㉑ 他の人から見た自分――それは本当に私ですか……?
「えと、何故私なのかな――?」
私・
向けてきたのは、クラスメートにして今は対峙する状態となっている
彼女が言う所には、同じくクラスメートである
多分文脈からするとそういう事なのだろう。
「そもそも堅砂くんは今も堅砂くんらしいと思うんだけど」
そう、らしくなくなった訳ではないはずだ。
堅砂くんは勝つために手段を問わず出来る事をする人だ。それこそ異世界に来る前から。
――とは言っても、問わない中でちゃんと選ぶべき所を選んでいるというか。
卑怯は事はきっとしない、そういう人だと私は認識しているし、きっとそれは間違いでないと思う。
なのだが、阿久夜さんはそう思っていなかったようだ。
不愉快な表情のままで彼女は私を睨み続けていた。
「何処が――! クラスメートになったばかりの頃の彼なら貴方達の事など怪我をしようが死のうが見向きもしなかったはず――」
「いや、その頃でも流石にそこまで冷たくないつもりだが」
「そうだよなぁ」
「(コクコク)」
あまりの言い様に堅砂くん本人が顔を引きつらせ、守尋くんが突っ込み、私も2人の言葉に首を縦に振った。
「ああ、以前の世界全てをゴミを見るような目で見ていた貴方はどこに行ったのやら――!」
「聞けよ」
だが、その意見を完全無視して阿久夜さんは舞台の上に立っているような身振り手振りで嘆いた。
それだけに注目すれば実に綺麗で、彼女が自分自身を誇りに思うのも分かる。
――でも人の話は聞いた方が良いと思うよ、うん。
「それもこれも、人畜無害を装った毒婦――八重垣さん、貴方のせいです!」
「じ、じんちくむがいをよそおったどくふ――?!」
これまでの人生で色々言われた経験はあるけど、そんなセリフは初めてで驚きを隠せない。
自慢じゃないけど頭はそんなに良くないのに毒婦呼ばわりは間違っていると思います。
なのでおそるおそる尋ねてみる。
「あの、その、私の――ど、どの辺に毒が?」
「存在そのものに決まってます。正直言って貴方は前々から目障りでした」
「えぇぇ――?」
欠点が分かれば改善も出来るのだけど、流石にそれではどうしようもない。
確かに私は欠点だらけだし、人に良い影響を与えられるような存在ではないけれど、流石に存在そのものを否定されると凹むのですが。
『気にするな、ただの難癖だ』
『そ、そうなのかなぁ――そうだといいけど』
戸惑う私に堅砂くんが
そうしてフォローしてくれたお陰で冷静さを少し取り戻した私は思考を巡らせる。
――確かに、堅砂くんは変わったのかもしれない。
以前の堅砂くんはこうして気遣いをはっきりと明確に形にする事はなかったと思う。
でも、それは私と彼との関係性の変化によるもので、彼自身の変化じゃない。
ただ、そういう変化をなんとなくで感じているのなら――それが私のせいだというのは間違いじゃないのかもしれない。
「そんな貴方の存在が彼を汚す事、わたくし耐えられません――何故なら……」
そして、もしかして。
阿久夜さんは――堅砂くんの事が好きなのだろうか?
だとすれば、彼女でもない私が彼と行動を共にする事が多いのが気にかかるのは当然なのではないだろうか。
「えと、阿久夜さん――」
であるならば、謝った上で誤解を解いておきたい所だ。
今は緊急状況でそんな場合ではないのは分かっているが、こういう事は話せる時に話しておかないと機会を逸してしまうものだから。
それにこんな状況での告白はよろしくないのではないだろうか?
いや、本人が望むならそれはそれでいいんだけど、流石にもっとロマンチックな場所で二人きりの方が――!
そう思って声を上げかけた時だった。
「堅砂くんは……世界で数少ない。このわたくしが見込んだ、オブジェなんです――!」
『――は?』
そのタイミングで阿久夜さんが発した言葉に、その場のほぼ全員が異口同音の戸惑いの声を上げた。
「端正な顔立ち、冷水のような表情、切れ長の美しい眼差し、そしてその内面もまた美しい氷のように凍り固まり冷え切っている――!
堅砂くんは、いずれわたくしが美しい人生を生きる中で
その存在意義が損なわれる事は、わたくしの未来の美しさが損なわれるも同然!
過去現在未来を問わず、わたくしの魅力を損なうものは、許せなくて当然です――!!」
――どうやら、乙女的な心配は要らなかったようです。
「――ハァァァ……」
「いや、その、気にするなよ、堅砂――あっちが勝手に見込んでるだけなんだから」
「うん、あの主張は流石にスルーしていいと思う――落ち込まないで、ね?」
「あんなの無視よ、無視」
「ああ、あれは放っとけ。アイツがおかしいんだ」
「
あまりの発言に深すぎる溜息を零す堅砂くん――そんな彼を、守尋くん、私、
ちなみに寺虎くんは大爆笑していた――それもあって、私はちょっとムッとしてしまった。
「阿久夜さん、流石に今の言葉はどうかと思う」
「――それです、毒婦」
どう話したものかと考えながら声を上げた瞬間、阿久夜さんはビシィッと擬音が聞こえてきそうな動きで私を指さした。
発言の意図が理解できず、私は首を傾げる。
「え?」
「わたくしが前々から貴方の事を気に食わなかったのは、そういう所です。
普段は遠巻きから見ている癖に、いざとなれば正論と共にしゃしゃり出てきて良い所を掻っ攫う――――それではわたくしが目立てない!! 私が世界の中心になれないじゃないですかっ!」
「いやいやいや、目立ってないと思うけど……華やかな阿久夜さんと違って、私はただの陰キャだし」
「そこも気に食わないんです!」
「えぇぇ――?」
「貴方事あるごとに自分の事陰キャ呼ばわりしてますが、貴方のどこが陰キャなんですか?!」
「????? 誰がどう見ても陰キャだと思うんだけど――そうだよね?」
言っている事がさっぱり分からず、堅砂くんに尋ねる。
すると――何故か堅砂くんは視線を逸らした。
え? 何故に?
不思議に思って周囲の人達に目を向けたのだが。
「隅の方でいつも笑ってるのは陰キャかも」
「話しかけたらいつもビクッとはしてるわね」
「暗いと言えば暗いのかもだけどなぁ」
「ねぇ?」
目を逸らされたり、首を横に振られたりで、私の言葉への肯定は半分しか得られなかった。
「忘れたとは言わせませんよ……!
あれは体育大会、クラス対抗戦のリレーで、アンカーの一人前の子が前の競技で足を痛めて走れなかった時の事――」
阿久夜さんが語り出した、その時の事は覚えている。
アンカーの伊馬さんと準アンカーの
でも紙駒さんが走れなくなり――その責任重大の役割を、みんな簡単には引き受けられない状況だった。
だから、誰も引き受けないなら『私で良ければ』とおずおずとこわごわと立候補しただけ――だったと思うけど。
「皆からわたくしが推薦されて、その美しい走り姿を披露、さらに勝利を決定的なものにする事でわたくしの存在を知らしめようと思っていたのに!
貴方が横から『よかったら私に任せて』とかクールに言ってのけて!
さらに全員を抜き去った上でバトンを渡す始末!!」
「速かったな」
「うん、八重垣さんおそろしく速かった」
「かっこよかったわよね――」
「球技大会でもそう!
9回裏一点差2アウトの状態で代打を引き受けて鮮やかにスリーベースヒット……!!」
「初球打ちで恐れ入ったな」
「しかもビビらせようとした悪球を一刀両断」
「スカッとしたわね……」
「そ、そんなだったっけ――?」
認識の齟齬に私は思わず首を傾げる。
そもそも勝利を決定的にしたのは私じゃないと思う。
後を次いで走ってくれた伊馬さんや、その後ホームランを打った守尋くんだ。
私の思い出的にはどちらもおっかなびっくりで挑んでどうにか責任を果たしたけど、緊張感でボロボロなだけだったような。
皆からお礼の言葉ももらったけれど、しどろもどろでしか答えられず恥ずかしい思いをして、私は陰キャだなぁと痛感したのに。
だというのに――阿久夜さんは私を再度指さして、こう告げた。
「貴方、傍から見たら、クラスの窮地を救う無口クールキャラじゃないですかっ!」
「えぇぇぇ?!」
「いや、それは流石に言い過ぎだと思うが」
「でも本人が言う程には陰キャじゃないよな」
人付き合いがが下手で、皆と仲良く出来ない自分が不甲斐無くて、今も現在進行形で過大評価に恐れ戦いている私が陰キャでなかったらなんだというのでしょうか。
だけど、阿久夜さんにとっての私はそうではなかったようで。
「いやいやいや、どう考えても私は陰キャだよ、うん」
そんな私の言葉が最後の引き金になったらしく、阿久夜さんの眉がピクッと大きく跳ね上がった。
「――まぁいいです。
なんにせよ、八重垣紫苑……貴方の存在は私にとって目障りこの上ない」
「ああ、俺にとっての堅砂や守尋だな、分かるぜ」
「野ば――寺虎くんに同意するのは気が進みませんが、そんな貴方がたを教育するのに、今回うってつけの機会なのは間違いないわけでして。
正直依頼は渡りに船でしたが――そうでなくてもわたくしたちは動いていましたよ」
そう言って、阿久夜さんはパチィンッと指を鳴らした。
強く大きく響き渡ったそれは、それまで停止していた魔物達を再び動かす合図だった。
「さぁ、貴方達の大ピンチの再開です――! 精々楽しませてくださいね」
そう言って阿久夜さんは笑った。魅力的に、妖しく、楽しそうに。
――全く違うはずなのに、レーラちゃんの笑顔を思い出させるような……そんな無邪気さを露にしながら。
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