えみりー

伊藤春輝

辛い記憶

女は病院のベッドの上で、辛そうに両手で耳をふさぐ。

過去を思い出したくない、と考えれば考えるほど記憶が蘇ってくる。

名前を呼ぶ優しい声が、記憶の中で再生される。

一つ思い出すと次から次へと、映像が止まらない。

それは今の女にとっては辛すぎて、

ぎゅっと目をつむる。

すると記憶の中とは別に、声が遠くから聞こえてくる。

名前を呼ぶ声がする。

「エミリー」

記憶ではない、頭に流れ込んでくるその声がはっきりと聞こえると、

女はそれまで耳をふさいでぎゅっと目をつむりながら、

ベッドの上で悶えていたのに、

だんだん動かなくなり、体の強張りがなくなる。

静かに目を閉じる姿は、まるで眠っているようだった。

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