㉑ 課題はたくさん、それでも地道に
約一時間ほど続いた、私・
曰くこれ以上やると、回復用の魔石でもカバーできない程のダメージになるから、という事らしい。
確かに、左腕は捩れ曲がる、全身打ち身だらけ、骨折十か所以上と負傷してしまった。
実戦の過酷さを思えば、もっと体験しておきたかったのだが、回復できない傷になってしまえば本末転倒だ。
なので現在私は魔石を持たされて絶賛回復中であった。
「――おぉ、分かってたけど、全部回復すると感動するなぁ」
約一分でそれを終えて、私は立ちあがって、軽く身体を動かしながら全身の様子を観察する。
痣になっていた所や折れ曲がっていた箇所も完全に治っていた。
「シオンおねえちゃん、元気になった――?」
駆け寄ってきたレーラちゃんが心配そうに見つめてくる。
う、致し方なかったとは言え、罪悪感が――途中から
結果、二人にはボコボコにされる姿をずっと目の当たりにされたわけで、恥ずかしいやら申し訳ないやらである。
せめてもう元気になった姿を知ってもらいたいと、私はレーラちゃんを両手で高く持ち上げた。
「うん、ほら、もうこーんなに元気」
「――うん! よかったぁ――」
レーラちゃんが安心&喜ぶ姿に、私はホッとする。
――戦ってる間は結構色々な意味でやらかしていたので怖がられてないか心配だったのです。
安堵した私は笑顔のままレーラちゃんをゆっくり丁寧に下ろした。
「師匠、ありがとうございました」
「――ああ、うん――」
そうしてから、頭を下げて懐に入れていた魔石を返すと、師匠は何とも言えない表情を浮かべていた。
「? どうかしましたか?」
「いや、どうかしましたか、じゃないが」
そう言ったのはずっと憮然とした――それでいて若干青い顔で状況を見守ってくれていた堅砂くん。
「八重垣、君は――なんというか、相当に野蛮だったんだな」
「や、野蛮っ!?」
予想外の言葉に私は思わず声を上げてしまう――でも、確かに荒っぽい戦い方をしてはいましたね、ええ。
「う、そ、それはまぁ――いやその、やっぱり否定させてもらえないかなぁ」
「それは正直難しい、というか、なんでああまで戦えたんだ――?」
「うーん、だってあれぐらいしないと強くなれないんじゃないかなって思ったから」
実際、私は昔ほんの少し武道を齧った事はあったが、荒事らしい荒事は殆ど未経験だ。
そんな私が『戦う事』で生計を立てるのであれば強さ、あるいはそれに見合う何かがきっと必要だと思ったのだ。
それは戦う経験そのものであり、痛みへの慣れ、自分の限界への理解などなど――
私が憧れていた物語のヒーローが戦う度に積み重ねていたものだろう、と。
「――まぁ思う所は色々あるが、その覚悟自体は悪くない」
師匠が、ゴホン、と咳ばらいをしつつそう言った。
――あれ? ひょっとして師匠にも若干引かれてませんか、私。
「紫苑、お前さんは度胸も据わっていて、身体も動くし、戦闘の勘所も悪くない。
だから、スタイルとしては魔法を補助にした万能型の戦士を目指すべきだと俺は思う」
「万能型、ですか?」
「ああ。
どうもお前さんは基本魔力の属性らしい属性がない代わりに、魔力そのものを操る事に長けているようだ。
あの魔力の塊の制御能力、あれは磨き上げれば、変幻自在の武器になる。
それを使いこなせば相当に厄介な――いや、頼もしいものになるだろう」
確かに、あれをより多彩に使いこなせるようになれば、出来る事は劇的に増えるだろう。
だが――。
「だが、課題も色々実感できたはずだ。
時々試していた強化の魔法はもっと制御能力と精度を上げるべきだ。
暴発して自分の身体を壊さないようにな」
「全くでございます――」
「それから射出する魔力の塊についても、より使い分けをすべきだ。
足場にする場合はもっと効果的に使えば立体的な攻撃が可能になるだろうし、攻撃として使う場合は魔力をもっと詰め込めば破壊力は劇的に上がる。
そして根本的な身体能力をもっと鍛え上げて、その上で魔法との連携を完璧にこなせるようになれ。
今は全部がちぐはぐで、互いに足を引っ張り合っている状態で話にならん」
「はい、練習してちぐはぐにならないようにします――」
そう、現状ではそれらはまるで実用に耐えない代物だ。
色々試してみたが、まともに師匠に通用したものは一握り以下、一手あっただろうか、ぐらいだった。
レベル差の問題ではなく、そもそも『ただ撃っただけ、ただ使っただけ』でしかなく、全然使いこなせていなかったのだ。
「言っておくが、それが出来るようになってやっと半人前だ。
そこからさらに研鑽を重ねて習熟させる事で、お前さんはようやく一人前になれる。
だが、それが完成するのを待っている暇もない――だから、三日後、お前さんには早速冒険者登録して、それ以後は魔物退治も鍛錬と並行して行ってもらう。
異論はあるか?」
「いえ、全く」
詰まる所、私の課題は山積みで、一人前は程遠い、そういう事だ。
そしてそれを理由に足踏みする時間はない。
正直少し気が遠くなるが――やるしかない。
「――地道にやってみます」
「ああ、そうする事だ。――その、なんだ、そう睨まないでくれ」
師匠の言葉で気付く。
レーラちゃんは話の間中、ずっと師匠を睨みながら見上げていた事に。
「これは紫苑を死なせないためにやっている事なんだ、うん、いじめてはないんだ、本当に」
「むぅぅぅ……」
「レーラちゃん、本当だから、うん。
ほら師匠がくれた道具のお陰で、元気に戻ったわけだし、ね?」
「むぅぅぅぅぅぅ」
二人して説得しようとするが、レーラちゃんの視線は厳しいままだった。
――うーん、いつか誤解が解けるように、
「――で? お前はずっと眺めてるだけなのか?」
そんな中、師匠が堅砂くんへと視線を向けた。
そう言えば堅砂くん、今日も同行したい、と言っていたのだが、その理由を詳しく聞いていなかった。
昨日と同じように、私が単独で行動するのを見過ごせず、なのだろうか?
そうして不思議に思いながら、私も堅砂くんに視線を向けると、彼は少し考えてから口を開いた。
「そうしてノウハウだけ学ぶつもりだったが――そうもいかないようだ。
スカード殿、このとおりだ」
そう言うと、堅砂くんはその場に座り込み、深く頭を下げ――土下座した。
「俺にも指導を施してもらいたい、この通りだ」
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