魔法使いを忘れない
木春凪
魔法使いを忘れない
(暗転)
学校のチャイム音が鳴る
(明転)
教室。
舞台には机が二つ。優木と由香が席に座っている。
優木:あ~~志望校が決まらなあ~い!
優木:もう明日から夏休みだし、今日中に出さなかったら、明日からも学校に呼び出される・・・
優木:あ~それだけは嫌だあ。でも、適当に志望校書くのも、なんか、こう、いやなんだよなあ・・・あ~俺ってめんどくせぇ~!!
由香がカバンを持って立ち上がり。そのとき一枚のプリントを落とす。
優木:ん・・・? あ、遠藤さん・・・
由香:!!!
話しかけられ由香は急いで舞台からはける。
優木:なんか落としたよ、って行っちゃった・・・あんな逃げなくてもいいのに・・・
優木:なんか遠藤さんって変わってるんだよなぁ。クラスの人のこと、避けてるっぽいし・・・せっかく席がお隣なんだから、少しくらい俺とも話してくれてもいいのに・・・
優木:あ! もしかして、俺に気があって恥ずかしいだけなのかも! うんうんそう考えると、遠藤さんが愛らしく思えてきたなぁ。ぐへへ・・・
優木:そうだ、何を落としたんだろう?
優木は由香の落としたプリントを拾いあげる。
優木:これって進路希望用紙だよな? 遠藤さんもまだ出してなかったのか・・・ん?
優木:第一志望校・・・魔法使い?? なんだこれ、どういうことなんだろ??
由香が舞台に戻ってくる。
由香:どこ、プリント・・・?
優木:あ、遠藤さんもしかしてこれ? はい、さっき落としてたよ?
由香:! 私の・・・!
由香は優木から進路希望用紙を受け取る。
由香:もしかして、桂くん・・・見ちゃった?
優木:ごめんごめん、拾ったときに目に入っちゃって・・・遠藤さんってさ・・・
由香:・・・!
優木:実は面白い人なんだね!!!
由香:!!??
優木:いやぁ、志望校に魔法使いって書くことなんてだれも思い浮かばないよ! センスが良いって言うのかな? うんうん、ありだね!
由香:ありってなにが・・・?
優木:それは、遠藤さんが、ふざけて書いたものだとしても、本気で書いたものだとしても、どっちもありってことだよ! 前者はおもしろいし! 後者は何より遠藤さん、魔法使いのかっこう似合いそうだもん! 応援するよ俺!
由香:か、桂くん・・・。
優木:それで、遠藤さんはどっちの意味合いで書いたの? 俺的には後者だと、
由香:桂くん・・・!!!
由香:プリントを拾ってくれてありがとう・・・でも、もう私には関わらないで・・・。
優木:え、それってどういう・・・
由香は舞台からはける。
優木:俺、なんかまずいこと言っちゃったかな・・・? でも桂くんって、名前は覚えてもらえてるんだなぁ。
優木:ふぅ、俺も書かなきゃなぁ・・・
優木:! よぉーし!!
優木は進路志望用紙に何かを書き始める。
(暗転)
蝉の音がする。
(明転)
外。
優木が舞台にいる。
優木:暑い、暑すぎる・・・!
優木:今年は冷夏って聞いてたのに・・・というよりなんだよ先生・・・わざわざ学校に呼び出されたから、褒めてもらえるのかなって思ってたのに・・・
優木:第一志望校に、『困っている人を助けられる人』って書いたのがまずかったかなぁ・・・、遠藤さんの魔法使いみたいに、もう少し具体的に書けばよかったかなぁ。
舞台に通行人が現れる。そして熱中症で急に倒れる。
通行人:う・・・。
優木:・・・え! どうしたんですか!?
優木:すごい汗だ、熱中症かも! はやく救急車を呼ばないと・・・! えと、この場所ってなんて伝えればいいんだ!? なに焦ってんだ俺!? くそ、なにが『困っている人を助ける』だよ・・・!?
舞台そでから声がする。
美穂:どけ、そこのガキ、邪魔。
優木は魔法で吹き飛ばされる。
美穂が舞台へ。
優木:!? なんだ・・・!?
美穂:大気に宿る水の精よ、この者を癒したまえ・・・
美穂:よし、これで大丈夫だ。
優木:まさか、いまの、魔法? あなたは・・・魔法使い!?
美穂:そうだよ、ほらこっち来て、記憶消去するから。
優木:え!? 記憶消去!? なんで・・・。
美穂:魔法使いにもいろいろルールがある。いやぁラッキーだったね、魔法が見えて、でも記憶は消します。またね。
優木:ちょっとまった!!
美穂:待たない。ほら逃げるな。手荒な真似はしたくない。
優木:質問があります!
美穂:答えない。どうせ忘れることだ。意味がないよ。
優木:いや、忘れたくないっす!
美穂:ああもう、逃げるなめんどくさい!!!
優木と美穂が舞台上で追いかけっこを続ける。
通行人:ん・・・うわぁカップルの痴話げんか? この暑い中よくやるよ・・・
その間に通行人は起き上がり、舞台からはける。
美穂:捕まえた。なかなか根性あるやつだなぁでも、終わりだ・・・。
優木:・・・! 俺の知り合いに! 魔法使いになろうとしてるやつがいるんです!!
美穂:・・・? 何を言ってるんだ? お前・・・?
優木:その子に会ってやってくれませんか!?
美穂:はぁ、そいつはどんなやつなんだ?
舞台そでから由香が入ってくる。
由香:美穂先輩、一人で急に行かないでくださいよう・・・!?
優木:そうそう、いまきた女の子によく似た子で、同級生なんですよ!
由香:桂くん・・・! どうして・・・!?
優木:そうそう、俺は桂くんって呼ばれてて、名前覚えてくれてるんだぁって、ちょとにやにやしたり・・・って遠藤さん!??
美穂:なんだ、お前たち、知り合いなのか??
由香:し、知りません・・・!
優木:え! それはちょっと傷つく!
由香:あ、ごめんなさい! えと、その・・・
美穂:知り合いか・・・これは記憶消去が複雑になるなぁ・・・。よし・・・
美穂:おいお前、名前はなんて言うんだ?
優木:え、桂、優木です・・・
美穂:そうか、優木。お前根性ありそうだから約束しろ、来年、由香が魔法使いになるまで、今日見たことはだれにも他言するな。いいな?
優木:え・・・!? は、はい!
美穂:他言したら、わかるな?
優木:はい! わかります!!!
美穂:よし・・・。由香行こう。
由香:・・・! はい!
優木:ちょっと待ってください!
美穂:? なんだ??
優木:さっきの倒れていた人を助けたの、すごかったです・・・!
美穂:それが魔法使いの仕事だ。
優木:それです! 俺はさっきはなにもできなかった! 魔法使いのお仕事で、俺に、何かできることはありませんか!?
由香:桂くん・・・。
美穂:本気かお前? 遊びじゃないんだぞ?
優木:俺は、本気です!!
美穂:・・・いいだろう。
由香:美穂先輩! いいんですか??
美穂:・・・魔法使いだと、やっかいなこともたくさんある。協力者がいるにこしたことはない。ただし・・・後悔するなよ・・・。
優木:はい! がんばります!!
由香:桂くん・・・! どうして、お手伝いなんか・・・
優木:俺はなんと言うか、何もないんだ、志望高校もとくにないし、語れるような夢もない。でも、魔法使いがほんとにいるって知ったとき、遠藤さんのことすごいって思ったんだ・・・それで・・・
優木:俺も、何かしたいって思った! それだけだよ! あ、絶対に邪魔しない! もう邪魔かもしれないけど・・・。誓います。
由香:桂くん・・・わかった。
優木:それに・・・遠藤さんと仲良くなれるいい機会かなって・・・へへへ
由香:・・・! 私と仲良く・・・?
美穂:おい! いちゃいちゃラブコメしてないで、早くいくぞ。助けを求めてる人はまだまだいるかもしれない。
優木:あ、すいません!
由香:今行きます!
優木、由香、美穂、舞台からはける。
(暗転)
(明転)
優木の家。舞台には机が一つ。
優木は机にもたれている。後ろにはくまさん人形。
優木:ふぅ。今日はいろんなことがあったなぁ。
優木:魔法使いってほんとにいるんだ・・・それに人助けのためにしか魔法は使えないっていってたなぁ。かっこいい・・・俺吹き飛ばされた気もするけど・・・
優木:美穂さんは怖いけど、なんかすごいなぁ・・・俺と同じくらいな歳に見えるのに・・・それに・・・
優木:遠藤さんと、初めて話せた! ふふふ。
くまさん:この調子でもっと仲良くなって、えろいことするぞ~💛
優木:そうそう、えろいことえろいこと・・・って? ん??
優木:いま、なんか声が聞こえたような・・・。気のせいか??
くまさん:気のせい気のせい💛
優木:よかった、気のせいか。
くまさん:美穂さんもいい女だったなぁ。夏休みハーレムだぜ💛
優木:そうそう、夏休みハーレムハーレム・・・って! やっぱりなんか聞こえる!!
優木:後ろから聞こえたぞ・・・。ん、俺の部屋に、こんなぬいぐるみあったっけ・・・
くまさん:・・・・・・
優木:ぷぷ、あんまりかわいくないくまだなぁ。
くまさん:うるせぇ!!!!
優木はくまさんに殴られる。
優木:・・・・! 痛ってぇえ!!! え、なに!?
くまさん:わしが不細工じゃと?? 美穂に言われて監視しにこれば、好き放題いいやがりよって! どこが不細工じゃ? 言うてみー!!
優木:なんだこのぬいぐるみ!? 動くぞ!? それにめちゃくちゃ怖い!!
くまさん:あ?? 怖い?? かわいい💛 の間違いじゃろが!!!
優木:は、はい! とってもかわいいです! そーきゅーとです!!!
くまさん:お、ほんまか? ごほん、まぁ勘違いくらいするときもあるよね。許してあげるよ💛 僕はやさしいからね💛
優木:えぇ・・・えと・・・あなたはいったい・・・?
くまさん:僕は美穂ちゃんの魔法妖精だよ💛 魔法について知っちゃった人は普通、記憶消去されちゃうんだけど、君は例外だったから、一応、監視に来たんだよ💛
優木:は、はぁ・・・
くまさん:ずっと見ていたけど、君は特に害はなさそうだね💛 特に使えるとも思えないけど💛
優木:かわいいしゃべりかたしながら、案外毒舌っすね・・・
くまさん:それでも、君の記憶を消去しなかったのはきっと美穂にもなにか考えがあってのことだと思うから、今回は見逃しておくね💛
優木:あ、ありがとうございます・・・
くまさん:明日からも魔法使いの仕事は続いていくよ💛 せいぜい頑張りやがれです💛
優木:あ、あの一つ質問いいですか?
くまさん:いいよ💛 なあに💛
優木:最初、めちゃ言葉づかいわるかったですけど、どっちが素ですか??
くまさん:いつわしが言葉づかいわるぅしたガキこらぁ!!!
優木:すいませんでした!!!
優木は土下座をする。
(暗転)
(明転)
ここからのキャストの登場、はけ方、お任せします!
☆優木:この日から俺の魔法使いとの夏休みが始まった。三人と一匹??で、いろんなところへ行き、いろんなことをした。
☆優木:蜂の巣退治
Aさん:あそこに蜂の巣があってねぇ、困ってるんだよ・・・
美穂:ここからだと私の魔法は届かないな。よし、優木、お前蜂の巣を落とせ。
優木:え、下手したら死にません??
美穂:大丈夫だ、身体を守る魔法をかけておいてやる。それで巣が落ちたら、私がすぐに魔法で巣を包み、森へ返す。
優木:わ、わかりました・・・!
由香:桂くん、気をつけてね・・・
優木:ぎゃー!!! 蜂きたー!
美穂:吹く風よ、この万物を包みたまえ・・・
優木:美穂さん!! 俺ごと包んでます!! ぎゃー!!!
☆優木:町内パトロール
美穂:氷の女神よ、その息吹をここに送らん・・・
由香:美穂先輩大丈夫ですか? もう何回も魔法を使ってますけど・・・
美穂:大丈夫だ、今年の夏は猛暑が続く、こうやって一軒一軒、魔法で温度を下げていくことで、熱中症や節電、いろんなことへつながっていく。
優木:魔法使いってこう、ドーンと魔法使うわけじゃないんですね、なんというかこう、影の功労者というか・・・
美穂:それでいいんだ。魔法使いが目立つ必要なんてない。ほら、ちゃんと周りを見張れ、自然にだぞ。
優木:はい!
美穂:氷の女神よ、その息吹をここに送らん・・・
優木:あれ、なんか寒い・・・、え、美穂さん?? 魔法それて俺の方に来てません?? え、寒い寒い! 美穂さん!?!
☆優木:別の魔法使いとの戦い
Bさん:闇の門番よ、道を印せ・・・!!! 喰らえ・・・!
優木:遠藤さん!! 危ない・・・!
由香:桂くん・・・ありがとう・・・
美穂:お前みたいに私利私欲で魔法を使いだしたらもう終わりだ・・・豚箱に入ってもらうぞ・・・! くまさん!
くまさん:待ってました💛
美穂:あいつをしばき倒せ、堕ちた魔法使いだ・・・
Bさん:ちっ、ぶっさいくな魔法精霊だなぁ!
くまさん:だれが不細工やねんこらぁ!!! いてまうぞ!!!
Bさん:ぐあああああぁあああぁ
優木:強い・・・
由香:すごい・・・
美穂は携帯を取り出す
美穂:私だ。堕ちた魔法使いがいた。連行してくれ。
優木:うわぁやっぱりこえぇよ・・・あのくま・・・
くまさん:誰がこわいって💛
優木:え!? いや、ぎゃああああ!
☆優木:その中で、遠藤さん、由香との距離が縮まっていくのも感じた。
☆優木:町内掃除
舞台に違うくまのぬいぐるみを置いておく。
由香:美穂先輩大丈夫かな・・・昨日魔法の力使い過ぎちゃったんだよね・・・
優木:心配だけど、美穂さんなら明日になったらきっと元気になってるよ! 由香は体調とかは大丈夫?
由香:心配してありがとう、優木くん。 でも私は大丈夫! こう見えて結構身体強いんだ!
優木:そっか、じゃあもう少し掃除頑張りますか!
由香:うん! あ、優木くん・・・あのさ・・・
優木:ん? どうかした??
由香:ううん、なんでもない・・・
優木:そう? ん、なんか、踏んだ? ・・・!! くまさんだぁああ!?
由香:え、優木くん!? これ、ただのぬいぐるみだよ? だれかが落としたのかな?
優木:踏んですいません踏んですいません!
☆優木:このとき俺はこんな日常がいつまでの続くと思っていた。
(暗転)
(明転)
人通りの少ない廃墟。
舞台には机が二つ。
優木が美穂を待っている。
優木:なんだろう、美穂さん、話があるって急に呼び出して・・・
優木:こんな人が通らないようなところで・・・! まさか、告白!? いやでも、俺には心に決めた人が・・・! く・・・俺はどうすれば・・・!?
美穂:お前なんて土下座されてもお断りだ。
くまさん:気持ち悪い妄想💛
美穂とくまさんが舞台そでから現れる。
優木:美穂さんとくまさん! 酷い言われようですね・・・。告白じゃなかったらなんなんですか??
美穂:お前は、由香から何か聞いたか?
優木:由香から・・・何も聞いてませんけど・・・? 何かあるんですか?
美穂:ふぅ。そうか、結局、言えずじまいか。
くまさん:由香ちゃんには悪いけど💛 優木のためにも、もう伝えないとね💛
美穂:そうだな・・・
優木:え、一体、なにがどういう・・・
美穂:優木、今から言うことを黙って聞け、これは魔法使いへのなり方についてだ。
優木:魔法使いへのなり方・・・?
美穂:魔法使いは、人を助けるために存在する。その人というものに、優劣があってはならない、情が入ってはいけないんだ。それは理解できるな?
優木:わかります・・・魔法に情が入ると、どうしても、悪用してしまう人が出てくるかもしれません・・・
美穂:そうだ、そのために、魔法使いになるタイミングは決まってるんだ。それは小学校、中学校、高校、大学、その卒業のときだ。ここが一番人間関係が薄まるポイントだからだ。
優木:人間関係が薄まる・・・?
美穂:回りくどい説明は省く、率直にいうと、魔法使いになった者の存在は、忘れられる。
優木:!!! 忘れられるって、全員、全ての人からってことですか!?
美穂:そうだ、知り合いに魔法使いがいるとわかれば、その力に頼り、悪用しようとする者もあらわれるからな。ただし、例外が二つある。
優木:例外、ですか・・・??
美穂:ああ、一つは家族だ、これは最も情が入りやすい存在ではあるが、家族の支えを失い、心が壊れる魔法使いも多くいた。それを防ぐ特例だ。
美穂:二つ目は私たち、魔法使い関係者だ・・・。魔法使いが新しく生まれるとき、魔法王様が、全世界に記憶消去魔法をかける。そのとき、卒業したすぐはいろいろ辻褄合わせがしやすいんだろうな。
優木:俺は、俺はどうなんですか! 俺は関係者になってるんですか!?
くまさん:残念ながら💛
美穂:お前は、由香が魔法使いになったとき、由香に関する記憶をすべて失うだろう。お前はただのお手伝いだ・・・
優木:・・・! そんな・・・。
美穂:優木、すまなかった・・・!
優木:・・・! 美穂さん、なんで謝るんですか・・・
美穂:私は、お前に酷いことをした。由香はやさしい子だ、そして、魔法使いのお手本でもある。由香は魔法使いになると決めたその日から、友達をつくることをやめた。自分が魔法使いになったときに、その友達の記憶に、ぽっかりと空白ができてしまうからだそうだ。
くまさん:やさしくて、残酷な子や、自分自身にのう・・・
美穂:それでもあの子に、私は友達をつくってやりたかった。私と同じ孤独の苦しみを味あわせたくなかった。そこで、お前を利用してしまった。お前は少しずつ由香と友達になってくれた。私はそのことにとても感謝している。
優木:利用だなんて、感謝なんて言わないでください! 俺は・・・!
美穂:しかし、その私のおせっかいはより残酷な方へ進んでしまった。お前たちは、友達以上の感情を持ち始めたんだ。・・・隠れてないで出てきたらどうだ、由香?
優木:・・・!?
舞台そでから由香が出てくる。
美穂:由香すまない。本来なら私の口から言うべきことではなかった・・・
由香:いいえ、美穂先輩は悪くないです。言い出せない、私が悪いんです。
美穂:くまさん、席をはずすぞ。
くまさん:はい美穂ちゃん💛 またね、優木💛 由香ちゃん💛
優木:由香・・・
由香:全部聞いたよね、ごめんね、言い出せなくて・・・ちょっと座ろっか。
由香:美穂さんが魔法使いになったのは小学校卒業のときなんだって、すごいよね、そんなに小さいときから、友達を失っても、人のために魔法を使い続けてる。私はそんな美穂さんに出会って魔法使いになりたいって思ったの。
優木:由香が中学で、周りと話そうとしなかったのは、友達をつくらないためだったんだな・・・
由香:私は容量よくないから、0か1にしかできない。だから、みんなの声を聞かないようにした。それがみんなのために、私のためになると思ったから、でも、私はバカだった。私は美穂さんみたいに強くないから、心が、壊れそうだった・・・
優木:由香・・・
由香:そのとき、美穂さんが最後の友達をつくるチャンスをくれた、私はそれに、優木くんに救われたんだよ・・・?
優木:・・・俺に、なにかできることはないのか・・・? 由香のために・・・
由香:心を救ってもらって、それなのに、もう一つだけ、わがままを聞いてほしい。
優木:俺はなんでもする! なんでも言ってくれ!
由香:それじゃあ、優木くんは、私のことを忘れちゃうけど・・・、三月まで、ずっと、友達でいてください・・・!
優木:そんなの、言われなくてもだ! まだまだ、時間はある! もっとたくさん思い出をつくろう! 記憶が消えても、いや消しきれないような思い出をたくさん!!
由香:優木くん・・・ありがとう・・・!
(暗転)
(明転)
☆優木:それから、俺たちは夏休みの間、魔法使いの美穂さんのお手伝いをする合間に二人で時間をすごすことも多くなった。一つ一つの経験が最初で最後になる。そんな時間を俺は大切に、二人で楽しんでいるはずだった。
花火の音がする。
椅子に座っている優木と由香。
優木:た~まや~!
由香:ふふ。私、花火見て、た~まや~って言う人初めてみたよ。
優木:そう?? 俺は花火大会にくると毎回言っちゃうけどね~!
由香:毎回、か・・・。優木くんは、また私と一緒に花火大会に行きたい?
優木:え・・・。どうしたの急に、それは、行きたいよ、でも最初で最後かもしれないって思うと、この時間が、とても大切にも思えるんだ・・・
由香:そっか、私はね、最後なんて嫌だよ絶対に・・・
優木:え、ごめん由香、花火でよく聞こえなかった!
由香:ううん、花火に興奮してる優木くん、子どもみたいでかわいいね。
優木:子どもじゃない! 男にかわいいって言わない!!!
☆優木:そう俺は本当に子どもだったんだ。由香が心の中であることを決心しているなんて、気づきもしなかった。
(暗転)
(明転)
優木の部屋。机が一つ。そして後ろにくまさん。
優木:ふぅ~明日が夏休み最後か~。今年の夏は、いろんなことがあったなぁ。
優木:新学期からは、学校でも、由香とたくさんの思い出も作るんだ。よ~しがんばるぞ!!
くまさん:あーあ💛 もう一人はしっかり自分の考えを決めたのに💛 こっちはなにも気づいてないなー💛
優木:ん、なんだ、また声が・・・ってくまさん! いつからそこに!!!
くまさん:僕はいつでもどこにでもいるよ~💛
優木:どこでもって・・・。くまさん、何しに来たんですか??
くまさん:はぁああ!? 何しにじゃと!?
優木:ぐあぁ、殴ることないじゃないですか!?
くまさん:バカたれえの鉄槌じゃ!!!
優木:鉄槌って、なんでですか!
くまさん:由香ちゃんのことだぁ。なにも、気づかんかぁ!?
優木:由香のこと・・・??
くまさん:はぁこれはおおバカじゃのう・・・。が、わしはやさしいからのう、ガキのお前に一つ教えておいたる・・・
優木:は、はぁ・・・
くまさん:由香ちゃんの魔法使いになる時期が早まった。正確には明日、由香ちゃんは魔法使いになる。
優木:!!! え、なんで、そんなこと一言も・・・!?
くまさん:これは由香ちゃんから美穂への要望だそうだ、幸い由香ちゃんは魔法使いになるために、友達、深い関係を築かなかった。卒業と比べても、夏休み後なら、そこまで記憶消去の影響が少ない。そして、その覚悟から。魔法王様が特例を許可した。
優木:なんで、そんな急に! まだまだ思い出はたくさん・・・!
くまさん:それがおおバカ言うとんじゃ!!!
優木:え・・・
くまさん:記憶を失う方は楽でいいのう! じゃが、由香ちゃんには記憶が残る! お前さんとの楽しい楽しい記憶が! それは確かに大切だぁ! が、同時に辛さも増大する! もしかしたら、心が壊れてしまうかもしれねぇ! もう二度と戻れないかもしれない記憶だからじゃ!!
くまさん:あの子はいま記憶を消去させ、次にお前と出会える奇跡にかける覚悟をしたんじゃ! 魔法使い側から接触するのは情が乗り移ったとして御法度だからのう! お前が自分を見つけてくれると信じて、心を壊さないようにしたんじゃ!!!
優木:そんな、由香・・・自分勝手だ・・・! わがままを聞いてほしいって約束したのに・・・
くまさん:あの子はお前には決して言わんぞ。さよならはしたくないって言うとったからなぁ。たしかに自分勝手ではあるかもしれんのう。じゃが、それを許すのもオスの役目。お前さんへの思いが予想以上に大きくなったんじゃないけ? それに・・・
くまさん:男なら、ただ黙って見送るわけにもいかまいに? 魔法使い就任式は、例の一通りの少ない廃墟で、午後一時に行われる。それだけじゃ。あとは自分で決めろう。
優木・・・!
くまさん:邪魔したのう。
くまさんが舞台からはける。
優木:俺は・・・バカだ・・・。
優木:俺は、楽しい記憶をたくさん作って、由香の心の中に残ってくれればいい、なんて、ずるい気持ちが心の中にあったんだ・・・
優木:それで、由香の気持ちに気づいてやれなかった・・・
優木:俺も、記憶を失った後の奇跡を信じてたんだ・・・そうやって、由香に全部押し付けてた・・・俺がしなきゃいけないのは、失うたくさんの思い出もつくることより、いままでの思い出をなくさない方法を考えなきゃいけなかったんだ・・・!
優木:明日の午後一時・・・! 何か方法はないのか・・・! 考えろ俺!! 今まであったこと、記憶、思い出を全部、思い出せ・・・!
優木:・・・! これに、かけるしかない・・・!
(暗転)
(明転)
一通りの少ない廃墟。
由香と、美穂、くまさんがいる。
美穂:そろそろ、時間だな、由香。後悔はないんだな。
由香:はい、本当を言えば、優木くんにこのことを話さなかったことを謝りたいです。でも、それは、奇跡が起きてからです。
美穂:決意は固いようだな。それでは魔法使い就任式を行う。くまさん、憑依!
くまさん:わかってるよ~💛 魔法王様、憑依じゃけん!!!
由香:これは・・・
美穂:魔法王様はお忙しくてな、いつも、魔法精霊に憑依してお仕事を行うのだ。いらっしゃるぞ・・・!
くまさん:ぼくまほうおう! 就任式にきたよ!
由香:これは・・・猫型ロボットの口調に似ていますね・・・
美穂:言うな・・・
くまさん:そのこが、あたらしいまほうつかいだね? いろいろたいへんだったね、これからもいろいろあるかもだけど、がんばろうね?
由香:はい、ありがとうございます!
くまさん:よろしい、では、このものをまほうつかいに~
優木:待った!!!!!!
舞台そでから優木が走ってくる。
由香:優木くん・・・! なんでここに・・・!
美穂:優木、邪魔をするな・・・
優木:ほんのすこし時間をください! すこしでいいんです!
美穂:無駄だ。お前の考えはお見通しだ、どうせ、自分の記憶を消さないように、自分も魔法使いにしてください。とでも言うつもりだろう?
優木:・・・!
美穂:残念ながらだれもが魔法使いになれるわけではない。素質も必要なんだ。私はこの夏の間、お前の素質についても調べていた。しかし、お前に素質はなかった。
くまさん:ぼくどうすればいいの? まったほうがいい?
美穂:いえ、続けてくださ・・・
優木:違います! 俺が考えているのは、例外のもう一つです・・・!
美穂:!? もう一つだと??
優木:はい。家族であれば記憶は失われないそう言いましたよね・・・
美穂:確かに、そうだが・・・
優木:由香!!! 少し聞いてくれ! そして、答えてくれ!
由香:・・・! 優木くん・・・!
優木:辛いこと全部押し付けてごめん! 気づいてあげられなくてごめん! でも、俺は、俺は由香のことが好きなんだ! 俺と・・・俺と、結婚してくれ!!!
由香:・・・優木くん!
優木:ふざけてると思われるかもしれない、ガキのくせになに言ってるんだって・・・でも、俺は本気だから・・・!
由香:・・・私も、私も優木くんのことが好き! 大好きです・・・誓います!
美穂:何を・・・、まさかこれで家族になったとでもいうつもりか・・・!?
優木:昨日、調べました。俺の年齢で、結婚はできない。でも婚約はできます。これを家族と呼んでもらえるのかはわからない! でも、俺はこれにかけます! 大切な就任式を邪魔して、すいませんでした!
美穂:お前は・・・相変わらずおおバカ野郎だ・・・! 魔法王様、続けてください・・・
くまさん:すごいねぇ、ぼくかんどうしちゃったよ。きみたちのあいがほんものかどうかは、あとはまほうがはんだんしてくれるよ。しんじよう。まほうのちからを。
優木:はい!
由香:はい!
くまさん:ではつづきを、まほうつかいしゅうにん、おめでとう~!
(暗転)
(明転)
一人優木が道を歩いている。
優木:もうだいぶ寒くなってきたなぁ。
優木:街にカップルばっかりいるとおもったら、きょうはクリスマスイブか・・・俺はひとりだよう・・・まぁ受験生だから、仕方ないよ、ね??
通行人が足を滑らせ転ぶ。
通行人:ううう・・・
優木:!! 大丈夫ですか!? いまの転びかた頭打ったな。 まずは頭を無暗に動かさないで、安全な場所に移動、そこで救急車を呼ぼう! この場所は、グーグルマップ! よし!
由香:癒しの雪よ、この者を救わん・・・
優木:・・・! これは魔法・・・!?
由香:これでもう大丈夫だよ? 優木くん?
優木:由香・・・! いつこっちに!?
由香:さっきだよ? 研修期間だったんだ。でもクリスマスまでには間に合ったでしょ?
優木:ああ、間に合った、間に合ったよばか!
由香:急に抱き着かないでよ・・・。もう優木くんは子どもだなぁ。
通行人:うあわ、いちゃいちゃカップルだ、いこいこ・・・
通行人起き上がり舞台からはける。
優木:俺の進路が決まったこととか、話したいことたくさんあるけど、とりあえず・・・
由香:なあに?
優木:おかえり、由香。
由香:うん。ただいま! 優木くん!
二人でいろいろしゃべりながら舞台そでにはけていく
照明は少しずつ暗転
おしまい
魔法使いを忘れない 木春凪 @koharunagi
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