第31話 お祭り


週末、すーちゃんとあーちゃんを誘って話に出ていたお祭りに来ていた。

浴衣ではなく普段着で。


「屋台色々あるねー。 どれもおいしそう」


「結構規模が大きいわね、端から見て回りましょうか」


このお祭りは空き地でロの字のように出店が出店される祭りと、神社の道沿いに左右に屋台が出るタイプが混じっている。 神社の横にも空き地があるためだ。

空き地の方にはイートインスペースも設けられている。


祭りというと食べこぼしや食べ終わった後のゴミがたまに落ちてたりするのだが、このお祭りではそれが見られなかった。 よく観察していると落ちたごみはボランティアの年配の方がすかさず拾っている。

なるほど綺麗なわけだ。


こやつ……出来る。 と、ボランティアの人を勝手にライバルに認定した。

鑑定したらレベル5と出た。



……!?


本当に出来るやつだった!!


突然の出会いに運命を感じたのは私だけだった。

だが相手は何も知らない。

かといって私が名乗り出るわけにもいかない。

名乗り出たところで不審者として通報されるだけだ、そんな世の中、世知辛いなぁ……。


ちらっとライバルを見やる。

あなたのことは私の胸の中にだけとどめておくよ、忘れないからね。

心の中で一人盛り上がり、一人で完結し、別れを惜しみながら二人の後を追った。


「ゆうゆうどこ行ってたの?」


「今からすーと金魚すくいやるけど優奈もやる?」


「やるや……やりたいけど金魚飼えないや」


「うちで引き取るよー水槽あるし、金魚もう少し欲しかったんだ」


「そうなの?! なら私もやりたい」


「誰が一番すくえるかな? 競争ね」


「負けないよー」


3人で競争した結果、すーちゃんこと鈴が3匹、あーちゃんこと明日花が5匹、私はおまけで貰えた1匹だった。

解せぬ。 身体能力が上がってるはずなのに。


「ゆうゆう意外と力強くてびっくりしたよ。 水しぶき上がってたよ」


「優奈水圧でポイが速攻破れてたね、力入れ過ぎだよ」


身体能力の弊害がそこにあった。

笑いながら二人に言われ、なんてことだと肩を落とした。


「あれなんだろう?」


「人だかりが出来てるね」


「なんだろう、いってみようか」


私とあーちゃんは、すーちゃんに手を引かれるようにしてその場に向かった。


その場所は若い人から年かさのいった人まで集まっており、その中心には飲み物を販売している屋台があった。


「助かるわ、お兄ちゃん力あるのね」


「あんちゃん、こっちも頼む」


「一回1000円です」


どうやらとある人物を中心として出来ているらしい。


観客からは、「すげー……」 とか、「やば……」 とかそんな声が漏れている。


何が凄いんだろうとワクワクする。


私達がその人物を目にする距離まで近づくと、そこには大学生くらいの大柄な男性と屋台のおっちゃん、おばちゃんが居た。


おっちゃんは男性の背中に手をやり、笑いながらバシバシ叩いてる。


「あいよ、1000円」


「うす」


別のおっちゃんが男性に1000円を渡し、男性がおっちゃんの後を付いて行った。


私達3人は顔を見合わせて頷くとその後を追った。


その場所はさっきの屋台から3店舗ほど離れた屋台だ。


我先にと動いたおかげで最前列に来れた。

ワクワクしながらことを見守る。


「じゃあ、これをそこに頼んだよ」


「うす」


どうやら飲み物と水、氷の入った屋台でおなじみのポリバケツを移動するらしい。


「あれを移動するの?」


「一人……で?」


「それでこの人数?」


私達3人は不思議に思いながら見守った。


男性が指示されたポリバケツに手を掛ける。

見守る人たちは自然と手に力が入り、生唾を飲み込み見守る。


男性はまるで何も入っていないポリバケツを運ぶかの如く軽やかに持ち上げると指示された場所にそれを置いた。

置いた衝撃で水が少し零れ地面にしみを作った。


「「「「おおおおおー!!!!!!」」」」


観客から歓声と拍手が上がった。

私達も思わず拍手してしまった。


これは凄い。 去年の文化祭で屋台やったけど、あれ動かすのに数人必要だったもん。

それを一人で動かすなんて凄い。


人垣が出来るはずだ、と納得した。


「おーい兄ちゃん、1000円出すからこっちも頼むー」


「うす」


……あの兄ちゃんやるなぁ!!

私はお祭りでお金を消費する事しか考えてなかった。

だがあの兄ちゃんは金稼ぎに来ている。

私はその考えに衝撃を受けた。


人垣から離れ屋台でラムネを買い喉を潤し先ほどの出来事を3人で話した。


「さっきの人凄かったね」


「ひょいってやってたねひょいって」


「おじさん達感謝してたね」


その後はお兄さんのことを忘れて3人でお祭りを楽しんだ。








「で、鑑定結果は?」


「忘れてました」


姉に対してどや顔する。


「なぜどや顔?」


「キリッとした方が良かった?」


「いや、別になんでもいいんだけどね……」


部屋でゴロゴロしながら今日の出来事を話した。


「でももう一人はちゃんと鑑定出来たよ?」


「もう一人?」


「うん、ボランティアのおばちゃんが職持ちっぽかった。 あの動き、まるで柳のように、しなやかなそれでいて流れるようにゴミを拾ってたからただ者じゃないなと思って鑑定したの」


「ゴミ拾いで鑑定して、明らかに職持ちの方を鑑定しないって……まぁいいわ」


姉が恐ろしい者を見るような目つきで私を見た。

なんだか分からないがサムズアップしておいた。


「今SNSで同じような人が目撃されてるのよね、あったあった。 これ見て優奈」


「どれどれ?」


姉にスマホを差し出され覗き込む。


全国各地で「私が見た力持ち自慢」 なる物がハッシュタグ付きで拡散されていた。


「これ……個人情報……じゃなかった。 著作権? プライバシー? どれだっけ?」


「肖像権じゃないかな?」


「そう!! 肖像権!! 侵害にならないのかな?」


「んーどうなんだろう。 本人が許可してればならないし、隠し撮りならアウトだし、目線入りなら微妙だね」


「そっかー、もしかしたら今日見た人も拡散されてるかもね」


「そうかもしれないね」


そう言ってSNSをつらーっと見ていく。


「……お祭り男なのかな?」


「……引っ越し男かもしれないよ?」


お祭り、引っ越し、宅配、重い物を運んでいる人の画像が多かった。 しかも圧倒的に男性が多い。


「お祭りお姉さんや引っ越しお姉さんは居ないの?」


「優奈はお祭りお姉さんや引っ越しお姉さんになりたいの?」


「なりたくない」


「そういうことよ」


そういうことか。


「あ、でもいかつい鉄骨なら持ち運びたいかも」

鉄骨を肩に担いで運べたらカッコいいよね。


「どこにそんな需要があるの……優奈の感覚が分からないわ……」


そうかなーカッコいいと思うんだけどなと呟き、しばらくSNSを眺めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る