第94話 錬金術

「じゃあ、俺たちは席を外す。 優奈はここでルヴァに錬金術を教えてもらっててくれ、夕飯時に迎えに来るから、ルヴァよろしく頼んだぞ」


「え? ちょ……」


そう言って父たちはあっさりと部屋から出て行ってしまった。

扉に向かって突き出されたルヴァルダン君の右手が空を切る。

残された私は気まずい気持ちでその手を眺めた。



「ルヴァルダン君?」


「俺教える気ないから」


そう言ってルヴァルダン君は踵を返し部屋の奥の方に歩いて行ってしまった。

取り残された私は途方に暮れた。


……お父さんも無茶があるよ。

いきなりやって来て教えろじゃルヴァルダン君も困るよね。

この様子だとルヴァルダン君も初めて聞いたみたいだったし。

本当にどうしたんだろ。


疑問符だらけで首を傾げた。


でも……どうしようかな。

迎えに来るって事はここから動かない方が良いよね?


ルヴァルダン君も奥の方に行っちゃったし話しかけられたく無さそうだ。


ならば部屋の中を勝手に見て回ろうかな?


決して手は触れないよ。

何が起こるか分からないし。

邪魔をしちゃいけないからね。


そう思い部屋の中を歩いて回ることにした。


部屋の中には面白そうな機材が置かれていた。


木の台の上に浮いているガラスのような丸い球体。

どうやって浮いているのか分からない上に、サイズ違いのがいくつか並んで置いてある。


鑑定すると抽出の魔道具と出た。

薬効成分を抽出して作るの? 回復薬とかに使うのかな?

私が草から直接回復薬を作ってるけど、本当ならこれで薬効成分を抽出して作る物なのかな?


窓の方には何やら草やら木材やら素材らしきものがつるされている。

鑑定するとアマトリスの葉(乾燥) やらルールディーの葉(乾燥)、パララカの花(半乾燥) と書いてある。


もしくは棚には薬液に付けてある花や動物の肝っぽい物なんかもある。


他にも色とりどりの液体が入った小瓶なんかもあった。

これが薬効成分を抽出した液体みたい。


あ、こっちには鑑定の魔道具なんてのもある。

眼鏡みたいな感じの物や虫眼鏡みたいなものもある。

形は色々あるのかな?


お? こっちは完成品の棚かな? 見覚えのある形の回復薬が置いてあった。

あっちはなんかわからない道具が雑多に置かれている。


どれも鑑定できる。

私は楽しくなって夢中になって鑑定しまくった。


「……何してんの」


「た……楽しくなって……えへへへへ」


なにか考えがあって置かれているんだよねと、いかに触らずして奥の物を鑑定するか。

背伸びしたりしゃがんだり、ジャンプしたり最終的にジャンプして着地をミスって転びそうになり、機具にぶつからないよう体を捻って避けて下に置かれた素材に触れない様に両手を差し出し、さながらツイスターゲームのような格好になった途端話しかけられた。


ルヴァルダンの冷ややかな瞳で見下ろされる。


突然押し付けられた人が自分の研究室で勝手に動き回ってたらいい気持ちはしないよね。


両手で持った盆の上には素材が載っている。


「回復薬の材料? 中級かな?」


「……分かるの?」


「分かるよ!!」


ルヴァルダン君は意外というような表情を浮かべた。


反応が返って来て嬉しい。

えへへと笑って回復薬の材料をそらんじてみせた。

ついでに鑑定やスキルのことも腹を割って話してみた。

お父さんが錬金術を習えって言うんだから教えても大丈夫だよね。


それが及第点だったのか何かがルヴァルダン君の琴線に触れたのか分からないが、ルヴァルダン君は機材について説明してくれた。


「これが抽出の魔道具……って言っても鑑定でそう出たんだよね。 使い方まで見れるの?」


「使い方までは見れないんだ。 名前だけしかわからなかったよ」


「そう。 なら見てて」


そう言うとルヴァルダン君は持っていた素材、アマトリスの葉を球体の上から中へ入れた。


中に入ったアマトリスの葉は中でふよふよ浮いている。


「ここに手をかざして魔力を込める」


そう言ってルヴァルダン君は木の台に手をかざした。

すると中に球体がわずかに発光し、中のアマトリスの葉が細かく砕かれ、緩やかに液体へと変化した。

元々の量よりも随分と少ない。


ルヴァルダン君は球体と木の台の間に小瓶を置いた。

すると球体の中で浮いていた液体が底の方に集まり、小瓶へと移った。


ルヴァルダン君は液体の入った小瓶に蓋をすると私に見せてくれた。


液体は若草色をしていた。


「これがアマトリスの葉の薬効成分。 この抽出の魔道具で魔力によって分解し作製の魔道具で回復薬へ変化させるんだ。 ちょっと待ってて」


そう言うと残りの素材も手早く抽出作業をし小瓶に詰めた。


それぞれ色合いの異なる液体が入った小瓶を盆にのせ今度は広い台に置かれた作製の魔道具の下へと運んだ。


作製の魔道具は簡易なもので円形の線が置かれ、その先には小さな石が接続されていた。

大きな石の付いた指輪のような形だ。


そこの真ん中に無造作に先ほど抽出した小瓶を置いていく。


石に触れながら魔力を込めると発光し、小瓶が消失し見慣れた試験管のような瓶が一つ残った。

……分量とか計ってから乗せたのかな? 計ってるの見れなかったけど。


「これが作製の魔道具、 この線は魔力の効果が発揮される線を意味しているよ。 真ん中から外側に向かって効きが悪くなる。 魔力の少ない人が端っこに置いて魔力を込めても変化せずに失敗することが多い。 だから基本的に真ん中に素材を置くようにするんだ」


「そうなんだ」


面白い。


「これって誰でも出来るの?」


「魔道具との相性による。 魔力が豊富でも作製の魔道具と相性が悪ければ作動はしないし、相性が良くても魔力が少なすぎれば作動しない。 でも魔道具が無くてもこういった薬の類は手作業でも作ることが出来るよ」


「そうなんだ、違いってあるの?」


「魔道具で作ると品質が一定になります。 手作業だと作り手の技量により品質にばらつきが出ます」


「そうなんだ!!」


ルヴァルダン君の作業を横で眺める。

次々に下級回復薬が出来る様子は見ていて楽しかった。


「優奈様はスキルで作製されるんですか?」


「なんで様付け?! 優奈でいいよ!!」


「勇者様の娘なので」


なんだか様付けはむずがゆくなる。

そうだ。 ルヴァルダン君はあっちでの父の様子分かるかな。


「……父との関係って聞いてもいい? なんだか父の様子が可笑しくて」


「勇者様ですか?」


「うん」


それからルヴァルダン君が作業する傍ら魔族と父の関係を語ってくれた。

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