⑬ 今は強くなくても、地道地道に


「……何を」

「何を勝手に決めつけているんだかな」 


 ――そうして、私・八重垣やえがき紫苑しおんが思わず口を開きかけた瞬間、それを遮るように堅砂かたすなはじめくんが声を上げた。


「言っておくが、俺はアンタもそいつらも全然妬んでない。

 何故なら俺はお前らよりも圧倒的に人として上だからだ」


 ここが違う、とばかりに堅砂くんは自分の頭をコンコンと指で叩く。

 その表情は不敵で、揺ぎ無い自信に満ちていた。


「八重垣もここにいる人達も別に妬んでないだろう。その必要がない。

 たかだか出来る事が少し多いだけで上から目線したがる連中の何を妬むというんだ? くだらないな」

「へぇ? じゃあ、お前は俺より強いってのか、堅砂」


 そうして話に入ってきたのは、それまで詰まらなさそうに、興味なさそうにしていた寺虎てらとらくんだった。

 どうも堅砂くんに対抗心があるらしく、寺虎くんは堅砂くんを見据え、負けず劣らず自慢げに言った。

 

「言っておくが、俺は今日――レッサー……パンダだかなんだかを簡単に2、30体」

「いや、それレッサーデーモンだろう。RPGでは定番の魔物だ」

「あー、そうだそれそれ」


 うん、レッサーは『同じ種類の中の小型』みたいな意味があったはずなので、使い方としてはパンダもデーモンも同じはずだ。

 ――もし万が一にでも倒したのが本当にレッサーパンダだったら、正直寺虎くんを許せない所だったね、うん。


「そのレッサーを俺は一人でもめちゃ倒して、めちゃレベルアップしたんだぜ?

 俺の必殺技、ファイヤーバーンノヴァで一気にな」


 それは寺虎くんが謎の声からもらった『贈り物』。

 魔力を特殊な炎に変換して放つ、文字どおりの必殺技――らしい。

 実際には目の当たりにしていないが、彼のステータス欄を見せてもらっているのでどういう技なのかは知っている。


 ――正直、恐ろしい威力なのでまともに当たれば大体の生物は消し炭になる。しかも結構な広範囲で。

 いや、うん、個人の自由なんだけどなんでそんな物騒な技を、と思っております。

 

 この世界のレッサーデーモンがどれほどの強さなのかは分からないが、おそらくゴブリンより数段は強い筈だ。

 それを一気に倒せるのは正直すごいと思う。


「知ってるか、堅砂……いいもんだぜ、レベルアップするのはよぉ――! 目に見えて技の威力が上がるのは病みつきになる――なぁ?」

「寺虎くんの言うとおりだよ、二人共」

「まぁ悪い気はしねぇな」

永近くんや正代さんあなたがたに同意するのは不本意ですが、自慢が増えていくのは快楽ですね」

「だよなぁ?

 それに、そういう強さを見せつければ、周りが良い眼で見てくれるようになるしな。

 そこの息子のお陰ってのもあるが、楽しい経験が沢山出来るようにもなる。

 なぁ?」

「――そ、そうだね、えへへ」

「……」(無言で赤面)

「うんうん、まったくもって――いや~いいよね、異世界の――ぐふふ」


 寺家君の言葉に男子達が全員デレっとした顔になった。

 ――ちなみに女子は麻邑あさむら実羽みうさん以外のお二人がすごく顔を顰めております。


 うん、なんとなく想像は出来るけど、精神衛生上あえてスルー。

 倫理観が本来の世界とは違うからどうこうは言わないけど。

 ただ、皆がおかしな方向に進まないかが心配だなぁ。


「まぁ、そんなわけでここにいる奴らも俺には劣るが結構倒しまくってレベルアップして、良い目を見てるわけよ。

 俺らの『贈り物』はお前らとは違うんだからな。

 ――特に」


 そこで寺虎くんは私を見る。

 なんというか、上から目線を感じるんですが?


「アイテムで代用できるような『贈り物』とはな」


 彼がそう言って取り出したのは、小さな水晶玉だった。


「これは?」


 薄々理解しながらも私が尋ねると、寺虎くんは自慢げに鼻息粗く語った。


八重垣おまえの『贈り物』、それと殆ど同じものが見れるアイテムさ。

 ほら使ってみろよ。念じるだけでいい。まだまだ使えるはずだから遠慮なくな」

「――うん」

 

 受け取るとほぼ同時に念じて使用してみると――なるほど、限りなく近いものが見える。

 細かい名称や細部は違うが、各種能力値や所持技能やレベルが確認できた。

 スカード師匠が言っていたアイテムの一つなのだろう。


「なるほど、確かに。ステータスが見れるね」

「どうだ? 自分の『贈り物』が大したものじゃなくなった気分は?」

寺虎とらっち、あのねぇ」


 私を慮ってくれてか、寺虎くん側の立ち位置である麻邑さんが声を上げた。

 私は師匠のお陰でそういうものがある事を知っていた他、私の『贈り物』でのステータス閲覧とは明確に違う所が幾つもある事を知って、ショックは少なかったが――その気持ちはすごく嬉しかった。

 ただ、いつも笑顔な彼女が珍しく眉を顰めているのは心苦しかったけど。

 そんな彼女の表情を見たから、という訳ではないのだろうが、寺虎くんは麻邑さん、そして私に笑顔で言った。


「別に嫌がらせで言ってるわけじゃないってーの。

 八重垣さえよかったらこっちにくりゃあいいって誘おうって話」

「おおー! そいつは良いな!」


 喜びの声を上げたのは、寺虎くんの仲間であるつばさ望一ぼういちくん。

 というか他の男子も頷いてる?

 いや、そんなに喜ばれても――嬉しいけど、私に皆が喜ぶ要素あるかなぁ?

 というか、寺虎くん含めて男子皆、さっきのデレっとした顔に若干なってない?


 内心首を傾げつつ、私は寺虎くんの言葉に耳を傾け続けた。


「ほら、連中も歓迎してるし、戦うのに向いてない『贈り物』で向いてない連中と無駄に頑張らなくてもいいだろ。

 それに、さっきはアイテムで代用できるっつったが、消耗ナシでいつでもどこでもステータスを見れるのは便利だからな。

 お前は俺らの後ろで色々と教えてくれるだけでいいぜ。

 そこの口だけの頭でっかちよりも優しく扱ってやるからよ。

 俺らは強いからな、一緒に行動すればレベル上げも楽だぜ。

 レッサーなんたらだろうがなんだろうが、俺達の敵じゃないからな。どうだ?」

「気持ちはありがとう。でも、遠慮しておくね」


 考えるまでもない。私は即答した。

 一切の迷いも待ちも貯めもなく返されたためか、寺虎くんは少し驚いていた。


「ど、どうしてだよ?」

「寮にいる皆とちゃんと話してないのに自分勝手には決められないよ」

「そうだな。そんなのはお前らだけで――」

「ゴホンゴホン!!」


 堅砂くんが無意識なのか無暗矢鱈に挑発っぽい言葉を発しそうになるのを咳払いで隠す。

 気持ちが分かる所もあるけど、私的に『皆仲良く』が一番なのは今も変わっていないので、なるべくそういうのはやめましょう。

 

「えっと、うん、それから、レーラちゃんの面倒を最後まで見たいし。

 そして――そもそも私は、レベルアップの為に戦ってるわけじゃないから」


 強くなって出来る事が増えていくのが楽しい事を否定するつもりは全然ない。そういう部分は私にもあるしね。

 ただ、私は楽しさそのものに重きを置いていない、というだけだ。

 

「私は皆のお手伝いがしたいだけ。

 その中でもし必要があるならレッサーデーモンであろうと、もっと強い魔物であろうとも戦うよ。

 確かに私は――私達は寺虎くん達みたいに強い『贈り物』は持ってないから、最初は勝てないかもしれない。

 それでも地道に頑張って――いつかは勝ってみせる。

 そういうのが冒険者らしくて、私はいいなって思ってるから」


 そう答えると、周囲――冒険者の皆さんから『おぉ……!』と静かな歓声が上がった。

 私の考える冒険者と皆さんの考える冒険者はどうやら一致しているようで嬉しくなります、はい。

 友情、努力、勝利、私は大好きです。


「八重垣の言うとおりだな。

 どうもそこの息子にせよ、お前らにせよ力自慢がしたいようだが――俺達には興味がないな。

 必要があれば戦い、勝つために手を尽くす、それだけだ。

 実に理に適ってて、納得だ」


 私が捏ねた理屈が堅砂くん的には満足だったようで、うんうんと頷いている。

 ――ごめんなさい、思ったままに口にしただけで深くは考えていないんです。


 そんな私の内心の嘆きを他所に、堅砂くんは言葉を続けた。


「お前らとも必要があれば戦う時が来るだろう。

 寺虎――俺とお前、どちらが強いかなんて、その時にでも嫌が応にでも思い知らせて……。

 睨まないでくれるか八重垣。あくまでそうなった時の仮定の話だから」

「いや、睨んでは……と、ともかく、できるだけ皆仲良くしようよ――押しつけがましいかもだけど、クラスメートなんだから」

「そうそう、クラスメートは仲良くすべきだと俺も思うよ。

 という訳で紫苑ちゃん早速もっと仲良く――痛い痛い痛いぃー! 痛いよ静ちゃんー!! 足踏まないでぇぇぇ?!」

「誰彼構わず、しかも状況も読まずにナンパすんな、翼」

「あら、焼き餅かしら?」

「阿呆か、馬鹿犬をしつけてるだけだっての」


 そうして、久方ぶりに皆がクラスメートらしいやりとりを続ける中で。


「じゃあ、折角だしその必要を作ろうか」


 そう告げたのは、クラスメートではない存在、領主の息子さんであるコーソム・クロス・レイラルドさんだった。

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