第11話

 5日目の朝。


 私はやはり大きなベッドの上におった。もはやゴロゴロする気も起きぬ。初日の私が、とんでもなくアホウに想えて来る。


 ところで、乙女ゲームに転移する話では、転移した相手の記憶を受け継ぐものが定番のはず。ところが私の中には、どこをどう探しても、エリザベトの記憶は無かった。それもあって、というか、5日めともなると、ただそれにすがって、私はこれが夢であることに、まだいちるの希望をつないでおった。



 ただ、すごく残念で、すごく嫌だけど、夢でないのか、とも正直想う。とにかく、それに備えないと。

 これまで分かったこと。まず、エリザベトは処刑間近でないし、婚約破棄さえされておらぬこと。そして一晩と二日間、ラブレターを探したにもかかわらず、一通も見つけられなかった。


 私の頭の中は『どういうこと?』が渦巻いておった。


 エリザベトは、寝室以外にラブレターを詰め込んだ箱を隠しているのかも。でも、それなら、もう私にはお手上げである。ラブレターの方は、明らかに、もう行き詰まりであった。



 こうなってみれば、本来、頼りになるはずのエリザベトの記憶が無い以上、誰かに聞くしかなかった。無論、父上には聞けない。


 その相手といえば、召し使いさんのみ。またまた繰り返すが、私と同じくらいの年。だから親近感もあるが、しかし何と聞けば良いのか?

『私にナイショの恋人、いた?』

 いかに間抜けな質問か、私でも分かる。



 色色と考えたあげくのこと。

『もし私が恋人に会うなら、私が恋人のところに行くか、恋人が私のところに来る必要がある』ことに想い至る。

 偉いぞ。私。


 それで次の如く尋ねた。

「最近、私を訪ねて来た人、いた?」

 我ながら、これも間抜けな質問とは想う。


(忘れたふり。忘れたふり。エリザベトは忘れっぽいのだ)


「いませんわ。お嬢様は深窓しんそうの乙女。だからこそ、王太子様もお嬢様と婚約されたのです。エリザベト様のみさおを守り、王太子様へささげさせよ。そう、わたくしはお父上より厳命されております」


(げっ。あの親父。そんなことまで口出ししてんの)


ここで若い娘なら一気に嫌いになったかもしれぬ。しかし私はよわい40。娘のみさおを心配する親心も分かりはする。


(んっ・・・・・・みさお?)


エリザベトは処女なのか?


ものはついでと、その疑問をそのままぶつけることにした。時をあらためて問うには、明らかにハードルが高いと想われたから。

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