62 いざ決戦――幕が上がる、本当に最後の大決戦
『我が理性はそうして納得しても、我は憎悪。
赤竜王・エグザレドラ・オーヴァラーグの存在しない憎悪なのだ――!
ゆえに、この憎悪、人を滅ぼしつくす事で世界へと還元しようぞ……!!』
「そんな――! 罪無き者が犠牲になる必要はないとおっしゃったではありませんか……!!」
だが
『人全てを滅ぼすのだ――順序など必要あるまいよ、ラルエル。
それに、汝は十数年前の人々の責任と言ったが、それを掘り起こしたのは今ここにいる異世界人達だ。
そして、更に元々の因果を辿れば人の業によるマナの減少のせいであろう。
かの魔王がマナをかき集めているのも、神の機構による異世界人召喚もそれがなければ行われなかった。
過去現在の人間の愚かさが招いた事を、人間全てに背負わせるのは別段間違ってはいるまい』
「――人の業? マナの減少は様々な理由の複合じゃないのか?」
そうして不可解な点を問い掛けたのは訊ける事は訊いておく主義な
その疑問に対し、
『知らされていないのか? いや、ラルエルも把握できていないのか?
まぁよい――マナの減少はとどのつまり人間の傲慢さ、愚かさによるものだ。
そしてその影響は汝らの元居た世界にも及んでいるはずだ。
我は汝らの世界までは見通せないゆえに現在の状況は把握できていないがな』
「俺達の世界に――? 一体どういうことだ」
『さてな。
ただ、確実に言える事は、近い内に人は滅び、世界も滅びるという事。
存外それは明日かもしれぬぞ?
であるならば、我が人を滅ぼそうと滅ぼすまいと大差はない……ゆえに我が憎悪を晴らした所で問題はあるまい』
正直、状況も情報も錯綜・混線気味でよく分からない部分が多い。
世界や人が滅びる事、私達の世界との関係、頭がこんがらがってくる。
だけど、そんな状況であったとしても――間違いなく言える事があった。
「問題――大ありです」
私・
『ほう、何がだ』
吐き出される言葉の威圧感と常に彼が纏っている圧倒的な存在感による圧力。
それはずっと変わりなく、正直対峙しているだけでどんどん消耗していくし、本能的な恐怖も強く感じている。
少し前に私達が倒した『ドラゴン』は、おそらくこの身体の本来の持ち主たる赤竜さん……つまり魔物としてのドラゴンであったのだろう。
今相対しているのは――守護神獣としてのドラゴンが、かつてなりかかっていたという呪い、その一端の具現化だと思う。
つまり――こういう事はあまり考えたくはないけど――存在としての格が遥かに上回っている。
阿久夜さんの『贈り物』から逸脱している事からもそれは明らかだ。
眼前に存在する竜は、神に限りなく近い存在の一部、そう考えても差し支えない存在なのだ。
彼がその気になれば――人を滅ぼす、というのは、成し遂げる意思としても内包する力としてもきっと過言ではないのだろう。
でも、だからこそ――逃げるわけにはいかない。
ずっと続いている震えを振り払うように、手首をスナップさせてから私は改めて
「仮に、明日世界が、人が滅ぶのだとしても、今日誰かが傷つくのを、傷つける存在を見過ごす理由にはならない、そういう事です。
貴方が今から人を滅ぼすというのなら――私はそれを阻止する為に全力を尽くします」
『ほう? よもや勝ち目があるなどと――思い上がっているのではあるまいな?』
瞬間、凄まじい意志が、気迫のようなものが私へと放たれる。
怖いこわいコワイ。恐ろしい。震えが体中を走り抜けていく。今自分は立てているだろうか。それを確認する感覚さえも覚束なくなる。
でも、負けてはいられない。
もしも本当に人を滅ぼすというのなら――
「勝ち目があろうとなかろうと、思い上がりであったとしても、やるべき事は変わりません。
貴方が誰かの命を脅かすというのなら、貴方という呪いを断ち切るだけです」
そうして私は為すべき事を言葉にする事で覚悟を決める――が、正直ちょっとクラクラしております。
気を抜けば倒れてしまいそう――そんな私の肩に、誰かが手を置いた。
思わず振り向くと、背中から支えてくれるかのようなその手は――
「まったくもって同意見だ。
他者を滅ぼすと言ったからには、自分も滅ぼされる覚悟があると判断させてもらうぞ。
というか過去と現在の責任を問うのは構わないが――それで未来を台無しにするのはいささか乱暴が過ぎる。
仮にも赤竜王の一部であるなら、もっと巨視的に物事を見てもらわないと困る」
だけど。
『――
『こっちも助かってる……正直、前のめりに倒れそうだったからな』
彼の手は僅かに震えていた。
そしてその手は私を支えていると同時に、倒れそうな彼自身を支えるものでもある事を、かかった力の具合で感じられた。
『流石は守護神獣の一部という所か。
だが、人を滅ぼすと断言された以上放置は出来ないからな。
俺達が発端な以上、解決しないと後々が面倒になりそうだし』
それでもあえていつものように振舞うのがとても一くんらしくて……頼もしかった。
『という訳で、やれるか、紫苑』
『やってみよう、
互いの名前を呼び合う事で、勇み足になっていないかを――そして、同じ気持ちであるかを。
『――その、付き合ってくれて、ありがと』
『取るべき行動が同じだっただけ――と言いたいが、これについてはお互い様だ。
だから、俺も礼を言っておく』
自分の無茶に付き合ってくれる誰かがいる……ありがたいなぁと心から思う。
一くんには借りポイントが溜まり過ぎて、お返しに、御礼に何をすればいいのか、してあげられるのか大いに悩ましい。
それについて改めて話を訊くためにも――人を滅ぼさせるわけにはいかない。
「そうだな、もう少し大目に物事を見てくれてもいいと思うよ、ホント」
そうして覚悟を決めて構える私達の側に守尋くんもまた歩み出てくれた。
彼もまた恐れからか緊張からか声が上ずっていたけれど――彼はただ一人で堂々と剣を構えた。
「そのつもりない? 今からでも遅くないと思います、マジで」
守尋くんは――やっぱり強い。
私達の中でひときわ高いレベルもそうだけど、何よりこんな状況でもブレない精神力……流石です。
その意志力を持って、彼は戦闘するか否かを問い掛けた。
これがおそらく最後の問答になる……多分この場の全員がなんとなく悟っていた。
その問いに対し
『生憎だが、大目に見てやれる期間は過ぎ去ったのだ。
我がここに顕現した時点でな。
宣告した通り、我は人を滅ぼす……その意思を否定するというのなら』
そうして私達が――津朝くんや結界の中にいる人達も含めて――それぞれに身構えていく中。
『我を討ち滅ぼして見せよ――新世界の芽吹きたる外来種どもよ……!!』
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