春。僕の夢への小さくて、それでも大きな一歩。

木春凪

春。僕の夢への小さくて、それでも大きな一歩。

 見慣れた道を自転車で下る。いつも通る道なのに、今日は胸の内が騒がしい。


 高揚感と緊張感。様々な気持ちが入り乱れたまま、まだ少しだけ肌寒い春の風を切って進む。


 目的地であった郵便局に着くと、僕は自転車を降り、カバンから封筒を取り出す。


 角形2号の封筒はずっしりと重く、僕はその重さに少しだけ誇らしくなる。


 郵便局に入る前に、封筒に描かれた宛名を、もう一度しっかりと確認する。


 何度も何度も、自宅のパソコンで間違いがないように見比べた住所。念には念を入れて正しいか確認。


 何人か、郵便局から人が出てきたような気がした。


 もしかすると、郵便局の前で立ち止まっている、変な人に見えているのかもしれない。


 それでも、そんなことを恥ずかしいとか、意識している余裕はなかった。


「よし、行くぞ……!」


 確認を終えた僕は、小さくそう決心し、自動扉を進む。


 地元の小さな郵便局。緊張して入ってきた僕を、受付の職員の方が優しく導いてくれた。


「これを、送りたくて……!」


 僕は、勇気を振り絞って封筒を職員の方に渡す。


 その送り先から、何となく相手に中身がわかってしまう気がして、恥ずかしくなる。


 職員の方は、封筒の重さを量り、必要な金額を教えてくれる。


「あ、ありがとうございました……!」


 手続きは、思っていたよりも非常にあっさりと終わった。


 郵便局を出た僕は、小さくため息をつく。


 無事に手続きを終えた安堵。そして、達成感。


 まだ、スタートラインに立っただけなのに、達成感を感じてしまう自分が、すこしだけ恥ずかしい。


 それでも、いままでは、行動を起こすことさえできなかった。


 ただ、頭の中でだけ考え、できたらいいなと、こうできたら楽しいだろうなと、そう思うだけの日々だった。


 それが初めて形になった。


「ここからだ、僕は……」


 目指している目標。夢は、まだまだ遥か先にあるけれど、確かに、その一歩目を踏み出すことができた。


 僕は自転車の鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。カシャンと、気持ちの良い音が聞こえた。


 さぁ、次はどんな物語を描こうか。


 僕は、自転車を力いっぱい漕いで進む。


 春の風は、さっきまでよりも少しだけ暖かく、前へ進む僕を迎えた。

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春。僕の夢への小さくて、それでも大きな一歩。 木春凪 @koharunagi

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