第40話 契約




ダンジョン攻略室






メールを送信してから



「こっち書けました」


「俺も書けました」


ダンジョン攻略室からメールを送るとすぐに何人かから反応が返って来た。

丁度テレビを見て者達が多かったようだ。


ここで訓練していた者達はダンジョンの危険性も理解し、この状況がいかに危険か把握している。


「無謀にもほどがあるっすね」


「しょうがないんじゃないか? 政府から一部しか内部の様子公開されてないし。 しかも危険なとこは伏せて」


中には返信しながらこっちに向かってきていた者もいたようで、メールが帰って来てからすぐに現れた者もいた。


合格してから約一カ月。

今まで訓練を行っていたせいか、レベルによる身体能力の上昇だけではない。

鬼教官から精神面も訓練されていた。 


再三ダンジョンに関する危険性は説いた。

ありがたいことに離脱者は現れなかった。


彼らのダンジョンに対するその熱意はどこから来るのか分からない。 正直言って私には理解不能だ。

だがそんなことはどうでもいい。

彼らのそのダンジョンに対する愛はこの状況にとって都合が良いことに変わりないからだ。


「三波君、書類を」


「かしこまりました」


決裁が降りたらすぐに雇用契約できるよう書類は用意しておいた。

到着した者から説明をし承諾を貰う。



「こんな額頂けるんですか?」


「マジか……いやマジか……」


この一カ月、ダンジョン攻略室は無償で訓練を行い、人件費という費用を発生させずに精神的に自衛隊員寄りになっていた力のある者達を手に入れていた。

ダンジョン探索者になった者達もお金まで考えていなかったらしい。

雇用条件を見て有頂天になっている。 ……危険手当含めれば少ないと思うのだがな。

今の我々はこれが限界なんだ、すまんと心の中で謝っておいた。


「今日は契約できません、今勤め先があるので……すみません」


「分かりました」


中には雇用契約が結べない者居た。

それはしょうがない、ここに来た者達にも今の生活がある。

元々募集する段階で雇用の有無は説明してないからな。


これについては後から上と要相談だ。

上から経済団体へ働きかけを行って臨時職員として登録だけ出来るよう法整備を整えてもらわねば。


「自分、大学に在学中ですが、そちらは退学しないといけないですか?」


「いや、在学中は学業を優先してもらって構いません。 こちらはまだ本格的に攻略を行っているわけではないので」


「なら契約します」


「就活終了しちゃったな」


そう笑いあう者達も居た。


それを羨ましそうに見つめる社会人組もいた。


この場には現在十数人のダンジョン探索者が集まっていた。

自衛官による訓練を受けている探索者が、だ。


現状政府による職持ちの公表は開示されていない。


支持率の兼ね合いだとか、社会の混乱とかもっともらしいことを言って今まで伸ばし伸ばしにしてきた。

その結果があの混乱だ。

……一般市民にとってダンジョンは気軽に非日常が味わえるアトラクション感覚になっているというのに。


丁度良い……。


上に対する黒い感情や激務からか考えが荒む。

丁度良い見せつけてやろうじゃないか……。


このチャンス、全国民が注目するこの暴動をここに居る者達の華々しい披露会にさせてもらおうじゃないか。


「亘理室長……顔が悪役のそれです」


「構わない」


「構ってください」


「よし、これからの行動を指示する。 社会人組は参加してくれるとありがたいが、参加は強要しない。 もし善意で参加する場合、顔を隠す道具は用意してあるのでそれを使ってほしい」


この場に居る者達が私に注目する。


「……今の君たち、職持ちはまだ国民に浸透していない未知の存在だ。 上の方はまだ公表の仕方に悩んでいる。 伸ばし伸ばしにした結果があれだ」


そう言ってテレビを指さす。

そこには警官とデモ隊が揉めている映像が映されていた。


「あのダンジョンの危険性は君たちの方が良く知っているだろう」


そう言って見渡せばそこに居る者達はゆっくりと頷く。


「力を持たない、か弱き者達をあの中に入れても良いのか? 答えは否だ。



今こそダンジョンに入るにふさわしい力を見せつける時だ。 ダンジョンに入れる資格を……全国民に証明しようじゃないか!!!!」



「「「「「おう!!!!」」」」」



「行け!!!! 派手に暴れて来い!!!!」


「……暴れてはダメじゃないですか?」


その場にいた全員が力強く頷いた。

三波の言葉は誰にも届かなかった。


そうして用意した衣装に着替え、自衛隊と共に専用車両にて近くの暴動現場へ別れて向かった。




皆が立ち去ってからその場には黒い笑いのままテレビを見つめる亘理の姿があった。



「上手くいきますかね?」


「当たり前だ。 それより各所へ連絡はしたか?」


「はい。 通達致しました。 後、先ほど政府から直接テレビ局へ臨時通達もしたと連絡が入りました」


「よし、よしよしよしよし。 いいぞ……視聴率貢献してやるから後押ししてくれよ……」


流石に全国に派遣するには時間も人数も足りない。

そこで利用するのがテレビ局だ。

系列テレビを利用し生放送の上全国に発信する。


流石に上もこの暴動の鎮圧には自衛隊だけだと無理だと判断し、臨時会議を開いて私たちの上司である防衛大臣から命令が下りた。


くく……命令だもんなぁ。 命令だから何かあったら上の指示に従いましたって巻き込んでやれる。

切られるときはただでは切られんぞと口元が緩む。


よくも今までよく分からない機関だの、金食い虫だの、給与泥棒だの揶揄してくれたな。

仕事は膨大、ブラックもいいとこの働きだ。


「見てろよ……今こそ職持ちの怖さ味わうときだ!!!! その眼かっぴろげて見るが良い!!!! あーはっはっはっはっは!!!!!!!!!!」


私の雄たけびは、この場に残った秘書だけが聞いていた。



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