90 後片付けまでが冒険です・7
「――うまく説明できないけど、いいなぁ」
私・
自分が思っている以上にファージ様に敬意を抱いていたからだろうか、と理由らしきものを考える。
そうして私が自身の感情を整理する中、ファージ様が声を上げた。
「それでは赤竜王様のご意思を受けて、我が判断として今回の事に判断を下す。
神域結晶球の破壊――本来ならば極刑、許し難き事だが、レイラルドの地を守る為であったのは確か。
そして結晶球も赤竜王様の手で再生された。
だが、罪は罪に変わりはない。
そして、この辺りに住まう魔物は退治できたようだが、特殊な状況だったため、今後は不透明だ。
そこでドラゴン討伐を為した異世界人達には、この世界の人間としての立場を与え、
この土地に住まいながら、この近辺の継続的な安全確認の任を与える事で罰を帳消しとする。
ドラゴンの復活に加担した異世界人とコーソムは一時拘束、公正状況確認の後、然るべき裁きを下す。
異論のあるものは、意見書をまとめて私に提出せよ。
それまでは述べたどおりの対応で、本件を解決する。
――以上、何か質問はあるか?」
重々しくも遠くまで響く声で告げられた内容。
――――それは、つまり。
「えっと、つまり――?」
「貴方様方の依頼は達成されたという事です。
皆様お疲れ様でした」
一度では呑み込めず情報を整理しきれずにいた
直後、その言葉で一気に状況が呑み込めた私達クラス一同は歓声と共に立ち上がり、拳を空に振り上げた――溢れんばかりの嬉しさと共に。
「「「やったぁぁぁぁっ!!」」」
「……君達」
そうして喚起に沸く私達に向けてだろう、ファージ様が口を開いた。
エグザ様の存在もあって少し咎めるような視線を送る兵士さん達、騎士さん達の意志や言葉の代弁でもあるのだろう。
それに気付いて私が――クラス委員長の河久くんも――慌てて皆に少し落ち着こう、と呼びかけようとした瞬間、エグザ様が言った。
『許してやれ、ファージ。兵の者達もな。
彼らは死線を越えてようやく真の意味で安堵出来たのだから』
「――赤竜王がそうおっしゃるなら」
そんなやりとりに気付いているのかいないのか、喜び合い続ける守尋くんたち――そんな彼らと違って、少し浮かない表情なのは
「俺達はまだ喜べない状況だよなぁ――とほほ、どうなるやら」
「仕方ないさ。どんな言い訳をしてもうちらも加担したのは事実なんだから。
ただ――どうせ一蓮托生だ。愚痴ぐらいは後で聴いてやる」
落ち込む翼くんに
その表情は、先程までの張りつめた様子からほんの少しだけど緩む事が出来ているようだった。
外見こそ不良学生っぽい正代さんだけど、本質的に真面目な良い人である事を私は知っている。
――これまで大変だったろうなぁ。
「おお、それは実質俺への愛の告白――――っ!? あいったぁぁっ!?」
「そんな訳ないだろ。まったく」
「否定するのは仕方ないとしても容赦なく足を踏むのはやめていただけますかね……」
「容赦はしてるだろ。それにお前だって回避しようと思えば出来るだろうに文句を言うな」
「いやぁ
そんな二人のやりとりに
それに対し、正代さんは渋面を露にした。
「誰が夫婦だ、誰が」
「言葉の使い方は主に夫婦だけど、夫婦だと限定してないんだけどなぁ」
「やかましい。――――さておき、気にしないでほしい、八重垣」
声を掛けたくて歩み寄った私の存在に気付いて、正代さんはこちらに向き直った。
「元々
結果皆に迷惑を掛けてすまないと思ってる。
――特に貴女は……一回死なせてしまった事、詫びのしようもない」
「いやいや、それについては俺達全員だからね。
静ちゃん一人の責任じゃないから、そこんとこはよろしく」
「そうそう、抱え過ぎは良くないよ、
あたしらも一緒に責任は取るからさ」
「えと、その、うん、深く気にし過ぎないでね。
少なくとも、私が死んだのは私が弱かったからだし、うん。そこは全然気にしないでいいから」
「――――。気持ちはありがたく受け取っておくよ。ありがとな、翼、麻邑、八重垣」
「そ、それから、ファージ様はちゃんと平等公平な御方だから。
ちゃんと情状酌量してくれるよ」
少し落ち込む様子の正代さんを励まそうと思いついた言葉を重ねる。
実際、ファージ様はそうしてくださる事は、先程までのやりとりもあって強く信じられる。
三人が無碍に扱われる事はないと思う。
勿論、最終局面で大きな助けになってくれたコーソムさんも、だ。
ただ他の四人――
無事事態を収拾できたこともあって、滅多な事にはならない――なってほしくはないのだけれど。
「――まぁ、あとはなるようにしかならないだろう」
最後に私にもう一度御礼を告げて、皆の方に向かった――謝罪のためだろう――正代さん達の背中を眺めていると、
「アイツら――特に
アイツらは自分の行動の責任を取らなくちゃならない――ただそれだけのことだ。
むしろその考えは傲慢が過ぎると思うぞ、俺は」
「そうだね。うん。
でも、つい考えちゃうんだ――こうなる前に何か出来る事はあったんじゃないかって」
実際傲慢なんだろう。
神ならぬ、しかも私という個人の出来る事なんか高が知れている――そう頭では分かっているんだけど。
だけど、分かっていてもそう思わずにはいられなかった。
「出来る事はやってただろ、君は」
「え?」
「毎日地道に自分を鍛えて、何をすべきかを考え続けた事を俺は知ってる。
連中に気に病むなと言っていた君こそ気に病む必要はない。
というか、俺達の中では一番気に病む必要がなく、文句を言っていいのが君なんだ。
その君が暗い顔だと俺達が喜び辛いから、もう少し辛気臭くない顔をしててくれ」
淡々と、でもたくさんの言葉を述べてくれる
――――今の私には、ハッキリとその意図が分かる。
「……ありがと、
「――以前の君なら、謝罪していた所を感謝するようになったのは進歩だな」
「うん、進歩出来てたら嬉しいな。
それから――あの最後の攻防の時、名前を呼んでくれてありがとう。
気合を入れてくれたお陰で勝てたよ」
そう告げると、
――――そうした上で、私に向けて小さく片手を上げて見せた。
……その意図に気付いた私は、先に小さく謝罪した。
正代さん達やコーソムさん、これから事後処理が大変な事になるであろうファージさん達皆に。
――だけど、この瞬間だけは。
そんな思いを込めて、私はまだ疲労が抜け切れてはいなくて、ほんの少し重い腕を持ち上げて――
パシィッと掌をぶつけ合う軽い音が耳の奥、そして心の奥まで響き渡る。
その心地良さに、私はようやっと全部終わったんだって安心もあって――誰も死ぬ事がなかったので――ちょっと泣きそうになりました、うん。
こうして、私達がこの世界にやってきて最大級の出来事はようやっと幕を下ろしたのだった――。
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