第95話 父の過去
「まず、僕ら魔族は元の世界で迫害されてました」
涼しい顔をして、さらりと重い事実がルヴァルダン君の口から述べられた。
父が勇者であるように、ずっと、気の遠くなる昔からあちらの世界の国々で魔王を討伐する為に勇者が召喚されていた。
「元々僕ら魔族はこういうふうに魔道具を作製する道具に適性を持ちやすいんです。 それで人間側はその適正が低い、というかほとんどない。 まぁ……嫉妬なんでしょうね」
魔王によって魔族は保護され生きてきた。
人間側にとってしてみれば魔王さえいなければ魔族を手中に収め、飼い殺しにできるのにと考えていたのかもしれない。
「そもそも魔道具という物はダンジョンから生まれます。 どうやって作られるのか仕組みは詳しくはいまだにわかりません。 一般的な研究論では、ダンジョンで戦いや生理現象で落とされた魔物の回収されなかった素材が、ダンジョンに吸収される際、ダンジョンの魔力と混ざり魔道具へと変化して出来たというのが通説です。 だから僕らも素材があれば魔道具を再現できますが未だ再現できていない魔道具も多い……あぁ、話が逸れましたね」
ルヴァルダン君は下級回復薬を作製しながら淡々と話す。
……まって、その話詳しく知りたいんだけど。
そう思いながらも先を促した。
「それで、勇者を召喚出来る魔力が貯まると、こりもせずに何度も何度も勇者を召喚してきたんです」
優奈の父もそのうちの一人だった。
「でも勇者様は王国側の考えに違和感を感じていらっしゃったようで、魔王様といきなり戦うというようなことはせずに会話を試みてくれました」
その結果、勇者と魔王が和解した。
人族と魔族領の間のいくつかの村が勇者の仲裁の下魔族と和解をし、共に生きる道を選んでくれました。
「まぁ、魔族を手中に収めたい人達からしたら目の上の瘤ですよね。 自分達で召喚した人間が傀儡にならず意志を持って自分たちの意図する範囲外の動きをしてしまったんですから」
ルヴァルダン君は侮蔑するように勇者を召喚した人たちについてそんな言葉を吐き捨てた。
一度深呼吸し、もう一度語り出した。
しばらくは人間と魔族の村は平穏な時を過ごした。
魔族では発想できないような方法で素材が言い当てられた魔道具も現れた。
だが、そんな穏やかな時間は長くは続かなかった。
「僕は人族の兵士が大挙して訪れたその時、その村に居たんです。 偉そうな、大枚叩いて煌びやかに着飾った男が何か羊皮紙のようなものを広げ読み上げました。 内容は……勇者が魔族にたぶらかされた。 この村の者達も皆魔族の手に落ちた。 もうどうしようもない罪人達だ、手遅れだ、と。 まぁ……見せしめです」
そう言われ村人達は人賊、魔族、老若男女構わず次々に兵士たちによって粛清されていきました。
それが行われた時、勇者様は他の村に行っていたため不在でした。
「……その時を狙っていたんでしょうけど。 僕は運よく魔王様に保護されて、適性もあり魔力もあったので弟子としてここで働かせてもらえるようになりました」
その後の勇者様の足取りは風の噂でしかないですが、村を粛清した王国に対し抗議をしたうえ、王国に対しとんでもない痛手を食らわせ、結果歴代の勇者と同じように処分されたと聞きました。
「今までの勇者様で唯一魔族に味方をしてくれたかた。 それがあなたの父上の勇者様なんです。 私たちにとっての本当の勇者。 魔王様に別の世界で生きていると聞かされたときは驚きましたけどね。 生きていてくれて嬉しかったです。 こうしてまたお会いできるとは思いませんでした」
ここまで語ってルヴァルダン君は微笑んだ。
……処分?
あまりにもさらりと言われた言葉をうまく飲み込めなかった。
「そうなんだ……父が今ピリピリしてるのって……」
「優奈様のスキルがあちらの世界で魔族が迫害される原因になった魔道具が作製できるスキルだからじゃないでしょうか」
お父さんは今生きている。
それは大丈夫、大丈夫だ。
処分という言葉で恐ろしいことを想像してしまい、それを払うように首を振る。
先ほど触れた父が幻とは到底思えない。
ただ王国から父がされた仕打ちを知るのが怖くなった。
「勇者様はお優しいかたです。 あちらで失敗した経験が独善的な行動に繋がってしまったのではないでしょうか。 情報を知っていると言う事は、その情報が欲しい者から何をされるか分からないんです。 大切だから巻き込みたくなかったのではないですか」
「大切……」
父の理由の一端も知れて何とも言えない気持ちになった。
なんだか先ほどまでの父の姿が今では苦しんでいるように思えた。
もしかしたら父のトラウマなのかもしれない。
恐怖なのかもしれない、焦燥感もあるのかもしれない。
……いや、お姉ちゃんやお母さんに話せないならせめて私には話してよ。
そして父に対して怒りが沸いた。
1人で苦しまないでよ家族じゃないか!!
父が迎えに来たら取り敢えず正座させて説教だと1人口を尖らせた。
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