第61話 2回目のダンジョンアタック2




教官に許可を取り職持ちの半数に当たる3組で5階に降り立つ。

見た目は4階までと変わらず土壁で出来た洞窟だ。

5階から罠が設置されていたはずだ。

自衛隊員が作製した地図を片手に罠の設置個所を見て固まって歩く。


「あれが罠?」


「随分親切だな」


「いや……きっとそれも油断させる罠かも」


罠は大変わかりやすく、地面や壁の一部の色が変わっていた。

発見してくださいと言っているようなものだ。


そこら辺に落ちていた石を拾い距離を取って地面の罠に向かって投げる。

罠にぶつかると天井からバケツ一杯分くらいの水が落ちてきた。


「……罠?」


「びしょ濡れ嫌」


「地味だな」


「「「……」」」



様子見でみんなで固まって動いていたが、この罠を見て無言になった。

あまりにお粗末すぎやしないか……と困惑する。


「ゆ……油断させる罠かもしれないぜ」


「気を引き締めて行こう」


そう言っていたが一向に酷くならない罠に微妙な空気が流れた。

ただ単に音が鳴る罠に、10cm程穴が開く罠。 ぬるい風が吹く罠。

どれも微妙。

良い事なんだよ? 良い事なんだけどね、なんか気が抜けちゃう罠なんだよ。



と思っていたらこの階から出現するでかいネズミのような魔物が1匹出た。

大きさは小型犬ぐらい。

口元からはでかい前歯が見えている。


まずは様子見と隔絶の結界を張る。


ドンッ!!

ビシビシッ!!


結界に向かって歯を突き立てるでかいネズミ。

その後に送れるようにして棘の付いたしっぽを結界に向かって振る。

しっぽは結界に当たったあとネズミお尻に合わせて左右に勢いよく揺れる。

結界だから良いものの、これが体に当たったら逆立った棘に肉をこそぎ取られそうだ。


「あのしっぽは痛そうだな」


「絡み付かれたら肉が抉れそうだね」


「……可愛くない」


「――……感想そこか?」


他の人たちも結界越しにネズミを観察をする。

中にはスマホで写真を撮っている者もいた。


「橘、これネズミの周りだけ囲えるか?」


「いけますよ」


「頼む」


社会人組の人にそう言われ、隔絶の結界を張りなおした。


ネズミは身動き取れなくなってキーキー言っている。


「橘の結界は便利だな」


「一組に一人欲しいな」


「遥あげない」


皆に家電のごとくもてはやされたら葵に抱き着かれた。


ひとしきり撮影も終わったところで今度はネズミの強度の検証だ。


「誰がやりますか?」


「ナイフが通用するか試したい、俺がやる」


「伊勢さんが切れなかったら魔法試す? 葵行ける?」


「いく」


そうしてネズミと社会人組……伊勢さんと私たちの間に結界を張り直し、ネズミを覆っていた結界を解除した。


「行くぞ。 『身体強化』」


伊勢さんは勤めていた会社を退職して探索者になった口だ。

歳は確か……26歳で独身だったはず。

細身で身長は……170後半くらいかな?

スライムや羽ウサギの時もそうだがこういう魔物の検証を積極的に行う研究肌な人だ。


そのうちあえて攻撃を食らいそうだなと思う。


伊勢さんと同じ組には男性が二人いる。

皆社会人組で鈴木さんと桜井さんだ。


二人とも20代半ばの独身でササッと会社を辞めてきた。

安易に就職を決めた私が言うのもなんだが、それでいいのか? と思った。


3人とも訓練の無い時間帯は事務仕事を手伝っているらしい。

そこで聞いた話を私たちに流してくれたりする。


「なんで3人には丁寧なんだ?」


「私はいつでも丁寧です」


「ん?」


「ん?」


私と五十嵐の認識に齟齬が発生したようだ。

私はいつでも丁寧だ。 失礼な奴め。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る