第13話

 とにかく私は自分に『待て』と言い聞かせた。一つは、夢から目覚めるのを。 まだ私は希望を捨てた訳ではなかった。


 もう一つは、何かが起きることを。エリザベトの婚約破棄や断罪処刑につながる何かが起きるのを。もちろん私は待ち望んでなんかいない。何も起きないのが一番良い。私の『待て』とは、じっとしているということである。


 何にしろ、私には他にしようがない。

 ワンワンに言う『待て』と同じである。


 いや。

 あった。

 チョコやフルーツに舌鼓を打ち、ワインにほろ酔うことは。

 御免ね、ワンワン。やっぱり違ったね。


 ただ、私はこれが夢かゲーム世界かを判断する一つの決め手には、ようやく気付くを得た。それにも、また時が必要であった。『季節の移ろい』である。


 私自身は、生まれてこの方、自分の夢の中で、これを実感することはなかった。もちろん、夢の中でも暑かったり寒かったりする。でも季節が移ろうということはなかった。理由は良く分からない。夢とはそうしたものだと言うしかない。


 そしてもしここで季節の移ろいを実感できれば、ここは乙女ゲームの世界であると断言しても良い。そしてそれは、夢であることを断念することでもあったが。



 そうして、私は待ちつつ、季節を観察した。どうも私が来たのは、春から夏にかけての時期だったようである。それから気温はじわじわ上昇した。


 3ヶ月たち、恐らく今が盛夏である。ただ日本の夏の如く、蒸し暑いということもなく、また最高気温もそれほど上がらなかった。


 人物の名前から推し量ると、多分このゲームは、ヨーロッパのオーストリアとかドイツ当たりをイメージした世界なのかなと想う。私は行ったことがないが、何となくそこらへんの夏は、こんな感じなのかなと納得する。ゲームにすんなり入るためには、こうした納得は大事なんだろう。

 

 何でこんな関係ない話をしているのか?。

 だって結論を言いたくないもの。

 でも、言わなきゃあ。

 フー。

 ため息ついても、元気は出ないぞ・・・・・・と。


 そう、季節は移ろったのである。

 これでゲーム確定である。

 私も乙女ゲームに移ろった。なんちって。

 とふざけても、全然楽しくないぞ・・・・・・と。


 ただ悪いことばかりではなかった。

 この3ヶ月、何にも起きていない。

 もしかすると、このままずっとと想う。

 そしてそれに根拠がない訳ではない。


 えへん。偉いぞ。私。

 

 私は再び気付いたのである!

 

 私が転移したことにより、エリザベトの設定が変わったのである!

 

 そうなのである!

 

 エリザベトは身持ちが堅いのである!

 

 王太子の親友たちとも逢い引きしていないのである!

 

 それどころか、誰ともしていないのである!

 

 ゆえに、婚約破棄がなされることはないのである!

 

 ゆえに、その先の断罪処刑もなされようがないのである!

 

 まさに、ラッキー、ラッキーなのである!

 

 私のすこぶるつきの男へのモテなさが、こんなところで、役に立とうとは・・・・・・びっくり仰天である!

 

 まさに、それが私の命を救い、同時にエリザベトの命を救うのである!




 本話で第1章は終了です。ここまでお読みくださり、ありがとうございました。是非、第2章もお読みいただければと想います。

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