第84話 修学旅行6



『やば……』


今まで笑っていた男子高校生は、今、自分が踏みしめていたアスファルトが砕ける感触が足から伝わったようで、顔を青くしゆっくりと後ずさり脱兎のごとく逃げていった。


『りょー君』と呼ばれていた男子高校生は、職持ちなだけに他の人達よりもヤバさが分かったようでいの一番に居なくなっていた。


その場に残されたのは自衛隊員と私と皆と歩行者の皆さま。


「優奈? もしもーし、優奈大丈夫? 凄い声だったよ?」


「……だいじょばないー……また道路砕いちゃったー」


スマホから聞こえた姉の声を聞いて泣き言を言ってしまった。


『あ、足は大丈夫ですか?』


『うわ……アスファルトが割れ……いや、砕けてる……?』


『あ、ありがとう、……今周囲に囲いだけしておくか。 誰かコーン持ってきてくれ』


そう言って自衛隊員の人たちが割れた部分を取りあえずコーンで囲ってくれた。


「ゆうゆう大丈夫?」


「どうしたの?」


皆が近寄ってきてくれて辺りはざわついた。


耳を軽く澄ませば「あの子が割ったの?」 「何があったの?」等話をする声が聞こえた。


そのうちに通報で来た警察もやってきた。


警察には自衛隊員の人が説明してくれている。

私は姉に事情を説明した。


あーちゃん達は先生へ連絡をしてくれた。

補助でこちらに来ていた佐久間先生と学年主任の先生がこちらに到着し、自衛隊の人たちと警察と話をしてくれて、それが終わると私たちは宿泊場所へと移動した。


私はそれを縮こまって聞いていた。

自衛隊の人たちの反応は戸惑いはあるもののこちらに好意的な話をしてくれたみたい。

警察の人たちは粛々と調書をまとめてるようだった。


姉から母へ連絡をしてくれた。

そしたらどうやら対物保険に入っていたようで保険適応で直せそう。

学年主任の先生と母が電話で話をし学校で加入している保険が使えるかもしれないと後日話し合いをしましょうと話し合われたみたい。


それを聞いてなんとかなりそうだと心底ホッとした。



それで問題が一つ。


職持ちを明かすか否か。


「ゆうゆうって……もしかして職持ち?」


部屋に戻って落ち着いた後、すーちゃんが恐る恐る尋ねてきた。

あーちゃんも聞くか聞かまいか迷っていたようで複雑そうな表情をしていた。


「そ……そうなんだ」


えへへと雰囲気が重くならないように告げた。


すーちゃんとあーちゃんは2人で顔を見合わせた後にこちらを向いて満面の笑顔を浮かべた。


「すごいすごい!!」


「優奈職持ちなのすごい!!」


「学校で初めての職持ちじゃない?」


2人に凄い凄いともてはやされた。

あんな所見せたから怖がられるかと思った。


そんな2人の様子をみて力が抜けてその場にへたり込んだ。


「どうしたのゆうゆう?」


「優奈大丈夫? 体調悪くなっちゃった?」


「気が抜けたー」


あははと力無く笑うと2人にぎゅっと抱きしめられた。


「大丈夫だよーゆうゆうかっこよかったよ」


「優奈凄かったよ。 男子高校生の集団に立ち向かうなんて凄い」


「……そうかな? かっこよかった?」


「「うん!!」」


その後は雪ちゃんとめぐちゃんにも説明し、2人にも凄い凄いと褒められた。


4人からもてはやされて、緊張で固まっていた気持ちは春が来て溶ける雪のように綺麗に溶けてゆくのだった。




その後ネットでは



私が気付かぬうちに男子高校生が撮影していた動画がネットにアップされていた。


ーこれって戦乙女の妹ちゃん?


ー草むしりマスター?


ー可愛い顔して重量級……だと?


ーセクハラ発言は気をつけるように砕かれんぞ


ーその前に毟られる模様


ー何が? 何を?


ー毟られた後に粉々に砕かれるのか


ーそしてそれが撒かれると


ーそこに草が生えて


ー妹ちゃんに毟られる


ー怖い。 お前らの発想怖い


ーその前に動画アップしたやつ特定はよ


ー特定班始動中間も無く特定される模様


ー姉妹で職持ちとかやばいな


ー妹ちゃん何歳? ダンジョン潜れんの?


ー制服着てるってことは高校生? 中学生じゃないだろ?


戦乙女姉妹について語るスレが誕生したとかしないとか。






修学旅行から帰宅して



「優奈大変だったね」


「お姉ちゃんごめんなさい」


「なんで?」


「職持ちってバレちゃった」


「バレちゃまずいの?」


「まずくない?」


「なんで?」


そう言われると……


「……なんでだろ?」


「鑑定持ちってバレるのと錬金術がバレるのはまずいかもしれないけど、職持ちってバレるのは別にいいんじゃない?


「そっかぁ」


「ただ、動画上がってるからスカウトが来る前に軽く上司に報告するよ? 鑑定持ちに来られても困るもの。 軽く、本当に軽くさらっと職やスキルは伏せて、職持ちってことだけ報告するよ」


「分かった」


それからは学校に通うときも下校時もアルバイト中もなんだか視線を感じるようになってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る