第41話 鎮圧






そして時は遥が現着した時へと進む。


駐屯地から一番近くの『門』 に配置されたのは遥と他2名。


ここには先制パンチとばかりに分かりやすい職持ちが配置された。


遥の大声攻撃から立ち直った者達が、声を発した者を見つける。

か弱そうな美しい女性と分かるとざわめきが戻った。


「なんだ女じゃねーか!!!!」


「綺麗なお姉さーん!! 倒してほしいんですかー?」


「降りて来いよおらぁあ!!!!」


お立ち台に登ろうとする者達も現れた。

遥はそれを冷ややかに見つめる。


すぅっと息を吸うと……


「『隔絶の結界』 !!!!」


まず『門』 を結界で覆った。

次にお立ち台の周りを。


突然門が何かに覆われ戸惑う民衆。


「硬っ!!!!」


誰かがその結界に触れる。


その結界は遥の訓練により強固に、生身の一般人では破れない硬さにまでなっていた。


「まず一つ!! これを破壊できない者にダンジョンに入る資格はない!!!!」


遥がそう断言する。


「なんだこれ……」


「突然現れたぞ? ……壁?」


その場にいた者達が間をおいて理解する。

これはその女が何かしたのだと。


「ならてめぇをぶん殴ってやるよ!!!!」


「おもしれえこんなもん壊してやるぜ!!!!」


ダンジョンに入れないと知って怒りの矛先を遥に向ける者達がいた。


「『鉄壁!!!!』」


その者達は新たに出現した者に跳ね飛ばされる。

跳ね飛ばされたものは待機していた自衛官にキャッチされた。

勇者イガラシの絶妙なコントロールである。


「勇者イガラシよくやった!!!!」


「その名を呼ぶな!!!!!!」


遥は腕組みし力強くその名を呼んだ。

裏方勇者イガラシ、またの名を五十嵐光輝は凄まじい形相で遥を睨みつけた。 


「なんだなんだ?」


「おい……あいつ飛ばされたぞ?!」


「なんだ? 何があったんだ?」


「俺……勇者イガラシって聞いたことある」


勇者イガラシの名は絶大だった。

興奮状態だった民衆の一部が落ち着き始めた。


それもそのはず。 

日本で始めてダンジョンの『門』 を開いた者としてネットの中では有名になっていた。

当の本人は恥ずかしくて隠れるように過ごしていたが。


その五十嵐がなぜこの場に居るのかというと、スカウト組だからだ。


政府では『門』 を開けられる者が職持ちだけだと把握していた。

実際に鑑定士を用いて開いていない『門』 を使用して実験もしたからだ。

だからあの話題になった動画はもちろん把握済み。

直々に脅しという名の交渉が行われたのだった。

配信仲間の後押しという名の説得も行われ、半ばしぶしぶだが五十嵐はダンジョン探索者となったのだった。



そして最悪なことに遥と出会ってしまった。

本来であれば別の地味な場所に赴こうと思っていたはずだった五十嵐。

班分けされる際、速攻で遥に捕まり、一番目立つここへと連行されてしまった。

かわいそうな存在である。


こうして勇者イガラシは隠された顔を白日の下に晒され、より一層ダンジョン沼へと沈むことになるのだった。


後日ネットではこの日のことを、勇者イガラシ降臨の日と呼ばれるようになったとかなんとか。




『女性です!! 女性がお立ち台の上で叫んでおります』


現場を中継しているリポーターの男性がそう告げる。



「え? お姉ちゃんなんであそこにいるの?!」


「遥? あらあらあらあらまぁ」



生中継されたテレビに齧りついてみる私と母。


互いに手は私に抱っこされたシロに伸びており、動揺を落ち着かせるべく懸命に撫でている。

シロはゴロゴロと喉を鳴らした。


「私お菓子取ってくる!! あ、その前に録画録画!!」


「なら私は飲み物用意するわね!!」


互いに手分けをして観戦の準備をする。


数分で準備を整えるとソファーに座り観戦をし始めた。


「あれは何かしら?」


母が結界を見てそう呟く。


「あれはお姉ちゃんのスキルだよ」


「スキル? ……あぁ、ラヴァルザードさん関連ね。 これのことを言っていたのね」


のほほんと母がそういう。


「そうなの。 お姉ちゃんは職業【結界師】 になったんだよ」


「そうなの? 遥はてっきり大学生かと思ってたんだけど、いつの間にか就職したのね」


「大学生のままだよ?」


「そうなの?」


話は噛み合わなかった。


『あちらに何か見えますね。 あの半透明な膜……のようなものは何でしょう、触った人が居るようですね。 話を聞きに行きたいと思います』


男性のリポーターが弾き飛ばされ、外に追いやられた男性に取材しに走った。


『現場は一触即発の様相を見せております、あの女性は何者なのでしょうか? ……おや、雨が……?』


歩きながらリポートをする男性。

その男性を映すカメラに水滴がついた。


リポーターも気が付いたようで空を見上げる。

つられるようにしてカメラも空を映し出した。


「なにあれー!!」


「まぁ……まぁまぁ」


空中にはバランスボール大の水球が浮かんでいる。


『あれは何でしょうか? 水のようなものが浮いております』


水球を映した後カメラは人込みを映した。

そこに映し出された人々は上を見上げ指さし、スマホで撮影したりしている。


「魔法かな?」


「お父さんもよくやってたわね」


「え? そうなの?」


「そうよ。 優奈たちとても楽しそうにしてたわ」


なにそれ聞いてない!!


母の話も気になったがテレビの向こうも気になった。


どっちの話を聞けばいいんだー!!


「あ……ああ……」


右往左往していたらどっかの黒いやつみたいな声が漏れてしまった。


それから勇者イガラシを呼ぶ声が聞こえ天秤がテレビに傾いた。


「勇者……イガラシだと?!」


なにを喋っているのか分からない。

だが、姉と何か会話している。


お姉ちゃん勇者イガラシと知り合いだったの!! 教えてよー!!


ぐぬぬぬと情報過多により頭の中がぐちゃぐちゃになった。

そして私よりもどんどん先に行くお姉ちゃんに対し何とも言えない感情が芽生えた。


リモコンを手に取るとテレビの電源を消した。


「どうしたの優奈」


「寝る!!」


盛り上がるテレビの向こう側を背に、私はふて寝した。


あの後いったん落ち着いた人込みの前に職持ち3人が立ち、ダンジョンに関する危険性を説いたらしい。

その一環としてスキルの披露や力のデモンストレーションが行われた。


デモンストレーションと言っても、姉と勇者五十嵐のガチ喧嘩だったらしい。

おちょくる姉とイラついている勇者の戦いは見ている人を震え上がらせるのに十分だったみたい。


芽生えた恐怖心は魔術師の皇葵さんが水魔法で幻想的なショーを行い落ち着かせたらしい。


呆然自失と言った感じで姉が行った場所の暴動は鎮圧された。

力の差を見せつけられた人々はおとなしく警察や自衛隊の言う事を聞いて解散したらしい。


この動画は生中継されており、次の日各局が盛大に取り上げた。

ネットでは勇者五十嵐光臨祭が行われ、戦乙女として姉も話題をに登った。


他の県内の門の場所でも同様にパフォーマンスが開かれた。

こうして世間に職持ちが周知されることになった。






時は少し戻り――




「――ターゲットを補足、どうやら誰かと待ち合わせしていた模様……」


アメリカのとある州


「あれは……アジア人か? 現在滞在しているアジア人のパスポートと照合しろ」












「ようやく判明しました。 あれは日本人の橘優介です」





***



第2章完結になります。

明日から第3章になります。

カクヨムコンに参加中なので、

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