。
「……って、踊り過ぎちゃったね」
曲が一段落ついた時、私はついつい踊り続けていた事に気付いた。
引き留めてはいけないので繋いでいた手を離す――うん、楽しかったなぁ。
でも付き合わせ続けた申し訳なさもあって私は謝罪を口にした。
「ごめんね、休憩中に長々と」
「謝らなくていい。――星空の下踊るのは、風情があってよかった」
「確かにそうだね。
じゃあ、私、そろそろ行かないと、かな。
私なんかと踊ってくれてありが――あ、ごめん」
長年染み付いた癖は中々消えないなぁと思いながら、重ねての謝罪を伝える。
「今後はもっと気をつけるから。じゃあ、私は―――――」
「紫苑」
申し訳なく思いつつ去ろうとした私の背に
私の名前をわざわざ呼んで引き留めた事に、少し驚きと戸惑いを覚えながら振り返る。
すると
「以前から訊こうと思っていたが、紫苑、君はもしかして――――――――――――――」
……瞬間、一陣の強い夜風が吹き抜けた。
まるでそこにあった楽しい空気を吹き飛ばすように。
だけど、
その時、私は……ただこう思った。
ああ――――気付かれちゃった、と。
その後、夜会は何事もなく終了した。
私達は訪れた人々と多少なりとも縁を結び、ファージ様の顔に泥を塗らずに済んだ。
夜会自体も楽しかったし、とても良い経験が出来たと思う。
私達はファージ様に手配してもらった馬車で無事宿舎に帰宅。
明日からの事を語りながら、笑顔でそれぞれの個室に別れていった。
何事もなく、その日が終わろうとしていた。
―――――――だけど、終わらなかった。
「っ、え―――――?」
星空の下。
私は、八重垣紫苑は倒れ伏していた。呼び出された宿舎の裏側で。
何の警戒もなく向かったその先で、私はいきなり、あまりにも突然に全身を突き抜けた衝撃に耐え切れず、崩れ落ちた。
ぬかるんだ地面に顔を浸しながら、私は呻く。
体中に走る痛み――それよりも、もっと違う何かが痛みを覚えているような、そんな気がした。
「――――――」
伝えたい言葉は、もう、言葉にならない。
それほどの力が私には残されていなかった。
パクパクと口を動かすだけで精一杯となり……徐々に、意識が黒く塗り潰されていく。
沈んでいく。
沈んでいく。
泥に、暗闇に、身体が、心が、沈んでいく。
怒りはない。悲しみもない。あるのはただ、困惑。
何故こうなってしまったのか。何故こうしたのか。何故何故何故……。
どうして、あなたは、こんなことを?
その言葉を脳裏に浮かべたのを最後に、私の全ては闇の中へと呑み込まれて、消えていった――――――。
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