第19話 超人



GWから5月末の今日まで、姉は暇を見ては家に帰って来てくれるようになった。


「そういや優奈この動画知ってる?」


「なんの動画?」


今日は土曜日。

日課の草刈りやらなんやらを終えてリビングでまったり中だ。

そこで姉に見せられたのは海外の動画。

何やら周りに体を鍛えるトレーニングマシンが置かれている。

ジムでの撮影なのかな?


「超人現るってネットで話題になってるの」


「超人?」


「そう」


そう言って動画が再生された。

その動画には細身の外国の人が映っている。


外国語で何かを話ているが何を言ってるのかは分からない。

おもむろに、後ろに置かれたバーベルの方へ移動した。


バーベルには重りがいくつかついてる。


「これで100kgらしいよ」


「そうなの? お姉ちゃんよくわかったね」


「ここに書いてある」


「あ、本当だ」


動画のコメントに100kgスタートって書いてあった。


寝っ転がってベンチプレスをするようだ。


バーを両手でしっかり持つ。

次の瞬間、男性はバーベルをひょいと持ち上げた。


まるで重りが発泡スチロールで出来てるかのような軽さに見える。


「やば」


「ね」


動画に映る人物はさらに重さを増やすらしい。

両側に重りをつけた。


コメントでは次は150kgらしい。 そんな簡単に重さを上げていいものなの?

ベンチプレスなんてしたことが無いのでよく分からない。


そのまま見ていると動画に映る人物はまたベンチプレスの体制になりバーに手をかけた。


またひょいと持ち上げる。

しかも持ち上げてる途中で両手から片手に変えた。


姉と私は混乱した。


結局その人は200kgも軽々制覇した。


「そりゃ拡散されるよ。 何あれ、片手だったよ!!」


「……そんでさ、優奈」


「え? 何?」


「あんた体力テストの結果どうだったの?」


一緒に驚いていた姉は表情を変え神妙な面持ちで私に尋ねてきた。


「体力テスト?」


体力テストって体育の授業でやったあれかな?


「そう。 優奈もあんなふうなの出来るんじゃないの? レベル高いよね」


「え? 出来るの?」


「え?」


「え?」


「「……」」


「……体力テストの結果は?」


「きわめて普通だよ?」


「なんで?」


姉が困惑しながら問うてくる。

困惑されても事実を話してるだけなんだけどな。


「なんでって言われても……運動部じゃないし、皆ゆるーくこなしてたよ?」


姉が言わんとしていることがよく分からない。


「私の時めっちゃ本気だったのに?!」


「お姉ちゃんの時代は知らないよー」


体力テストはGW前の体育の授業で行った。

運動部の人たちは監督や指導者から本気でやれって言われてたみたいだけど、私達帰宅部の人たちや文化部の子たちは本気でやらない。

持久走なんかも皆が離脱するくらいで余裕があっても止めちゃうもん。


その結果私は可もなく不可もなく平均的な感じで終わった。


「……私でさえ最近疲れにくくなったのに、優奈は気づかないの?!」


「う、うん。 あ、そう言えば朝起きるのは楽になったよ」


気づかないのと聞かれれば何が変わったか分からない。 色々考え絞り出した結果が朝起きるのが楽になっただった。


「それは関係ないかなぁ。 うし、優奈今から走るよ」


「え? 今から?」


「持久力がどれくらいあるのか見させてね、さあ行くよ!!」


「えー!!」


こういう時の姉の動きは速い。

さっさと自分の部屋に行き、部屋に残ってたジャージに着替えてきた。

追い立てられるように私もジャージに着替えさせられ家を出された。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る