第9話

 箱一杯のラブレター。見つけ出すのに苦労することはないだろうと、たかをくくった私。


 だから、ご飯を食べる以外、何にも、本当に何にもすることがないのに、ぐうたらして、

 ――最初は昼ご飯を食べてからと想い、

 ――昼ご飯を食べたら食べたで、ついつい、うとうとしてしまう。


 そして晩ご飯の後に、ようやく探し出す。


 でもラブレターを見つける必要はない。


 箱。箱。


 ゲームの中では、箱には赤漆あかうるしが塗られておった。更には螺鈿らでんを散りばめて、天板には2羽の鶴が、4側面には各々異なる花が描かれておった。多分、ゲームを作った人が、洋風の乙女ゲームの世界に、和風をいく分混ぜ込みたくなったのだろう。

 

 いわば遊び心である。


 ただ、私にとってはこんな見つけ出しやすいものはないと想い、まず寝室を見回すが、無い。


 それもそうか。だって、この寝室には召し使いのおばさんも好き勝手入れるみたいだから。目につくところには置かないわよね。


 納得。納得。


 そう想い、

 クローゼット

――やっぱりエリザベトも女の子、たくさんの服にたくさんのクツ。


 押し入れ

――あんまり入ってない。


 まあ、女の子がまずは服とクツにお金をかけるのは、現代もゲームも、いや夢だって、そう現代も夢も余り変わらないのね。


 納得。納得。


 などとしている場合ではなかった。


 無い。肝腎要かんじんかなめの箱が無い。


 ほろ酔い気分とはいえ、一人では抱えられないほどの大きさ。しかも、デザインは赤漆あかうるし螺鈿らでん。他と見間違えるはずもない。そして見落とそうとしても、見落とせるものではなかった。


 ウソ。


 余りの結果の衝撃に、探し続ける気力も無くなり、この夜はこれでノックダウンの私。


 明日は素面しらふで朝から探そうと想う。箱が見つからないなら、ラブレターを探すまで。


 そう、心に決め、ベッドに入る。


 そして想った。


(いい加減、覚めていいぞ。私の夢)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る