57 いざ決戦――新装備、一閃!!

 スカード師匠が私達に譲り渡してくれた、昔の仲間の方の装備は私・八重垣やえがき紫苑しおん堅砂かたすなはじめくんの能力を底上げしてくれるものが数多かった。


 特に私に渡してくださった小槍ショートランスと一くんに贈ってくださった杖は、まるで私達にあつらえたようにピッタリの能力を備えていた。  

 とんでもないものをもらってしまった私はすごく嬉しくもあったけど、おそらく現時点では分不相応な――はじめくんはともかく私にとっては――装備に『自分がこんなものをもらってしまっていいのか』という躊躇いもまた大きかった。


 そんな私に、師匠は鍛錬の時とは打って変わった、穏やかであたたかい言葉と表情でこう伝えてくれた――。


『いいと思うから渡すんだ。

 今のお前達ならいずれ使いこなせるようになると思ったし、その能力ちからを自身のものと勘違いする事もないだろうからな。

 装備も『贈り物』もお前達の意思を世界に示す為の道具でしかない事を、お前達はもうわかっているはずだ。

 忘れるなよ。本当に重要なのは、手にした力で何を為すかだって事を』


 師匠の言葉を反芻しながら、私は抜き放った小槍を構えた。

 そうして向き合うのは、巨大グリズリーの掌の上に乗って補助魔術を使いながら苦しそうな戦況を見据えている阿久夜あくやみおさん。


「私は――貴女を止める。

 またクラスの皆で、笑い合う為に」


 元の世界ではクラス皆間違いなく仲良しだった……とまでは言えなかったと思う。

 だけど、体育大会や文化祭、様々な出来事の中で皆一緒に笑い合った事は、確かにあった。


 寺虎くんも阿久夜さんも大騒ぎの中で笑っていた事を私は覚えている。

 クラスの皆から少し離れていた距離を置いていた私だから、それは見えていた。

 

 向いている方角が、目指すべき場所が違っていても、一緒になって笑う楽しく過ごす事は出来るんだと――私はまだ信じたかった。


 だから、今はそれが出来ずとも、その可能性を残す為に……今は勝たせてもらおう。

 それが――私のエゴなのだとしても。


 決意と共に構えた槍に魔力を通す。

 そうする事で、槍は機能を発動させる。


 この槍――ヴァレドリオンは、魔力を通し循環させる事で真価を発揮する魔循兵装まじゅんへいそうだ。

 機能を制限、もしくは絞って量産しているものもあると聞くが、これは『原型』――オリジナルとされるものらしい。


 ヴァレドリオンは普段は小槍としての形状をしているが、魔力を通す事で幾つかの形に変形できる。

 その武装としての変形機能もすごいのだが、私的に一番ありがたく、師匠が主機能だと語っていたのは……魔力の収束と解放だ。


 魔力を放出した光の刃、刀身を具現化する事が出来るのだが、一番の肝は所だ。

 正確に言えば、上限はあるのかもしれないが、今の所その限界値まで使用できた者がいないのでわからないらしい。


 この機能の何が便利なのかというと、生物には存在している魔力の放出限界、それを無視して魔力を行使できるところである。


 レベルアップする事でMP自体を1081、一度に放出できるMPを46から91にまで伸ばした私だけど、このヴァレドリオンを使えば、やろうと思えば1081全てのMPを使用した刃を作る事も出来るのである。


 ただこれについては二つの大きな問題がある。


 一つは、使用者の鍛錬、イメージングが不完全だと魔力の収束がばらけて、見た目は大きい、中身はスカスカの、魔力を無駄に使用した張りぼてになりかねない事。

 用途にもよるけど、建物ほどの大きさの刃を生成しても、小枝一つ切れないのであれば意味はない、という訳だ。

 魔力を威力ある形に纏めるには、やはり地道な鍛錬が必要なのである。

 

 もう一つは……MP配分を考えなければならない事。

 いくら強力だからといって常に全力を注ぎこんでいては当然継戦に支障が出る。

 極端な例だが、一撃に全てを懸けた結果としてその一回の使い道をミスって――外したり何らかの手段で防がれたり―――しまえば、即座に後がなくなってしまう。


 相手の強さを見極めながら適切な魔力配分で使用出来るようになって、初めて使いこなしていると言える武装――それがこのヴァレドリオンなのである。


 とても難しい装備だけど、魔力による武装生成を武器の一つにしている私にとっては、鍛錬の方向性が限りなく近いのがただただありがたい。


 正直、今はまだ基本使用分の魔力をどの程度にするかの見定めぐらいしか出来ておらず、収束もまだまだ未熟、変形機能もろくに扱えていない。

 本当の意味で使いこなすのはまだまだ先の話になるだろう。


 だけど――私が振るう力の中では、平均的にも限界値的にも最大の破壊力を繰り出せる……今はそれで十分――!


魔刃錬成ブレード・リアライズ――!!」


 私の意思に従って、普通の槍としても十分の強度を持つ先端、その先に白く輝く魔力の刀身が形成される。

 一般的な長剣ロングソードよりも僅かに短い刀身だけど、本体が小槍サイズなので私が振るうにはこの位がちょうどいい。


「行ってくるね」

「――こっちは任せろ」

「うん!」


 はじめくんとのやり取りでより気合を入れた私は、全身の強化魔法を改めて発動。

 先程までの魔術武器射出思考から、接近戦思考へと切り替え――駆け出した。


 魔力による光の道筋は既に形成している。

 阿久夜あくやみおさんへと絨毯のように大きく展開された一本道だ。


「っ!! 何をしてるんです! あの女を迎撃しなさい!」


 私の接近に気付いた阿久夜さんが駆け抜ける私の真下で戦っている魔物達に指示を出す。

 しかし、その悉くが指示に反応する前に撃ち出された雷の魔術で炭化し、砕け散っていく。

 ――一くんによる援護攻撃だと見ずともわかった。


 その事への感謝は口にはせず、代わりに私はより強く速く魔力の道を走り抜けていく。


「くっ! 役立たず――!! 氷結弾連リーザ・タイ・リッド・ピード!」


 補助的な役割の魔術が多い中、彼女が取得していた数少ない直接的な攻撃魔術――当たれば対象を凍り付かせる魔力弾の連射。

 おそらく彼女はちゃんと意識して魔力を伸ばしてきたのだろう……範囲や威力は十二分だ。 

 

 だけど、それはちゃんと当たった時の話――!!


「ハァッ!!」


 直接的な攻撃魔術を多用してこなかったのか、狙いは微妙にズレていたし、発動も一くんと比較すると正直遅い。

 難なくヴァレドリオンで魔力弾の群れを斬り捨てて、私はさらに踏み込んで速度を上げる。

 

「そ、それも織り込み済みよ! 木偶ッ!!」


 いよいよ懐に入り込もうとした瞬間、阿久夜さんはグリズリーの掌から飛び降りながら指示を出す。

 直後、巨大グリズリーの大きすぎる腕が振り上げられ、私に向けて叩きつけられる。


 それは冒険者になった頃の私なら視認もままならず太刀打ちできず、肉塊になるだけだっただろう一撃。


 だけど、今の私にはハッキリと見えるし対処も出来る――!!


「なっ!?」


 地面に着地して態勢を整えた阿久夜さんが思わず声を上げた。

 彼女には予想外だったのだろう――私がグリズリーの腕をあっさり斬り落として見せたのは。


 ヴァレドリオンには通常よりも多めに魔力を注いでいる。

 収束もこの出力なら問題なく行える。

 ならば、この位はやってみせなければ鍛えてくれた師匠に、鍛錬に付き合ってくれたはじめくんに申し訳が立たないというものだ。


 私は放った斬撃の勢いを殺さないように、魔力の足場の上でクルンッと一回転。

 より加速と力を込めた一撃をグリズリーへと繰り出す――!


「せいっ―――やぁぁぁぁぁぁっ!!」」


 裂帛の叫びと共に、振りかぶり振り落とす一撃を、強い一歩と共に叩きつける。

 インパクトの瞬間だけ刃を倍に伸ばしたその斬撃は――残った片腕の攻撃ごと、グリズリーを完全に両断した――!!


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