第83話 修学旅行5
『あはっ、あははは』
『マジか。 高校生に負ける自衛隊員って意味あんのー?』
その光景を見て男子高校生たちはあははははと笑っている。
「自衛隊員の人達大丈夫かな……高校生の様子可笑しい……よね」
それを雪ちゃんが心配そうに見ている。
自衛隊員が押しのけられると、周りの人達もなんだか様子が可笑しいと、スマホを取り出して操作する様子が見られるようになった。
「私達も通報する?」
「ここの住所ってどこ?」
「ちょっと待って今検索する」
私達も完全に歩みを止めて通報する方向で動き始めた。
そんな中で男子高校生から発せられた一言が私の耳に入って来た。
『自衛隊弱っ。 俺らでも探索者なれちゃうんじゃね?』
『りょー君探索者のおっさん達倒せるんじゃね?』
『いいじゃん良いじゃん、りょー君クリアしちゃいなよ。 勇者とか呼ばれてるやつも戦乙女とか呼ばれてるおばさんもぶっ倒せるって』
ん?
戦乙女?
おばさん? 誰が?
その言葉を聞いた瞬間、どうしようとか、差し出がましいかなとかそんなことは消えてなくなっていた。
代わりに私の中の気持ちに何かが燻った。
「誰がおばさんだ」
「ゆ……ゆうゆう?」
「どうしたの優奈?」
門まで距離があるせいか男子高校生たちは気づいていない。
突然声を上げた私に皆は驚いている様子だった。
お姉ちゃんをおばさん呼ばわりしたのはどいつだ。
駅の方を向いていた足を方向転換し、自衛隊員と男子高校が揉めている門に向かって足を踏み出した。
「おい!! そこの男子高校生。 誰がおばさんだ誰が!!!!」
男子高校生に向かって大声で話しかける。
すーちゃん達の制止する声はもはや私の耳には入らなかった。
そのうち近寄ってくる制服を着た女子高生に気づいた男子高校生がへらへらしながら声を掛けてきた。
『君も修学旅行生? どう? 一緒にダンジョン行かない?』
『今なら初クリア見られるよ』
『手をこまねいているおっさんおばさん達より先にクリアしようぜー』
『君、危ないから離れなさい、君たちもいい加減にしなさい』
新たに私という人物の登場に自衛隊員も慌てる。
多分男子高校生が職持ちだと認識してるんだろう。
訓練している自分達でも押されるのにか弱い女子高生は危ないと判断されてみたい。
「誰? さっき戦乙女がおばさんって言ったやつ」
『危ないから離れなさい!!』
ずんずん近寄る私に自衛隊員も焦りを見せる。
『あ? 俺だけど言ったらなんかあんの? 事実じゃん』
『年取ってんだから大人しく若い俺らに任せればいいのになー』
『なー』
「お姉ちゃんは……綺麗なお姉さんだこの野郎ー!!!!」
そう言って地団駄を踏んだ。
一回だけ。
繰り返すが一回だけ。
何故かというとその一回で足から嫌な感触が伝わって来たからだ。
パリンともクシャともジャリともつかない何とも言えない感触。
アスファルト混じりの砂利道というかそんな感じだ。
何故だか知らないが男子高校生も、自衛隊員も、周りのみんなも黙った気がする。
さっきまで硬い道だったよねと思わず我に返り、見たくも無いけれども渋々足元を見た。
そしたら綺麗なアスファルト舗装の道が私の周りだけ蜘蛛の巣状に割れていた。 いや、砕けていた。
正しくは私の右足を中心として。
ひえっ。
『やば』
『え? 何あれ』
男子高校生たちも我に返って引いている。
お前たちのせいじゃないか!!!!
『やば……やば!!』
凄すぎてなのか何なのか爆笑している奴もいる。
イラッとして足に力を込めるとジャリっと変な音がする。
責任転嫁したくなってくる。 でも割ったのは私だ。 これ補修するのにいくらかかるの?
さっきまでの怒りは窄み泣きそうになる。
下手に動いたら悪化しそうで動くに動けない。
自衛隊員の人たちは呆気にとられている。
鞄からスマホを取り出しお姉ちゃんに電話をした。
お姉ちゃんはスマホを触っていたのか知らないがすぐに電話に出てくれた。
「もしもーし、優奈どうしたの? 今修学旅行中じゃない?」
「お姉ちゃん……私やらかした」
「何した?!」
「道路割っちゃった」
「なんでだよ!!」
姉の渾身の突っ込みがスマホから聞こえた。
『やば、あの女子高生やば』
『どんだけ重いんだ』
『可愛い顔してマジか』
男子高校生は爆笑している。
その声に涙は引っ込み再び怒りがわいてきた。
「うるさいうるさーい!!!! もとはと言えばあんたたちがくだらない事やってるのが悪いんでしょ!!!! いつまでもそこに居るなら踏み抜くよ!!!!」
『やれるもんなら……』
こちらを挑発してくる男子高校生。
もう知らない!!
更に足に力を込めて跳ぶとそう挑発してきた男子高校生の足の横に着地しまたもアスファルトが砕けた。
「さっさと消えて。 今度は潰す」
姉を侮辱された怒りなのか、またアスファルトを砕いて体重を揶揄された恥ずかしさなのか、はたまたアスファルトどうしようと言う今後の補習費用を心配する気持ちなのか、よく分からないごちゃ混ぜの感情を込めて男子高校生に対し目いっぱいメンチ切ってやった。
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