第33話 シャーロット攻略作戦会議(その2)
学校が始まった初日。
私たちは国際法のクラスから数学のクラスへ移動していた。
少し前をエドワードが歩いている。
私は彼を見つめながら思った。
(この先にちょうど小さな資料室があるのよね。そこにエドワードを連れ込めれば……あの部屋の広さならバヤンの目がくれば視線を感じる事が出来る)
『バヤンの視線は氷の針』と言われるように、ある程度の近さまで来ればその存在を感じ取るが事が出来る。
そしてシャーロットもみんなが一緒にいる授業中は、バヤンの目を使ってはいないようだ。
今も教室間の移動なので、バヤンの目は感じられない。
(よし、いまだ!)
私は早足でエドワードの横に並ぶと、素早く資料室のドアを開けた。
そしてエドワードの腕を取り、部屋の中に引っ張り込む。
「えっ」
エドワードは小さな声を上げたが、そのままバランスを崩して資料室の中に入る。
私はさっきと同じく、素早くドアを閉める。
「ルイーズ? これはいったい何のマネだ?」
エドワードが警戒混じりの疑問の声を上げた。
う~ん、やっぱり今の所、エドワードの気持ちはシャーロット寄りなんだろうな、きっと。
「エドワード、よく聞いて。これは私の命が賭かっている事なの」
「君の命が賭かった事?」
彼はさらに不思議そうな顔をする。
本当は『国の存亡が賭かった重大な事』と言いたい所だが、いきなりそんな話をされてもエドワードは受け入れられないだろう。
「そう、このままだと私は死刑になるかもしれない」
「ちょっと待ってくれ、ルイーズ。僕には君が何を言っているのか理解できないよ」
「そうかもしれない。でも私の話を聞いて。私、ある人から罠にハメられそうになっているの。私がある人を殺そうとしている、って噂されているのは知っているでしょ?」
エドワードが渋い表情を作った。
それに構わず、私は話し続ける。
「聖人感謝祭の前なんか、偽の呪いの人形で私は陥れられそうになったわ」
エドワードが顔色を変えた。
「まさかルイーズ、君はそんな禁呪まで!」
ちっくしょう、エドワードもここまで洗脳されているのか?
こうなったら奥の手だ。
私はエドワードの胸にすがりついた。
「違うわ! 私は絶対にそんな事はしていない。これはメイドのアンヌマリーも証言してくれるわ!」
エドワードは突然の私の行動に少なからず驚いたようだ。
「私は彼女を殺そうとなんて、した事はない。エドワード、あなただけには信じて欲しいの」
私は涙ながらに訴えた。
どうやらこの世界に来てから、私は『本来の自分』では出来なかった芸当まで出来るようになったみたいだ。
しかしエドワードは苦しそうに視線を逸らした。
「僕は君を信じたいけど……でも……今までの事件を考えたら、君がシャーロットを呪い殺そうとしたとしてもおかしくはない。それに君のメイドの証言では証拠にならないよ」
ん~、もう一押しかな?
「エドワード、小さい頃に一緒に庭に埋めた宝箱の事を覚えている?」
チュートリアルに書いてあったが、ルイーズに恋心を抱いていたエドワードは、子供の頃に庭に一緒に宝箱を埋めたのだ。
「大人になったら一緒に掘り出そう」と約束して。
「ああ、覚えているよ」
「私、神と父母と、あの宝箱にかけて誓うわ。私は決して、彼女を殺そうとなんてしていなかったと」
しばらくの沈黙の後、エドワードは私の両腕を抱くように手をかけた。
「わかったよ、ルイーズ。君がそこまで言うなら、僕は君を信じる事にする」
(チョロ!)
私は心の中で舌を出した。
現実に戻ったら、私もこの手を使ってみるか?
「ありがとう、エドワード。あなたならきっと信じてくれると思っていたわ」
私は彼に抱かれるようにして顔をあげた。
なんか私が正ヒロインになった気分だ。
「だけど、僕以外の人は、特に中心人物となっている四人は、君を完全に敵視している。みんなでシャーロットを守る騎士団を結成しようと言う所まで話は進んでいるんだ」
な、なにぃ~。
『シャーロット守護騎士団』が出来るには、ゲームではもっと先の話だったはず。
私の知っているシナリオの、倍は早く話が進んでいるぞ。
こっちもゆっくりはしてられない。
「それはどういう風に話が進んでいるの?」
「学校から少し離れた崖に『空中バラ園』があるだろう。あそこでみんなで騎士の忠誠を立てるんだ。『シャーロットを守り抜く』ってね」
(やっぱりアソコを使うのか)
私は密かにほくそ笑んだ。予想通りだ。
「じゃあみんなは定期的にソコに集まるの?」
「そうだ。毎週金曜日の夕方四時にバラ園に集まる事になっている」
ふ~ん、いきなり中央広場に集まられたら、ちょっとやりにくいな。
「じゃあ、次の集まりには、事前にここに行ってもらえないかしら?」
次の目標は婚約者であるアーチーにしようと思っていてが、ゲーム的にはシャーロットがヒロインの場合、アーチー攻略ルートが一番簡単だし基本だ。
逆に言えば、ルイーズの立場からのアーチー攻略は難しいと言える。
(すぐにアーチーにアプローチをするのは避けた方がいいのかな?)
そう考えていた時だ。
学食で珍しくハリーが一人で昼食を取っていた。
海運王の息子ハリー・レット・マグナー。
商人でありながらその莫大な財力を背景に、貴族の称号を持っている。
そして裏では海賊たちさえ取り纏めていると言う。
そんな家柄のせいか、ハリーは女好きだ。
(これはうまく行けばつけ込むチャンスがあるかもしれない)
「隣の席、いいかしら?」
私は優しい感じの笑顔を作りながら、ハリーの隣のイスに手をかけた。
ハリーは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに「どうぞ」と言ってくれる。
本来、社交的な性格なのだ。
「珍しいわね、アナタが一人で食事なんて」
「まぁね、たまには一人を感じたい時もあるさ」
うっわ、キザ~。
おそらく彼は提出物を出していなくて、先生に呼び出されて食事が遅れたのだろう。
彼は細かい事は苦手なタイプだ。
「でも良かったわ。私、アナタと話したいと思っていたから」
「ほぉ~、フローラル公国の公爵令嬢にして薔薇姫とも呼ばれるルイーズからの話とは何だ? 期待しちゃうね」
彼はそんな軽口を叩きながらも、私の様子を観察しているようだ。
シャーロットとの事で私を警戒しているのは間違いない。
「薔薇姫って言うのは、どういう意味かしら? 私が美しいって事? それともトゲがあるって事かしら?」
私はそんな返事を返しながら、周囲に神経を集中した。
『バヤンの視線』は感じられない。
だがこの広い食堂では、遠くから見られていては、バヤンの目を感じ取る事は無理だろう。
「俺としては前者なんだけどな。俺は女には優しいから」
「じゃあその優しいハリー・レット・マグナーに一つだけお願いがあるの」
私はここで賭けに出る事にした。
少なくともバヤンの目は、読唇術が使えるほど近くにはいないはずだ。
「なんだい?」
「私がお願いした時、ある場所に来て欲しいのよ」
「ほぉ、なんだか意味深だね」
ハリーは冗談ぽく答えているが、目には疑惑の色が見える。
私の真意を測りかねているのだろう。
「そうね、意味深だわ。だからお願い、一度だけでいいから聞いて欲しいの。決してアナタに悪くなる事はしないわ」
「それはいつ、どこに行けばいいんだ?」
どうやら話に乗ってくれたようだ。
ハリーにしてみれば「ここで私の尻尾が掴めれば、シャーロットの好感度が上がるかもしれない」と考えたのかもしれない。
「それは後で連絡するわ。それじゃあお願いね」
私はそう言って席を立った。
ハリーが何か言いたげな様子をしていたが、結局は何も言って来ない。
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この続きは明日朝8時過ぎに公開予定です。
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