第191話 提携・後編

「ここまでがAランクダンジョンを探索する前段階の話だな。何か疑問などあるだろうか?」

「ありまくりですよ。正輝と僕はまだ分かりますけど、他の《千紫万紅》のメンバーをAランクダンジョンの完全攻略に付き合わせるのは無理があると思います。危険過ぎです」

「確かにBランクダンジョンを二つ完全攻略してから、すぐにAランクダンジョンの完全攻略を目指して探索を始めるのは無謀と感じるかもしれない。しかし勝算はちゃんとあるんだ。《千紫万紅》のメンバーの内の五人がユニークギフト所持者だということだ。ユニークギフト所持者の成長力は凄まじいものがある。そのユニークギフト所持者の集まった《千紫万紅》だからこそ、鍛え方によっては、私達のトップチームにも引けを取らないパーティになると信じている」

「《Black-Red ワルキューレ》の世那さんと美紅さん、《東京騎士団》の加納さんと榊さん、それぞれのクランを牽引するお二方達のような存在に麟瞳と俺はならないといけないんですか?まだまだ全然俺達は足りてないです。とてもAランクダンジョンを完全攻略出来るとは思えません」

「別に私達のようになる必要はないが………これは世那にも言ってない私の考えであることを断っておくよ。私は正輝さんに会う前から、麟瞳さんがあっという間に私達を追い越してしまうかもしれないと感じていたんだ。クランの入団テストの時の、ゴブリンとオーガとの戦闘の話は聞いているだろうか?正直な話をすると、私は戦いながらも麟瞳さんはダメかもしれないと思っていた。戦闘後に生き残っているのを確認して嬉しかった、よくぞ生き残ってくれたと感謝したよ。私にとっても簡単な相手ではなかった、それを生き抜くことが出来るだけでも驚異的な事だよ。麟瞳さんはその戦闘の前に、岡山ダンジョンでの青いオーガと出会った話をしてくれたんだが、一年前まで荷物持ちをしていた麟瞳さんが、たった一年でゴブリンキングに一対一で勝つなんておかしな話だ。長年斥候としていろいろなダンジョンを探索してきた私を、探知することでは既に追い越していることにも驚いた。麟瞳さんの成長は、他のユニークギフト所持者と比べても異常なほど速いんだ。そして正輝さんの登場だ。麟瞳さんの正輝さんに対する評価は話半分に聞いていた。麟瞳さんと同い年であの戦闘を生き残った麟瞳さんより強いとは、世那級の化け物しかいないと思った。そんなのはありえないと思っていたんだ。それが現実に存在したんだ、初めて戦う姿を見てビックリしたよ。正輝さんも私達を追い越してしまうかもしれないとその時に思った。その二人が中心になる《千紫万紅》だが、私達のように最初から圧倒的な存在としてパーティを牽引する必要はないと思う。まだ二人は若いんだ、パーティで戦いその戦闘の中で一緒に成長していけば良いと思っている。Aランクダンジョンをパーティで探索しながら成長していけば、十分Aランクダンジョンの完全攻略に手が届くと思っている」


 本当に僕達は、短期間でそこまで成長できるのだろうか?


「例えばですけど、世那さんと美紅さん、それに加納さんと榊さんがパーティを組んで探索すれば、Aランクダンジョンをもっと確実に完全攻略出来ると思うんですが、どうしてそうしないんですか?お互いに認め合っていますし、仲も良好そうですから有り得る話だと思いますが」

「麟瞳、それは有り得へんわ。ウチはAランクダンジョンは、《Black-Red ワルキューレ》のメンバーだけで完全攻略すると決めとるわ。加納のところもそう思うとる筈や。Sランク探索者になるのは今まで一緒に頑張ってきたメンバーでなると決めとる。アンタも記者会見で言うとったやろ、《千紫万紅》のメンバーでSランク探索者になるって、そこは変えたらあかんで。まあSランクダンジョンの探索は別問題やけどな」


 確かに記者会見の最後に言った覚えがありますね。こんなに早くチャレンジするとは想像してなかったですけどね。


「では、続きの話をさせてもらうよ。Aランクダンジョンは《Black-Red ワルキューレ》のトップチームと《千紫万紅》の二つのパーティが共同で探索するような形がベストだと思っている。うちのメリットは、当然この携帯ハウスが使用できることだ。十分な休息を取りながら攻略を進めることが出来るなんて、今までは夢のような話だったが、この携帯ハウスはそれを可能にしてくれる。《千紫万紅》にとってのメリットは、私達と探索することによる安全の確保と、探索中も私達の指導を受けることが出来ることだ。《千紫万紅》には成長の余地がまだまだたっぷり残っている。私達がその手助けをしながら攻略を進めて行くことで完全攻略まで到達してもらおうと思っている。最初は京都のAランクダンジョンが良いと思っている。京都のAランクダンジョンを一年半ぐらい、あるいは二年以内に完全攻略出来れば良いと考えている。ここまでの話で何か疑問などあるだろうか?」


 うーん、確かに魅力的な話だと思うが、《千紫万紅》のメンバーを危険な目に合わせたくはないな。携帯ハウスを《Black-Red ワルキューレ》さんに貸せば良いような話に思えるな。


「あのー、《千紫万紅》が《Black-Red ワルキューレ》さんのトップチームと一緒に探索しなくても、僕が携帯ハウスを《Black-Red ワルキューレ》さんに貸し出せば良いように思うんですが、違いますか?」


 美紅さんが何か考え込んでいる。どうしたんだろうか?


「この話はAランクダンジョンを完全攻略してから話そうと思っていたんだが、麟瞳さんが他のメンバーの安全を危惧しているのも分かるので、今話させてもらうよ」


 ん、何か重大な話のようですね。


「魔物が溢れるのはAランクダンジョンからだけではないんだ。Sランクダンジョンも完全攻略しないと、魔物が溢れてきてしまう。探索者省は期限を言わなかったが、おそらくは今から八年後から十年後の間だと思う」


 はっ、それは無理でしょう。あの青いオーガのいるダンジョンを完全攻略しないといけないって、しかもAランクダンジョンを完全攻略してから四年しか猶予がないって無理でしょう。


「麟瞳さんの顔を見れば、言いたいことは分かるよ。あの青いオーガは圧倒的な強さを持っている。それを倒して完全攻略しなければならないとは、今の段階では考えられないと思っているのだろう」


 図星です、美紅さんも同じように考えているんですね。


「その為にも《千紫万紅》にAランクダンジョンを完全攻略してもらいたいんだ。勿論世那や私、それに加納さんと榊さんも今のままでは通用しないだろうが、Aランクダンジョンを完全攻略する間に強くなると約束しよう。麟瞳さんと正輝さんにも急速に成長してもらわないといけない。五つのAランクダンジョンを完全攻略した後は、加納さんと榊さんに世那と私、そして麟瞳さんと正輝さんを加えてパーティを組んでSランクダンジョンに挑戦しないといけないと思っている。世那の言ったように、今まで一緒に探索してきたメンバーでSランク探索者になるのも大切なことだが、別々のパーティで力を付けてから六人がパーティを組んだ方が、確実に強くなれると思っているんだ。そして私達六人で大阪のSランクダンジョンを、自衛隊には戦力を集めてもらって東京のSランクダンジョンを完全攻略するしかないと考えている」


 正輝と僕が、世那さんや美紅さんと同等の力を付ける為のAランクダンジョンの探索ですか。青いオーガは僕に強くなれと、ずっと言い続けてきた。そして僕が気絶している間に、Sランクダンジョンに挑戦して来いと言っていたらしい。覚悟を決めないといけないのかな。


「正輝は今の話をどう思うんだ?」

「日本がなくなるなら、やるしかないかなと思っている。他の国でも同じような事が起こりそうだしな。世那さんや美紅さんと肩を並べられる探索者になれるかは疑問に思うが、俺達がそれぐらい成長しないといけないんだろ。やるしかないだろう」

「僕はまだ日本で206位だよ。シングルナンバーの探索者になるって、まだ夢のような話だけどね。青いオーガも僕を待っているようだし、正輝と二人で、違うな、《千紫万紅》の皆と一緒に強くなっていこうか。でも、《千紫万紅》の他のメンバーの安全は最大限保障してください、お願いします」

「安全の保障と、強くなるための協力は約束するよ」


 こうして《花鳥風月》は《Black-Red ワルキューレ》さんと、ダンジョンの探索で提携することになった。もう少し話し合っておくことはあるけどね。









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